「身の上話」 佐藤正午

 恐怖は恋と似ているか。逆か。恋は恐怖と似ているか。
 …似ているかもしれない。

この体が熱を持った感覚、おさまったかと思うと、ときおりぶり返して悩ましに来る感覚は、やっぱり何かと似ているようだ。この感覚は恐怖とはまったく別のものと似ているようだ。

それはたぶん、恋をしたときと似ている。


 物語のパーツのすべてがあるべき場所を持っており、滑らかに動いてそれぞれのその場所に隙間なく収まっていく。滑らかすぎて気持ち悪いくらい、一切の無駄もなく伏線は回収される。何か余分があったとしても、それはあるべき余分なのだ。
 透徹した理屈っぽさと、如何ともしがたい身体的な激情の両方が共存していて、それが人間なのであると納得する。

 というようなことが、佐藤正午の小説を読むときに始終思うことで、どれもこれもいつも、うますぎて怖い。気持ち悪いくらいだ、って書いたけど、もちろん本当は気持ちいい。
 わー、すごい、すごいなー、って、こちらとしては普段より少し馬鹿になる。かなわんなー、ってなる。いや、だいぶ馬鹿っぽいな。


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