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人間とクリエイティビティの関係。表現芸術がセラピー(心の治療)に使われるのが当たり前な理由

アートセラピー、ミュージックセラピー、ダンスセラピー、ドラマセラピー、エコセラピー‥。

『セラピー』や『ヒーリング』『癒し』といったこれらの言葉に対して、拒否反応を起こしている方はいませんか?

アートセラピーをはじめ様々なセラピーの日本での紹介のされ方には、スピリチュアル色を強く出しているものもあるため、「自分は信じない」とか「占いと同じ」「擬似体験」と混同して認識されている方も多いのではと感じています。

しかし、我々の日常の中にあるこれらの表現芸術が私たちの生活にどう機能しているのかを振り返ることで、なぜこれらの表現芸術が人の心に癒しをもたらすのか、理解することが出来ます。

この記事では、アートを始め様々な表現芸術がなぜセラピーに取り入れられているのか、その理由を説明してみたいと思います。


人間に喜びを与える、表現・クリエイティブの力

「自分はクリエイティブではない」と断言する方でさえも、日常に全くクリエイティブなものが無い環境で生きている方はほとんどいないのではないでしょうか?

昔から人は、共同体で生活する中で、そのコミュニティにいる者同士で共通に楽しめる文化を形成し、日常に彩を加えてきました。それは音楽であったり、踊りであったり、タトゥーや服装などビジュアルに特化したことであったり‥。

それらの共通の体験・経験を持つことで、コミュニティに所属する者同士が、結束を強めてきたのです。お祭りなどの儀式は典型的なコミュニティによる芸術表現と言えるでしょう。

心理学者のアブラハム・マズローによると、人間は基本的な衣・食・住などの生きていく上で必要な条件が満たされると、次に求めるのが自己表現であると説明しています。

しかし、たとえ衣食住が満たされていなかったとしても、不安や虚無感、怒りなどの感情を芸術表現に表すことで自分のニーズを満たしていく人もいることがヴァン・ゴッホなど著名なアーティストなどからも分かるように歴史的にも証明されています。

現代においても、例えば、自分が好きな音楽、ファッション、映画、漫画‥などなど。自身が楽しむためにそれらの活動を取り入れることもあれば、何かのコレクターになることも、特徴的なファッションでおしゃれアイコンになることも、ファンクラブに所属するなどして自分のアイデンティティの一部として主張することもある。

これら、広い意味で全てクリエイティブな活動、そして自己表現の手段と説明することが出来るのです。

五感を使うクリエイティビティが心に響く理由

人間の生活に深く関わりのあるクリエイティビティ。それは、私たちの体にもしっかりと刻み込まれています。

トラウマを脳・身体の神経系システムの関係から説明するポリヴェーガル理論などの登場により、表現活動が人間の身体にどう機能しているのかよりはっきりと理解されてきました。

人間の五感は、危険を知らせてくれる本能的・動物的感覚を司っており、それは人間に今いる場所が安全であるのか、危険であるのかを教えてくれます。

すなわちそれは、例えば聴覚から感じとる音が、恐怖を引き起こすものなのか、安心を教えてくれるものなのか、それらを聴き分け脳・身体全体に司令を送る機能(神経)が存在しているのです。

そのため、気分がむしゃくしゃする時や、不安が強い時などにあえて、自分にとって安心できる音楽、色、触感などを体に取り込むことによって、それらの感覚が神経に働きかけ気持ちを落ち着ける効果があるのです。

また、五感は記憶にも深くリンクしています。そのため、認知症が進んだ方などでも、昔好きだった音楽を聴いたり、思い出の場所の写真や映像を見たりすることで、楽しかった記憶が蘇って気持ちがハッピーになれることもあるのです。

わたしも極端に疲れた日などは、青春時代に聴いていた日本の音楽を聴いたり、好きな映画をただボーっと観たり、表現芸術を取り入れた心のセルフケアを積極に行なっています。


気持ちとリンクする表現芸術を取り込むメリット

人間は様々な感情を日々経験しながら生きています。そして、自分の中に巻き起こる気持ちがどのようなものなのかがはっきりとわからない状態というのは、不安を呼びます。

表現芸術・クリエイティブな活動に映し出される様々な気持ちを代弁者として利用することで、気持ちを整理しやすくなるメリットがあります。

例えば、失恋をした時など、失恋ソングを聴くことで、「そうそう、わたしも同じことを思ってた‥」と歌詞に共感したり、その時の気持ちにリンクするような音調から深い悲しい気持ちをじっくり満喫して浸ったり。

このような体験があることで、失恋の気持ちが様々な言葉やメロディーで表現・代弁され、徐々に自身の気持ちに整理がついていきます。

また、「自分の気持ちを分かってくれる人がどこかにいる」「自分一人だけではない」と感じられる感覚も、本人が落ち込みから回復するために必要なレジリエンスや心強さを促進してくれる効果もあるのです。


さいごに

人間の表現芸術の歴史は、洞穴の壁画にまで遡ります。

我々の日常に文明が発達する前の頃から、表現芸術がすでに存在していた事実があること、そして人間はそれを嗜み生活を豊かにしてきたことを考えると、表現芸術が人間の気持ちに与える影響力を無視することは出来ません。

実際に表現芸術が人の身体にどう機能しているのかが科学的に理解されるようになり、表現芸術と人間の癒しに繋がりがあることが証明されてきています。

そしてコロナパンデミックが始まってからというもの、わたし達の生活は極端に制限されるようになりました。そのため個人単位でも、コンサートや演劇、カラオケ、ダンス、などの様々な表現芸術が我々の生活をどれだけ豊かにしてきた存在なのか、自分にとって大切な存在だったのかを再確認した方も多いでしょう。

だからこそ、それらを取り入れたセラピー(心理療法)が存在していること。それがアートセラピーなど表現芸術セラピーなのです。その理解が特殊な存在としてではなく当たり前の存在として、認知されていくことを望みます。

この記事が、アートセラピーを始め様々な表現アーツセラピーへの偏見を払拭するきっかけになれば幸いです。


アートセラピストのヤスでした。

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参考:
Dana. D. (2019). The Polyvagal Theory in Therapy: Engaging the rhythm of regulation. Audible: Audiobook.

Leary. M. (2018). Why You Are Who You Are: Investigation into Human Personality. Audible: Audiobook.

Malchiodi, C.A. (2007). The Art Therapy Sourcebook. 2nd. McGraw-Hall. New York: NY.

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