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野を超えてどこまでも -列車でアクション映画傑作5選

【木曜日は映画の日】
 
 
映画のスクリーンに初めて映ったのは列車でした。『ラ・シオタ駅への列車到着』というその短い映画をカフェで上映したところ、画面の奥からこちらに向かう列車を見て、観客は皆おののいたといいます。


リュミエール兄弟
『ラ・シオタ駅への列車の到着』(1895年)


 
映画は始まりからして、列車と相性が良かったのかもしれません。それ以降も、列車というのは映画にとって大切な舞台装置になってきました。
 
何せ、窓の外の背景が移り変わるから、絵が非常に映える。狭い室内だけど、多くの不特定の人が出入りするから、それだけで画面が活気づいて、サスペンスの舞台になる。飛行機では背景は空ばかりだし、車では密室になってしまうのです。
 
今日は、列車を上手くアクションやサスペンスの舞台にした、ちょっと古めの映画5つを紹介しようと思います。
 
基準は、CGを使っていないこと。近年でも『ミッション・インポッシブル』(ブライアン・デ・パルマ)や、『スパイダーマン2』(サム・ライミ)のような、列車とCGを使った素晴らしいアクション映画もありますが、今回は、もう少し手作りの肌触りを持った映画を選びました。
 
狭いコンパートメントの行き来、食堂車まで迫る追っ手、連結の切断、流れていく風景の中での死闘。そんな、古き良き列車アクション満載の作品たちです。



  
『北国の帝王』
(1973、ロバート・オルドリッチ)
 

B級列車アクションと言えばこの映画は外せないでしょう。 男くさいアクション映画を撮らせたら随一の巨匠ロバート・オルドリッチの秀作。1930年代アメリカの貧しいホーボー(放浪者)たちを題材にしたアクション映画です。
 
内容を一言で説明すると「列車のただ乗りに命を懸ける男と、列車をただ乗りする奴らを殺すことに命を懸ける車掌の、宿命の対決」です。
 
いや、もう色々とおかしいのですが、よくぞまあ、こんな企画が通ったものだと感心してしまいます。

無賃乗車のうまさによって、「北国の帝王」という、私なら絶対付けられたくない渾名で呼ばれる初老の男(無職)に強面のリー・マーヴィン。爬虫類のように目をひん剥いて迫ってくる車掌にアーネスト・ボグナインと、泣く子も黙らず余計泣き出すであろう、迫力の面子を持ってきました。


『北国の帝王』
左:アーネスト・ボグナイン
右:リー・マーヴィン


そして、やはりこの2人の対決が、本当に素晴らしい。舞台は貨物列車なので、ゆるやかなスピードで進みます。なので、列車の屋根に上ったり、屋根のない貨物車両で、凶器を使って殴り合ったりと、柔軟かつハードなアクションが可能になります。
 
それが、良く晴れてのどかなアメリカの自然を背景に繰り広げられるので、何とも得難い珍味の楽しさがあります。見終わった後には不思議な爽快感もある秀作です。



 
『結婚五年目』
(1942、プレストン・スタージェス)
 


コメディですが、闊達な列車アクションのあるこの傑作も。

結婚5年目を迎えて倦怠期の妻、ジェリーは、自分がいては夫は駄目になると思い、夫のトムの元を逃げ出します。

追いかけてくる夫に対し、着の身着のまま駅に逃げ込んだ彼女は、狩猟クラブの団体に混ぜてもらい、列車に乗ることに。それが珍道中の始まりでした。

コメディなのですが、駅での追跡劇、食堂車での男女の会話や、寝台車の狭い場所でのやりとり、列車での銃撃戦?と、B級列車アクションのツボを押さえています。所狭しと犬まで出てくる列車は、なかなか他の映画にはないでしょう。
 
列車の後もゴージャスな船旅もありますし、とんでもないラストまで、どこか人を食っていて、でも楽しさ満載の映画です。何せ、「トム」と「ジェリー」の追いかけっこなのですから。


『結婚五年目』
寝台車ではお静かに



 
『バルカン超特急』
(1938、アルフレッド・ヒッチコック)


 
列車アクション、かつサスペンスの傑作。ヒッチコックのイギリス時代の集大成であり、若さとギミックいっぱいで、その後のハリウッドでの快進撃の礎にもなった作品です。
 
ヨーロッパの架空の国。結婚前の最後の旅行に来たアイリスは、列車が雪崩で出られずに泊まった宿で、いけ好かない男、ギルバートと出会います。
 
翌日、再開した列車に乗っているうちに、宿で知り合った老婦人ミス・フロイが消えていることに気づきます。しかも、周囲の人間は、そんな人は最初からいないと言う。この不可解な状況の中、アイリスはギルバートと共に、ミス・フロイを探すことになります。


『バルカン超特急』
原題は『その女性が消えた』


狭い荷物車両での格闘や、コンパートメント前の廊下での推理、そして何より、観た人誰もが感嘆するであろう、あの「窓」。
 
走行中の列車にしかない、あらゆる場所を有効に使い、クライマックスまでなだれこむ素晴らしさは、映画を観る喜びに満ちています。冒頭のミニチュアとか、作り物に満ちた感覚も大好きです。



  
『獣人』
(1938、ジャン・ルノワール)

 


ちょっと毛色を変えて、機関車の存在感と、走行そのもののスリルで圧倒するのが、このジャン・ギャバン主演の傑作ドラマ。ちなみに監督は、画家オーギュスト・ルノワールの息子です。

 

『獣人』
ジャン・ギャバン



ギャバン演じる鉄道機関士は、助役とその妻の殺人場面を偶然目撃します。しかし、妻に惹かれた機関士は、己の中に潜む「血」との葛藤の末、破滅へと向かいます。
 
列車内での出会いも緊迫して素晴らしいですが、線路脇のラブシーンを近距離で、物凄い勢いで通過する機関車や、ラストの疾走等、マテリアルとしての列車のパワーを感じられる「列車そのもののアクション映画」です。




 
『その女を殺せ』
(1952、リチャード・フライシャー)


 
なんと、70分とタイトに引き締まった列車サスペンスの秀作。

リチャード・フライシャーは、『ポパイ』を作った伝説のアニメーター、マックス・フライシャー(ウォルト・ディズニーの師匠)の息子です。この作品のような優れたB級映画をいくつか撮った後、A級に昇格し、『ミクロの決死圏』、『ソイレント・グリーン』等の大作・名作を残しています。
 
裁判で証言をさせて、ギャング組織を壊滅に追い込むため、ギャングの未亡人を護送する役目を任された刑事。追っ手のギャングから何とか逃れて彼女と共に列車に乗り込み、緊迫の攻防を繰り広げます。

『その女を殺せ』


 
当時では珍しい手持ちカメラを使って、狭い車内でのサスペンスフルなやりとりが繰り広げられるのは見事。
 
そして何より、絶対に列車でしかできない、クライマックスの簡潔なアクションが素晴らしい。『バルカン超特急』をリミックスして、よりハードボイルドに煮詰めたような、ぴりりと引き締まったアクション小品の傑作です。70分でも十分に満足できる映画となっています。

 




汽車や列車というのは、19世紀の産物であり、19世紀末の1895年に生まれた映画の母体と言えるかもしれません。

映画に列車が合うのは、そのフォトジェニックな美しさ、山や野原を超えて走り続ける動きの魅惑、多くの人を出入りさせる舞台装置といった、映画を輝かせる機能を備えていたという面もあるのでしょう。
 
そんな映画を輝かせる列車を使った、面白い5本の映画。機会がありましたら、ぜひご覧になっていただければと思います。


今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイでまたお会いしましょう。


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