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東京アダージョ:眼科医院

東京アダージョ:眼科医院

渋谷に向かう私鉄の沿線に住んでいた時だった。
近くの眼科の医院にはじめておとづれた。いや、私が小学生の時にきたことがある・・・
そこの待合室では、いつも、長時間、待たされるようだ。
お隣のご高齢のご婦人から、急に話しかけられた。

以前は、多摩プラーザの一戸建てに住んでいたが、都内のこの街に引っ越されたそうだ。
そして、この街の便利さに、感激したということだったが・・

今は、マンションの5Fにお住まいで、3Fには、娘さんのご夫婦とお孫さんが住んでいると言うことだった。
その決断をしたのは、娘さんのご主人だそうだ。
そして、以前の住まいを売却後、お金が余ったそうだ。

はじめは、亡きご主人と住み慣れた街から、離れらされ、やっぱり、冷酷な人だと感じたそうだ。
そして、一人娘を奪った・・男とも・・
しかし、今では、毎日のように目にすると、言うこと成すこと、こんなに良い人柄だと、今になって気がついたそうだ。

「あの、ぼく、みたいですね」と申し上げると(まったく余計なことだ)
笑顔の後、
「そうね、そうに決まってるわ」と言ってくれた。
お世辞にしても、なんだか嬉しいものだ・・

・・・・・

そうこうしている内に、かなりのお年寄りが、階段を降りてくる。白衣を着ている。どうしたんのろう? ただ、オーラが出ているのだ。

先程のご婦人「まぁ、大先生、お元気そうで・・」先生らしい、会釈している、その方は、1人では歩けないようで、壁の手すりを頼りに2Fの診察室に降りてきた。

どうやら、90歳は出ているようだ。そして、しばらくすると、自分の順番がやってきた。

目の腫れや視力が落ちたので、その旨を伝えた。そして、医師は、何度か、私のまぶたをめくり、患部を確認しようとするのだが、手が震えて、何度もく繰り返しても、それができない・・・ため息が医師から漏れた。            間が持てないので、こちらから経緯と状況と想定できる病名を申し上げた。医師は、大きく頷き、結膜炎の点眼薬を処方してくれて、診察は終わった。でも、でもだ、これじゃあ、いくら何でも、気まずいだろう。

「あのう、先生、私が、小学生の時に、こちらの眼科医院が出来て、その頃、伺ったことがあるのですよ。お元気で、私、とても、今日は嬉しいですよ。」

「そうかね、ここで、開業したのは、う〜ん、昭和23年だったかな、戦後、間もない頃だったから、今年で何年だっ・・う〜ん」

「先生、それでは、まだ私が生まれていないですから、もう少し、いや、もっとずっと後かも知れませんよ・・」笑顔で、そうお伝えした。

「君、時の流れは早いねぇ・・」

「ええ、先生がお元気で私は嬉しい限りです」

「はっはっは・・・君、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました」

その老医師からは、インデアンの長老のようなオーラが出ていた。それにしても、いつも、私は、良い人になりたいのだ・・・
ノンフィクションシリーズ- 東京アダージョは、この後もランダムにつづきます。

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