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金属材料の加工硬化と硬化則について -3-

今回は主に金属材料に見られる「加工硬化」と呼ばれる現象に迫ります。金属材料における「塑性変形」に直結する話です。

金属材料の塑性変形の中でも重要とされる概念のひとつです。特に「加工硬化」という物理現象を数学的に説明した「硬化則」と呼ばれる理論は、数値解析でも必須と言える事項です。

前回は加工硬化を体系付ける「硬化則」に関する定式化(構成式)について話を進めました。数式を用いて如何にして処理するかを見てみました。

今回は硬化則の前段階の話として、主に「降伏」について触れます。降伏は金属材料の変形が「弾性」から「塑性」に移行するタイミングと解釈できます。

前回に倣いまして、降伏という物理現象を数式という形で紐解きます。


3次元の応力状態について

塑性と呼ばれる事象を応力ーひずみ線図に置き換えるならば、応力とひずみの線形関係(比例関係)が崩れることを指します。これが「弾性」から「塑性」に移行することの意味です。

応力ーひずみ線図における「降伏」の表現は主に2種類あります。例えば、軟鋼と呼ばれる金属材料では「上降伏点」「下降伏点」が存在します。一方で、一般的な金属材料では「耐力」に相当する地点が「降伏点」の代わりになります。

ここで、この時の応力状態について3軸(3次元)における変形から考えます。応力成分は各軸に対する引張もしくは圧縮を表した「垂直応力」「せん断応力」の6種類が存在します。

この6種類ある応力状態に対して、3軸の回転(座標変換)を施すことで、擬似的にせん断応力の成分が消えることがあります。この時の垂直応力を「主応力」と言います。

この「主応力」が降伏条件を紐解く鍵になります。現在では2種類の降伏条件が金属材料に対して提唱されています。

トレスカの降伏条件

一般的な金属材料に対する降伏条件として「トレスカの降伏条件」「ミーゼスの降伏条件」があります。ここで紹介する「トレスカの降伏条件」は比較的に簡便な手法であり、設計現場ではよく用いられます。

トレスカの降伏条件は、最大せん断応力がある値に達すると降伏するという考え方です。主軸(主応力の方向を表す軸方向)と最大せん断応力を伴うすべり面は45度をなします。最大せん断応力説と呼ばれます。

ここでは、最大せん断応力(K)と降伏応力(Y)を定義します。

$${Y=\sigma_{max}-\sigma_{min}=2K}$$

垂直応力は3成分のうち最大値と最小値を用います。主応力差と最大せん断応力を関連付けた形の降伏条件と言えます。

ミーゼスの降伏条件

もうひとつの降伏条件として「ミーゼスの降伏条件」が存在します。前説と比べて内容は複雑ですが、多くの金属材料の降伏(実験結果)と一致しており、極めて経験則的な考え方でもあります。

ミーゼスの降伏条件は、せん断ひずみエネルギーがある値に達すると降伏するというものです。せん断ひずみエネルギー説と呼ばれます。

3次元(3種類)の主応力が求められたとして、ミーゼスの降伏条件を下記に示します。

$${Y=\sqrt{\frac{1}{2}\bigl\lbrace(\sigma_1-\sigma_2)^2+(\sigma_2-\sigma_3)^2+(\sigma_3-\sigma_1)^2\bigr\rbrace}}$$

出発点は3次元におけるせん断ひずみエネルギーを求めることであり、それを単軸引張の主応力と対応させることで、ミーゼスの降伏応力が導かれます。

上記の右辺で求められる値は「相当応力」もしくは「ミーゼス応力」と呼ばれており、3次元の主要の応力状態を知る際に使われます。なお、単軸下における相当応力は1次元の応力値に帰着します。

おわりに

今回は「塑性変形」の始まりと称される「降伏」について、2種類の降伏条件を紹介しました。

仕事では、特に3次元の応力状態を視覚的且つ端的に知れる「相当応力」を使う機会が多いです。また、主応力を確認する機会も時折あるため、この辺の知識は数値解析の技術者としては常識に当たるところです。

次回はまた話を戻して「硬化則」の原理的な話を進めたいと思います。

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