見出し画像

キッチンとイタリアン・デザイン。 Ferragamo Museum n.3

ワンダ・フェラガモ夫人へ捧げる展示会より。 n.3
Donna Equilibrio - Museo Ferragamo a Firenze

フェラガモ美術館で開催される展示会は、1つのテーマから広げられる世界観が独特で、毎回楽しみにしています。

今期の「Donna Equilibrio(女性のバランス)」では、60年代のイタリアの女性を取り巻く環境を取り扱っています。

その中心に据えられるのは、サルバトーレ・フェラガモの奥様、ワンダ・フェラガモ夫人。1960年に夫が60歳という若さで他界し、当時まだ39歳だったワンダ夫人は、2018年に97歳で永眠されるまでフェラガモ社を支えた稀有な女性です。

Conti come ragioniere
Decora come Interior Designer
Cucina come Chef
Organizzatore come CEO

会計士のように家計簿をつけ、
インテリアデザイナーのように部屋を飾り、
シェフのように料理をし、
最高責任者のように家を取り仕切る。

これはワンダ夫人の言葉です。シェフのように腕を振るったであろう、ワンダ夫人の書き貯めたレシピ本も展示されています。

家庭内における女性の仕事は、電化製品の登場により随分と楽になります。ガラスや瀬戸など割れやすい食器に変わり、プラスチック製の容器が市場に出回るのもこの頃です。

イタリアデザインを代表するカルテル社(Kartell)は、1960年代にプラスチック製のカラフルなキッチン用品を販売します。

当時の技術責任者とデザイナーを兼任するジーノ・コロンビーニ(Gino Colombini)の作品がこちら。

ジーノ・コロンビーニがデザインする、カラフルな日常使いのキッチン用品は、プラスチック製にすることで、手の届きやすい価格に抑えています。

余談ですが、カルテル社の創設者のひとりジュリオ・カステッリ( Giulio Castelli)は、ジュリオ・ナッタ(Giulio Natta)の弟子でした。

ジュリオ・ナッタ(Giulio Natta, 1903年2月26日 - 1979年5月2日)はイタリアの化学者。高分子化学における研究で1963年にカール・ツィーグラーと共にノーベル化学賞を受賞した。

Wikipediaより

ジュリオ・ナッタとドイツのカール・ツィーグラー。2人の化学者により誕生したのが、プラスチックという素材です。この技術を用いて、弟子だったジュリオ・カステッリが、カルテル社を立ち上げ、工業デザインとプラスチック製を掛け合わせた商品を世に出すことになります。

キッチン用品はもちろん、日常生活に必要な道具に至るまで、当時のイタリアは、なんでもデザインします。

イタリア・モダンデザイン界の巨匠と呼ばれるアキッレ&ピエル・ジャコモ・カスティリオーニ兄弟は、電気掃除機をデザイン。

アキッレ&
ピエル・ジャコモ・カスティリオーニ兄弟。
以前にミラノで展示会があったときの写真。

布団叩きと塵取りは、前述のジーノ・コロンビーニ。

タイタで有名なピレッリ(Pirelli)社は湯たんぽ。

エスプレッソマシンのデザインでも有名なジュゼッペ・デ・ゲッツェン(Giuseppe de Goetzen)は、電気ブラシ。

日常生活にイタリアン・デザインが浸透しているなんて、羨ましい環境です。

質問:これはなんでしょう。

答え:水と二酸化炭素を融合させて、ガス水を作り出す容器です。

この時代にすでに存在していたんですね。若干姿は異なれど、いまでも活躍しています。メタリックな質感とカラフルな色の組み合わせも、当時は斬新だったことでしょう。

戦後の三種の神器、テレビ、洗濯機、そして冷蔵庫。冷蔵庫のおかげで、食品の鮮度を保ち保存できるようになりました。

それまでは氷屋さんで買ってきた大きな氷を、木製の冷蔵庫に入れて使っていました。

いまでもエレベーターのないアパートが多いイタリアで、重い氷を自宅まで運ぶのは、さぞ重労働だったことでしょう。

電気でずっと温度を保てるなんて、まるで魔法の機械に思えたんじゃないかしら。

ガス台に関しては、今でもこんな感じのを見かけます。使わない時はガステーブルの蓋を閉めることができて、見た目もスッキリ。

シェアアパートに暮らしていた時のガス台が、こんな感じだったので懐かしい。ガスをつけるときには、ライターを使い手動で点火します。

イタリアの主食といえば、パスタ。パスタといえばバリッラ(Barilla)。

肉団子入りスパゲッティ。炭水化物とお肉がひと皿で完結していて、イタリア版とんかつ定食みたいな、カロリーたっぷりの一品。

いまでこそ、イタリアもヘルシー志向ですが、物も食料もない戦中を体験した世代にとって、高カロリーの食事は、豊かな生活の象徴だったことでしょう。

卵パスタのフェットゥンチーネ(Fettunccine)は、パプリカと和えるレシピが紹介されています。

流行りの髪型に整え、きっちりお化粧をし、流行を取り入れたお洋服を着て、キッチンに立つ。家が女性の王国ならば、キッチンは首都。

当時の主婦たちは、小さな家電製品と、カラフルなキッチン用品に囲まれ、嬉々として主婦業をこなす姿に、自分たちを重ねていたのかもしれません。

同時に、さまざまなイタリアの会社が、自国や他国のデザイナーと手を組み、イタリアらしい、機能と美を合わせ持つ工業デザインを生みだしていった時代でもあります。

作品を眺めているだけで、力が湧き出るような、明るい未来へ向けての、大きなエネルギーを感じます。

展示会のテーマである「女性のバランス」の展示の一部に、イタリアのデザインを魅せにくるあたりが、心にくい演出です。

次回は、この展示会のために作られた、美しい衣装部屋へとご案内します。

🍀*************
最後までお読みくださり、
ありがとうございます!
次回もフェラガモ美術館で、
お会いできたら嬉しいです
*************🍀

Ferragamo Museum - Donna Equilibrio
目次
60年代のイタリアの女性たち。n.1

https://note.com/artigiana_arte/n/n137042902342
イタリアの女性達とモダンデザイン。n.2
https://note.com/artigiana_arte/n/n34d61c765e84
キッチンとイタリアン・デザイン。n.3(本編)
https://note.com/artigiana_arte/n/n6b59f8407354
ドレスと、宮殿と、フェラガモと。n.4
https://note.com/artigiana_arte/n/n49e69f7e7488
サルバトーレと、靴と、フェラガモと。n.5 - 番外編
https://note.com/artigiana_arte/n/n5f51dc9d1183

この記事が参加している募集

オンライン展覧会

この街がすき

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか? 気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます! コメントを気軽に残して下さると嬉しいです ☺️