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新興宗教と土地の因縁 ④

我が家は新興宗教に土地を奪われている。
といっても、それは随分前のこと。
明治生まれの曽祖母の時代の出来事だ。
※うちは信者ではない

会ったこともない曽祖母の遺影は、表情がとても険しく、曽祖母にまつわる話も土地を奪われたことへの憎しみばかりだった。

件の新興宗教は、我が家のすぐそばにある。
以前は信者も多く栄えていたそうだが、今は信者が減る一方だと聞いている。
ただ、昨今ニュースを賑わせているような新興宗教とは違い、特に問題があるわけでもなく、地域とうまくやっているように思える。

現代では。


しかしその新興宗教が創設される際は、うちに限らず、近隣の家から土地を奪っていったのだそうだ。奪った土地は、新興宗教の関係者に分け与えたという。今現在において、うちの近所でそこそこ大きな土地を持っている人は、その宗教と何かしら関係があったとも聞いたことがある。

全て曽祖母にふりかかった話として、生前の母から何度も聞いていた。
母自体、子供の頃に曽祖母から直接話を何度も何度も聞かされたのだという。

幼い子供に何度も何度も話すほど、曽祖母の土地を取られたことに対する怒りは凄まじかったのだろう。曽祖母が死の間際に残した遺言は「自分の遺影を〇〇家の方に向けてくれ。睨み続けるから。」という、ゾッとするようなものだった。

曽祖母が睨み続けるといった〇〇家というのは、新興宗教の関係者の家だが、今は信者というわけではないらしい。設立の際に何かしら関わった、ということのようだ。

〇〇家は、うちの隣にある。
幸いなことに、曽祖母の時代のいざこざは子孫には引き継がれておらず、母は良好な関係を築いていた。ただ遺影だけは〇〇家に向いたままだった。
気にはなっていたが、どうも向きを直す気がしない。そんなことを言っていた。

遺影の曽祖母は、しかめっ面の険しい顔をしている。
身なりも小綺麗ではなく、そのまま農作業でもしそうな感じだ。
そんな明治生まれの曽祖母は、識字率が低かったこの土地で、女性では唯一と言っていいくらいの読み書きのできる人間だった。

「騙されて嫁いできたのよ」

そんなことを母が言っていた。
実際に曽祖母の実家はとても裕福だった。私が子供のころはまだ両家に交流があったのだが、子供ながらにうちとは不釣り合いな気がしていた。
どんないきさつがあったのかはわからないが、かなり格下の家に嫁がされてしまったのだそうだ。
読み書きができない農民が大半の村で、曽祖母はかなりプライドの高い人だったのではなかろうかと、遺影を見て想像したことがある。

それでも、曽祖父との関係は良好だったそうだ。
子供は4人。男2人に女2人。
本来ならば、慎ましく幸せな生活がずっと続いていく予定だったのだろう。
曽祖父が若くして他界しなければ。

曽祖父が30代で死去してから、曽祖母の苦難と怒りが始まる。

曽祖父はお酒が大好きな人だったそうだ。
そのお酒で体を壊し、若くして他界したと聞いたのだが、死んだ直後に曽祖父の借用書を持ってきた人物がいた。
「ぜんぞう」という名前らしい。
すぐさま借金のカタに土地を渡せという。
借金のことは寝耳に水で、持ってきた借用書を見ても、日付すら入っていないようないい加減なものだった。
農村では、寡婦など相手にされない。
その家に成人の男性がいなければ、軽くあしらわれてしまう。
時代が経っても、農地がマンションに様変わりした今でも、時代錯誤の頭をしたじいさまたちに何度も泣かされたご近所さんを見かけた。

「借金のカタに土地を差し出せ」というぜんぞうに対し、借用書がいい加減なものであることを伝えても取り合ってくれない。
困った曽祖母は実家に掛け合い、お金を用意することにしたのだが、ぜんぞうは「お金はいらないから土地を差し出せ」と言う。

農家にとって、土地は何よりも大切なもの。
それを奪われたらたまらないと、曽祖母の実家も力を貸してくれたらしいが、何をどうしたのか、結局土地の多くをぜんぞうが奪っていってしまった。

ぜんぞうが奪った土地は、うちの土地だけではなかった。
どんな手口で奪っていったのかは定かではないが、かなり手荒く奪っていったのだという。

奪われた土地は、新興宗教関係のものとなった。
うちから奪った土地に住んでいる〇〇家はぜんぞうと親戚関係にあたると聞いたことがある。
実際に奪ったわけではないが、奪った人物と親戚関係ならば、曽祖母の怒りも向いてしまうのかもしれない。

きっと曽祖母の怒りだけではないのだろう。
ぜんぞうの最期はとても惨めなものだったと母から聞いた。
多くの恨みを買った当然の末路なのかもしれない。

ぜんぞうが惨めな最期を迎えたからといって、曽祖母の気持ちが安らぐかといえばそういうわけではなく。
当事者たちがこの世を去っても、土地に染み付いた怒りや憎しみのエネルギーはいつもでも残り続けていた。








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