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人生とは、夜の井戸におぼろげに映る淡い月。月夜に井戸を覗き込むように、そっと自己の深淵…

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人生とは、夜の井戸におぼろげに映る淡い月。月夜に井戸を覗き込むように、そっと自己の深淵を窺う。エッセイ、シナリオ、小説創作を通して人間とは何か、人生とは何かを探究する思索家。

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    試作したショートシナリオ一覧

最近の記事

気滞

気持ちの落ち込みが激しかった年末年始だったが、ようやく立ち直れそうな気がしてきた。 パニック障害の一歩手前である。強烈な不安感に押しつぶされそうになって、たまらず薬局に駆け込んだ。 東洋医学では、どうやら「気滞」という体質らしい。「半夏厚朴湯」という漢方がよく効いて驚いた。すっと不安が遠のいて心が落ち着きを取り戻すのを明瞭に感じることができた。 それでも何かあると一晩中眠れなくなって、耐えきれず最終的には妻に弱音を吐いた。 「いつでもやめていいんだよ」と言ってもらえたこと

    • 寄せる老いと滅びへの予感

      ついに4月になった。ようやく春がきたのかな。 先日自分の姿を客観的に眺める機会があったのだが、すっかり老け込んだ雰囲気になっていて驚いた。老いと疲れが全身から滲み出ていて、およそ晴れの舞台に立った人間らしくない。しょぼ。 この一年がそうさせたんだな、としみじみと感じ入っている。本当に苦しく大変な一年だった。 何が大変って・・・価値観が根底から合わない人と多くの時間を共有し、その人をとことん受容し、その人から「いちばん話を聴いてくれた」と言ってもらうまでには、ここまで心身

      • 人っぽいな

        心から祝福したいと願う後輩の結婚式に招待された。自分にとっては絶対ありえない奇跡で、こんなことが自分の人生で起きるのかと殊の外嬉しかった。招待してくれた後輩はもちろん、私以外に呼ばれた人たちがまた親しみを感じる人ばかりで、これもよかった。その環の中に入れてもらえて純粋に嬉しかった。 そんな中でふと思い出した言葉。 「私を会員にするようなクラブには入りたくない」 若い頃に観た映画「アニー・ホール」の中でウディ・アレンが言ってた言葉で(実際にはグルーチョ・マルクスの言葉らしい

        • 思索の愉しみと人生のネタバレ

          一年の締めくくりで何か書いておこう。 今年は多難な年だったな。とポツリ。 未来に希望を感じ取れなくなったのは生まれて初めてかもしれない。ずっと仕事のせいかと思ってたけど、違った。 つまるところ仕事など大した問題ではなく、価値観が異なる人との関係に切実に悩んでいた。特に家族との心のつながりって自分にとって大切で、人とつながってる感覚が得られないと未来への希望さえ見えてこないんだなと痛感した。 これまでどうやって希望の光を見いだせていたのか不思議なくらいだったけど、要は大

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          10本

        記事

          心を動かすコンテンツ最強説と内省

          前回の更新から随分と間が空いたので、近況を少し整理しておこうと思う。 ネガティブな話は後で書くとして、娯楽系から。最近日本のアニメやYoutubeにはまっているのだが、人の心を動かすコンテンツを創り出せる力こそが最強だなと改めて感じている。 娘に誘われて一緒に観に行った「ONE PIECE FILM RED」は、才能ある若手アーティストやクリエイターの尖ったエネルギーを存分に感じることができて、心が満たされた。「ONE PIECE」はあんまり詳しくないのだが、Adoの繊細で大

          心を動かすコンテンツ最強説と内省

          置かれた場所で咲く

          行動が苦手で具現化力の乏しい私だが、ここのところ珍しくアウトプットに精を出している。アウトプットに忙しすぎて、noteを更新する余裕もないのだけど、記録の意味で今感じていることを書き散らしておこうと思う。 学習のフェイズが一巡し、それを周囲に波及させていく時期に来ているのかな、とも思う。 組織内外で新たな役割を担うことが増えてきていて、気づくと自分とは縁遠かったマネージャーとかディレクターとかファシリテーターといった役回りを背負って活動していて、ふと我に返って愕然とする。

          置かれた場所で咲く

          人の内面はみんなキレイだ。

          まるで何かのキャッチコピーのようなタイトルだが、ここ一週間ばかりで立て続けに経験した「人との対話」が素晴らしすぎて、それをしっくりくる言葉にまとめるとこういうことかなと感じている。 中には人の幸せを不快に感じる方もいるであろう。 自己満足だけの痛い文章なので、そんな方はこの先は読まないよう注意されたい。 恥ずかしすぎて後で失笑して削除する可能性が高いけど、予防線を十分に張った上で、今感じていることを言葉にしておきたいと思う。 自分が関与することで、人の内面がキラキラと光

          人の内面はみんなキレイだ。

          自他分離と自他融合

          年末にも関わらず、仕事の山に埋もれている。例年受けていた仕事を他の人にどんどんお願いしているのに、仕事の量が一向に減らないのは、品質へのこだわりが妙に出て、一つひとつの仕事に費やす時間が三倍くらいに増えているからかもしれない。 娘と金沢に来ているが、どこにも出かけたくないというので、相変わらずホテルの部屋に籠もっている。訪れてみたかった西田幾多郎記念哲学館も、鈴木大拙館も今回は諦めるしかない。 金沢には姉弟の家族が多く住んでいるが、私が来たことは誰にも言っていない。義理を

          自他分離と自他融合

          心のゆとりと自己確信

          上の息子が久しぶりに日本に帰ってきた。オーストラリアの実父のもとで暮らすといって日本を離れてからかれこれ3年ぶりである。その間、一度だけ帰国したことがあったが、コロナの影響もあってここ2年ほど帰国することができなかった。 久しぶりに会った義理の息子は、かつての面影を残しながらも見違えるように背が伸び、手足もスラリと長くなってまるで少女漫画から飛び出てきたような好青年ぶりである。幼い頃人一倍世話の焼ける子であったが、ここまで立派になったのかと、改めて子供の成長力に目を見張った

          心のゆとりと自己確信

          『細雪』と大阪の思い出

          谷崎潤一郎の『細雪』を読んでいる。 芥川龍之介や夏目漱石、川端康成など日本を代表する小説家には一通り目を通してきたつもりだったが、谷崎潤一郎は読んだことがなかった。文章もほぼ現代文調になっていて読みやすいのに。 何の前知識も持たず読み出し、まだ半分くらいしか読んでないけど、日本が太平洋戦争に突入しそうな時代の中で、関西の風土・風情を背景に、四姉妹の日常生活を世知豊かに生き生きと描いた小説のようだ。上中下巻に分かれていて、私の大好きな大長編の群像劇ではないか。「おお。こんな

          『細雪』と大阪の思い出

          365日早朝内観ワークを振り返って

          一年間続けた朝の内観ワークが今日で一区切りついた。 長いようでいて、終わってみればあっという間の365日間だった。 精神エネルギーを大量に消費する、まさに荒業とも形容できる負荷のかかるワークだったけど、一年間やり切れて感慨深い。 主催者によれば「せっかく身についた習慣なので」明日からも引き続き実施するそうだけども(笑)、一応の区切りということで、ここで改めてこの一年の振り返りをしておきたい。内観ワークを内観するメタワーク。 まずはこの一年間ワークの場を提供し続けてくださっ

          365日早朝内観ワークを振り返って

          偽りの断罪

          やはりどこか浮かれていた こころ中心のツケが回り 地に足をつけているつもりが 調子に乗って軽くなっていた うまくいくことが増えてきて 得意になっていた 不安を何度か乗り越えるたびに 安心が過信に変わり いい気になって 自信過剰に陥っていた そんな仮初めの自信など 長続きはしない ふと我に返り 風向きが変わっていることに気づく 大丈夫だと踏み締めていた大地が 足元からぐらつきだす 景色がガラリと暗転して 冷やっとした感覚が全身を貫く 直後にくる猛烈な自己嫌悪の

          偽りの断罪

          人が人を語るとき

          今年になって仕事の役割が変わり、人が人を語るのを聴く機会が多くなった。 元々人を語ることが仕事の一部だったりするのだが、これまでは自分が人について語ることが多く、誰かが人について語るのを聴く機会はさほど多くなかったんだと気がついた。 時間になると一人目の人がやって来て、その人が担当する複数名の人物像について順番に多角度からひとしきり語るのを聴く。すぐに二人目がやって来て同じように語るのを聴き、立て続けに三人目の人からも同じ語りを聴くことになる。 一日何時間も、人が人につ

          人が人を語るとき

          険しき家庭内ダイバーシティ

          最近、娘の夜遊びに悩まされている。 といっても本当に苦しんでいるのは母親の方で、ステップ・ファーザーである私は心のどこかで他人事気分から抜けられていない。 義理の娘は、先日16才になった。 「フルーツ・タルトが食べたい」というので、誕生日にバースデーケーキを買って帰ったのだけど、肝心の本人がいない。友達と誕生祝いをするといって出かけたまま、結局夜になっても帰ってこなかった。 こういうことが最近続いていて、問題が起こる度に母と娘が話し合いをしたり、私も(よくないことに)中途

          険しき家庭内ダイバーシティ

          ヒモの正しいほどき方〜ショートシナリオ

          昔書いたシナリオを再掲。課題は「ヒモ」でした。紐じゃなくて、ヒモ男の方。確かにドラマや映画などの物語にはよく登場するが、私の価値観とは相容れないキャラなので、描き切れるか最大の難関だった。 ■登場人物 長瀬裕子(25) 銀行員 岩野 卓(28) 無職 池田綾乃(23) 裕子の後輩 ■本文 ○S町・全景(朝)    緑豊かな自然に囲まれた田舎町。 ○ひまわり銀行S町支店・全景(朝)    街角の古い二階建てビル。    道を挟んでパチンコ店が見える。 ○同・店内(朝

          ヒモの正しいほどき方〜ショートシナリオ

          度し難い強みといとおしい弱み

          どうやら私には、「これは自分にとって大切だな」と感じたことには必要な時間を十二分に確保し、かつ膨大な労力を投入できる異常なまでの「リソース配分力」があるようだ。 残念ながら「物事の本質を一瞬にして見抜く」といったような鮮やかな才気がなく、実は自分のことを凡庸の極みだと考えている。 だから、何かを為したいと考えたときには、まず何より多くの時間と労力を割かないと為し難いと考えている節があり、実際にそう行動することが多い。 ただひたすら時間とエネルギーの圧倒的な投入量で勝負し

          度し難い強みといとおしい弱み