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世界は音に包まれている Part.4

『音の美しさ』の続編です
世界は音に包まれている Part.1
世界は音に包まれている Part.2
世界は音に包まれている Part.3

音楽は、音色が流れるように続く、時のなかでの美しさ。
建築は、建物にリズム感を与える、空間のなかでの美しさ。

サンタマリアノヴェッラ教会

この二つに共通する調和。それは、算数や幾何学が出会う場でもあります。

中世時代の美しさは、床面も柱も、幾何学から割り出されていましたが、ルネッサンス時代になると「数字」が重要になってきます。

音楽と建築。

ブルネレスキのあとは、レオン・バッティスタ・アルベルティの登場です。ルネッサンス人を地でいく、マルチな天才アーティスト、レオ。

ブルネレスキ、レオナルドダヴィンチ、ミケランジェロなど、フィレンツェの輝かしい天才芸術家達の光が強過ぎて、世間一般的には、あまり名を知られていないかもしれません。

しかし、レオは、探求に尽きることなく、自由に思考を巡らさせ、「専門分野」などというカテゴライズされたのとは、対極の世界で、抜群の才能を発揮します。

わたしがレオです。
自分の横顔を彫りました。
参照:Wikipedia

名前:レオン・バッティスタ・アルベルティ
出身:ジェノバ共和国
両親はフィレンツェ共和国出身の銀行家で裕福な家庭に生まれる。
生まれ:1404年2月18日(1472年4月25日没)
享年:68歳 芸術家は長生きです。

ざっと、彼の肩書きを上げると、人文主義者、建築理論家、建築家。専攻分野は法学、古典学、数学、演劇作品、詩作。造るだけでなく、理論的に研究し、書籍にて発表。

両足を揃えた状態で人を飛び越したと伝えらているので、筋骨隆々でスポーツにも秀でいたはず。 どうです!すごいでしょう! 

サンタマリアノヴェラ教会

この教会の存在があるゆえに、フィレンツェの駅名が付き、有名な薬局があります。

教会の周囲にゴミみたいに散ってるの、
鳥の集団です。
1月頃のフィレンツェの風物詩。

日本にも支店を持つ、サンタマリアノヴェラ薬局は、この教会の修道僧が調合した薬を販売したことが由来です。いまは管轄が違うので、直接出入りはできませんが、薬局と教会は中庭で繋がっています。

サンタマリアノヴェラ薬局

建立時の教会の姿は、いまとは少し異なります。ほんんどが、剥き出しの石積みで、装飾もなく、そっけない。

レオン殿、わたくし、ジョヴァンニ・ルチェライが出資するので、我が地区を代表するサンタマリアノヴェッラ教会のファサード(顔の部分)を、君に完成してもらいたい。

ジョヴァンニ・ルチェライは、フィレンツェの大商人。彼の祖先は「紫色」の染色に成功し、財を築きます。いまもフィレンツェのシンボル色はルチェライ家にちなんで「紫」なんですよ。サッカーチーム名もヴィオラ(紫)です。

ジョヴァンニさん、さらに、続けます。

ただし。条件がひとつある。
すでにある装飾を活かしつつ、今風にアレンジしたものを造ってくれぬか。

左がむかし。右がいま。

参照:HP Santa Maria Novella 

このとき、レオの頭には、サンミニアートモンテ教会(下写真の左側)が浮かんだかもしれません。「真似から入れ」といいますが、模倣から、オリジナルに変換させたレオ。

もともとあった装飾と、教会の高さと幅から、比率を割り出し、それはそれは正確に数値をベースに設計されています。もちろん、カラーも、フィレンツェの昔からある教会を踏襲して、緑と白の大理石を使った2色使い。

参照:CONSERVATORIO DI MUSICA “G. VERDI” DI MILANO

設計図を見せられても「ふーん」と、なんとなくわかるような、わからないような。歴史を漫画で読むと、すんなり理解できるように、こんなときは、動画の力を借りましょう。

文章を読んでいるときに、一旦中断して動画を見るのは、めんどうですが、とっても良くできた3Dなので、ぜひ、ぜひ、見てください。百聞は一見にしかずです。


そうそう、レオン殿。言い忘れそうになった。
わたくしが造らせたことがわかるように、ファサードに我が名を掲げてくれたまえ。よろしく!

おおせの通りに。
このようで、いかがでしょうか。

IOHANES ORICELLARIVS PAV F ANSAL MCCCLXX
IOHANES ORICELLARIVS (ラテン語):ジョヴァンニ・ルチェライ
PAV(LI) F(ILIUS):パオロの息子
AN(NO) SAL(VTIS) MCCCCLXX:1470年

パオロの息子である、わたくし、ジョヴァンニ・ルチェライが建てました。

すごいですねー。公共の教会に、しかも、ちんまりと小さく横に石碑を置くでもなく、教会の顔である正面に、人間でいえば額に、これでもか!と堂々と、名前を記してます。大商人、やることの桁が違います。

ルチェライ家の家訓もサラっと装飾の一部として加えています。帆が風を受けてスイスイ進んでいる、順風満帆です。

ジョヴァンニさん、さぞご満悦だったことでしょう。

ルチェライ宮殿

建築と音楽の関連性を知ったのは、イタリアで建築史のレッスンを受けていたときのこと。

ね、ここが、A-A-B、 A-A-B、 A  となってて、音楽のリズムになっているでしょ。

アジア系が多かった、インターナショナルな学生の頭のなか。

??????

建築史を勉強しているのに、お門違いの音楽をいきなり持ち出されて、鉄砲玉を食らった鳩みたい。このとき、はじめて、音楽は、音だけにあらずと、知ったのでした。

先生が例として説明した建物がルチェライ宮殿。

ジョヴァンニ・ルチェライさんの私邸です。レオが設計を担当しています。

先生の説明していた A-A-Bの 「B」は、玄関と呼んだらいいのか、左から3番目と、右から2番目の開口部のところ。

開口部のところだけ、1階から3階まで幅広く、2階3階のアーチも大きめで、2階のアーチの中央に家紋があります。 

1階から3階までの高さも、計算尽くされた完璧なプロポーションです。横線を細くすることで、縦に伸びる柱が強調されていて、正面に立つと、実際より高く感じます。

建物全体が軽快なリズムに乗っているよう。イタリアでは、調和を、アルモニア(アンモニアじゃないですよ!)と表現し、大変良く耳にする言葉です。例えば「均整のとれた体」は、コルポ(corpo) アルモニオーゾ(armonioso)と言います。

中世とルネサンスの大きな違いは、世界の中心が、神から人に変わったこと。中世時代は、教会や国の建物など公共物オンリー。ルネサンスの大きな特徴は、個人邸宅が設計され建てられるようになったことです。

作り付けの石のベンチがあり、背もたれに当たる部分。ひし形模様になっています。

今回のテーマでは、すっかりお馴染みになった、サンミニアートアルモンテ教会。ここにも、同じようなひし形模様が装飾されています。

レオが、フィレンツェにすでにある建造物を模倣し、自分スタイルを確立したように、ミケランジェロも、フィレンツェに住んでいたときに、このような建造物に触れ、影響を受けたことでしょう。

ルチェライ小神殿

開館時間がものすごく限定されていて、お目にかかるチャンスが少ないのですが、レオが残している、もうひとつの作品。やはり、ジョヴァンニさんの依頼で作った小神殿です。

正確には「Tempietto del Santo Sepolcro」と呼ばれ、「エルサレムにあるキリストの聖墳墓」という意味。キリストのお墓と同じように作ってもらった、ジョヴァンニさんのお墓です。

参照:terrasanta.net

こちらがオリジナルの、エルサレムにあるキリストの聖墳墓。ルネサンス時代にも、絵とか寸法を記載してある文献があったんでしょうね。

ねえ、レオ(すっかり仲良し)。
わたしのお墓を作って欲しいんだ。エレルサレムにある聖墳墓と似たようなお墓で永眠できたらいいなぁ。

ジョヴァンニ、君のお墓の話をするのは、まだ早いと思うが。まあ、いいだろう。研究してみるよ。

黄金分割を縦横無尽に駆使し、美しい数値が奏でる御殿が完成しました。

サンタマリアノヴェラ教会の3Dと同じ会社が再現したもの。これも、また、本当に良くできています。推しX100です。ぜひご覧あれ!

予定では、Part.4で終えるシリーズのはずでしたが、今回が長くなってしまいましたので、最終回は次回に持ち越します。すいません。


Part.1
自然、黙想。そして、音楽。
建築の音。
Part.2
ロマネスク様式の教会と音楽。
歌う石たち。
Part.3
建築と音楽の数合わせ。
数字、比率、そして、音楽。
Part.4
音楽と建築。
Part.5
世界は音色に包まれている!


最後まで読んで頂き、
ありがとうございます!

次回につづく!

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参考文献:
Itinerario nell'arte
La Lingua degli Angeli
I suoni dell’architettura di FULVIA GIACOSA
Tra architettura e musica
di Conservatorio di Musica G.Verdi di Milano
Musica e architettura di Carlo Fabrizio Carli
Wikipedia

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