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東京アダージョ:恋の淡墨桜

東京アダージョ 恋の淡墨桜

今年の桜は、遅いようだ。4月になって、東京も、ここ例年のように、夏日が出てきて、急にくるったように咲き始めたが、ただ、日陰の桜は、まだ、蕾も硬い。
昨日、画材を買いに池袋パルコの画材屋に出かけた。
徒歩での行動半径は、500mとしている私が、今日は、1km近くも歩いている。

疲れたので、駅前のタカセと言う洋菓子屋のカフェに入った。
池袋には、昭和風情のタカセのカフェテリアは、いくつかあるが、ここは、少し路地を入った、比較的最近できた、今風のカフェだ。
お昼時とあって、席も空いていないが、なんとか1つ席を見つけた。
そこは、背中合わせに、二人の老婦人が座っていた。

そんな状況なので、二人のご婦人たちの会話が、いやがおうでも聞こえてくる訳だった。
お二人とも、七十代でどうやら、独身らしい・・・

「この歳をして、こんな恋に落ちいるなんて」
「いいじゃない・・」
「だって、二十代や三十代の時から、ず~~と、今まで、何にも、男性から相手にもされなかったのに、今、八十前にして、今更ながら、恋・・」
「いいじゃないの、私なんて、若い時から、知っての通りだわ、まったく、もう、いいの・・」
「それで、いつ頃からなの・・」
「もう、5年くらい前から」
「聞いてなかったわよ」
・・・
「ただね、彼ったら、デートは、割り勘なのよ」
「いいじゃないの」
「その上、最近、おねだりするの」
「えっ・・」
「何千円とか、多くても1万か、2万くらいなのよ」
「賭け事ではないわね、その金額は」
「でもね、だから、お手紙で、交際をお断りしたのよ」
「でも、それくらいは・・・う~ん」
「そしたら、お電話をいただいて、嗚咽して泣くのよ、八十近い方がよ」
「それ、本物の恋ね」
「でね、死んでお金や財産は持っていけないし・・・いいかなとも」
「大丈なの、少し心配・・」
「彼は、インテリジェンスのある方なのよ、私には、そう見えるの」
・・・
「やっと、桜咲いたわね」
「古木の淡墨桜(うすずみざくら)みたいね」
「いいじゃないの、最高の恋だわよ」

私は、コーヒーと生クリームの入ったパンを食べ終えて、そっと椅子を戻した。
その時、それとなく、二人の姿を見た・・・
品の良い、とても知的なご婦人が座っていた。

表へ出て、少し歩いた時に思い出した。
以前の職場で、年配の方が、よく「恋に年齢制限なし」と言っていたことを・・
ここ数日、急に春めいて、今年は遅かった桜も満開になった。

桜咲く

#東京アダージョ #短編小説   #ノンフィクション

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