見出し画像

『ラークシャサの家系』第6話

◇「還暦のベーシスト」

 翌日の朝、会社の正門で待ち合わせ。今日は井村明子の聞き取り再挑戦。
オレは少し早めに来て、車の中で待っていた。
”ボボボボボ・・・バウンッ!ボボボボボ・・・”
今日もB16Aは絶好調。直4らしからぬ低音を奏でている。

「すみません。お待たせしましたか?」
「いや、さっき来たところだ。ところで昨日の夜、メールで送ったあのトレーナーの件、話聞けそうか?」
「えぇ、一応、プロダクションとはアポがとれました。」
「それならまず浦和か?」
「えぇ、ちょっとルート的には回り道になるけど、まずソッチを先に片づけたほうがいいわね。できればトレーナーの当選者に会えればいいけど・・・2人がアチュートである可能性も否めないから・・・まぁそっちは、とりあえずギリギリまで粘るとして、16時くらいまではいけるはず、明子ちゃんのほうは、学校が終わってからで良いから、移動含めると・・・うん、このほうが効率が良さそうね。」
「七瀬参事官てさ、デートの時、きっちり計画しないと気が済まないタイプでしょ?」
「な・なにか・・・それが本件と関係がありますでしょうか?」
「いや、何でもない・・・(けど、面倒くせぇ)」
「では、浦和のプロダクション・・・まずそちらへ・・・ちょっと待ってくださいね・・・ルート検索します・・・ちょっと・・・あれ?どこだ?」

 そのくせ鞄の中はぐちゃぐちゃ・・・この様子じゃ、スマホが見つかるのは昼になりそうな感じ・・・しょうがないな・・・
「ヘイ!アーク。浦和区常盤1丁目○-○○ ライトビルまでの最短ルートは?」
”ルート検索しますね・・・”
”有料道路の使用で1時間11分。有料道路なしだと1時間44分です。”
”どちらを選択しますか?”
「どっち?」
「・・・なしで・・・」
「有料道路なしで。」
”了解です それでは案内を開始しますね”
「へーい! じゃ、アークよろしく!」
”こちらこそ!”

「ところでさ、あの茂木さんって何者?今回の推理?オタク的な発想というか、考察というか・・・オタク関係の知識レベルがすごいよね? あと、この技術力の高さ・・・もっと便利でナイトライダーみたいなのが良いんだけどって言ったら、アークっていうAIを乗っけてくれたんだけど、これって、そんな簡単なことではないでしょ?」
「えぇ、あの茂木さんに限らず、鴛海さん、紗々ちゃん、3人に言えるのですが、この3人は、ヴァイシャの中でも群を抜いて知識レベルの高い個体です。特に茂木さんは別格で、武蔵ダイカスト工業さんだけでなく、インターグリッドさんの基盤技術研究所で客員研究員を兼務しています。また、いわゆる仕事とは別に、シゲッキーという名前で、”note”っていうブログみたいなサイトでアイドルとかアニメ関係の評論をやってたり、独自のサブカル論を本にまとめたりしているみたいですよ。」
「ふーん・・・シゲッキーって何か聞いたことがあるな・・・オレたち鬼はさ、色々な能力があって、それをうまく活用して人間とちゃんと共存している連中がいるって知ってはいるけど、茂木さんもそうなんだ・・・けっこうさ、芸能界とかは多いじゃん。」
「えぇ・・・芸能関係は我々も管理がしやすいですから・・・」
「見てたらさ、だいたいわかるんだけど、最近だとあれがそうだろ? なんか、還暦を売りにしているベースのねーちゃんがいるじゃん。何とか獄門同好会?とかいうバンドのさ。還暦をカミングアウトして、えらくニュースになってたアレ。なんか60過ぎてからキックボクシング始めたとかさ、インタビューで言ってたけど、クシャトリヤだったら余裕じゃん?あれそうでしょ?」
「まぁ・・・守秘義務があるので本人の同意なしには・・・」
「あとさ、あれはすぐわかったけどさ。女優さんで全然年取らないのが何人かいたでしょ。人間が色々な手段で年取らないように足掻いているのとさ、オレたちみたいに本質的に年取らないのでは、ぜんぜん違うからさ、すぐわかっちゃうんだけど、意外と人間は気付かないんだ・・・とか思った。」
「中には鼻の利く雑誌記者がいますよ。キダさんには、まだ依頼したことはないですけど・・・まぁそのうち依頼することなのでお話ししますが、そういった記者たちには政府が鬼の力を使って修正をします。お互い公にしてメリットはありませんから・・・」
「七瀬参事官てさっ・・・そういうところ怖いよね。」

”そろそろ目的地の浦和区常盤1丁目○-○○ ライトビルですよ!”

「へい着きましたぜ。」

”ガチャ、バーーン”
 そんなに強く閉めなくても・・・

”ガチャ、バン・・・”

”ピンポーン、ピンポーン”
「はい、あひるプロダクションですけど・・・」
「今朝がた連絡させていただきました、内閣府 大臣官房 総務課の七瀬ですが。あひるっ子トレーナーの件で来ました。」
「あぁ・・・社長から聞いています。少々お待ちください。」


「・・・ということで、この二人、野川桜子と松下玲子のトレーナーは、こちらの方々が購入されたはずですが・・・」
「さいたま市桜区西堀10丁目8X−XX、斉藤和也。さいたま市中央区大戸6丁目○−○○、上野英。この二人か・・・桜区と中央区ね・・・」
「あぁ、これ区は違いますけど、いわゆる”南与野”っていうところで、すぐ近くですよ。ほぼほぼ同じ地区ですね。まぁ、あひる坂のファン自体が”さいたま市”に固まっていますから、さほど珍しいことではないですけどね。」
「なるほどね・・・」
「我々も実際、区で言われてもピンとこないんですよねぇ。合併してずいぶん経ったんですけど、やっぱ浦和とか、北浦和とか、与野とか大宮って言われて初めて”あぁっ”てなりますね。与野なんか住所から完全に消えましたからね。」
「へぇーそうなんですかー(興味ねぇー)で、その南与野ってのは?」
「あぁ、常盤からすぐです。10分もあれば着くと思いますよ。」
「ご協力、ありがとうございました!」

 スマホですぐに確認してみる。ここから南与野駅までは2.5km程度、車で7~8分、確かに近い。加えて南与野の二人の住所は、区は違うが直線距離にして400~500mぐらいしか離れていない。ほぼ同じ生活圏だ。
 仲良しのアチュート同士が、超ローカルアイドル”あひる坂46”のファンになって、わざわざハガキを書いてまでして、”究極の推しメングッズ あひるっ子トレーナー”の購入権獲得に応募するのか?とは思うが・・・
 奴らもそれなりに進化してて、人間社会のルールのようなものを理解しつつあるのかも・・・と勝手に想像しながら、南与野へ急くことにした。

 ま、いずれにしても、これで奴らのねぐらはわかった。
あとは狩るだけだ・・・


◆最初から読む

◇第7話へつづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?