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美術鑑賞が“治療”になる? 医師がアートを「処方」する試み



こんにちは。アートセラピーオフィス yumit です。

わたくしごとですが、先日、ずっとずっと行きたかった【ピーター・ドイグ展】に行ってきました。

コロナの影響でなかなか訪れることが叶わなかったので、「やっと観れた!」と喜びもひとしおでした。

今回の展示のメインビジュアルとなっている、夢のように美しい色彩の「ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ」をはじめ、不気味で不穏な雰囲気の漂う小舟のあるシリーズ、日本のスキー場広告をもとに描かれた大きな作品、どこかムンクを思い出させる物悲しい作品、ゴーギャンを思わせるような力強くエキゾチックな作品、、、。

※しかも今回の展示は撮影が許されていました。


本当に素晴らしい展示で、一枚一枚の絵がそれぞれことばに尽くせないくらい味わい深くて、
あたまとこころがじーんと喜びに満たされていくのを感じました。

「ああ、美術館てやっぱりいいな…、大好きな絵を見るだけで、こんなにも気持ちがいいなんて」
と、お土産に買ったお気に入りの絵のポストカードを見ながら、思い出してはまた感動の余韻に浸っています。

(展示は終了してしまいましたが、ピータードイグ展に興味のある方は◆こちらをご覧ください)


そう、今回は美術館のお話です。
「美術鑑賞の治療効果」について、考えてみたいと思います。

少し前のニュースになりますが、2018年の11月から、カナダで医師たちが患者さんに美術館のチケットを「処方」する取り組みが行われていたのをご存知でしょうか?


「美術館が「治療」の場に、北米で広がる社会的処方の取り組み」

世界初、治療として患者に美術館訪問を「処方」 カナダ医師会


記事にもある通り、世界で初めてこの試みに取り組んだのは、カナダ・フランコフォニー医師会(MFdC)とカナダ最古の美術館、モントリオール美術館(MMFA)のタッグ。

(モントリオール美術館はそれ以前からアートセラピーには積極的な姿勢を示しており、HPのトップ画面にもアートセラピーのカテゴリが大きく載っています。アートセラピストの養成活動や、美術館にアートセラピストを常勤として迎えるなどしており、館内には診療室もあるというのだから驚きですよね。世界で最も注目を浴びている美術館のひとつです)

この取り組み、医師が心身に健康問題を抱えた方とその同伴者に、美術館に無料で入館できるチケット(23カナダドル相当)を「処方」するというもの。

カナダ・フランコフォニー医師会の会長さんや副会長さんは、芸術のもつ健康効果を科学的な面からも支持していて、それらを患者さんの治療に役立つことができたらと考えたそうです。

近年アートセラピーの効果研究は、カナダのみならず、アメリカやイギリス、アジア諸国など、世界のいろんな場所でなされています。
研究結果からは、以下のようなことが明らかになっています。

①美術館でアート作品を鑑賞することで、鑑賞前と比べ血圧や心拍を低下させる効果がある。作品のタイプによって効果は異なり、血圧を下げる効果については、抽象画などの現代アートよりも、肖像画や風景画などの具象画の方が高い。
[1] Mastandrea, S., et al. 2019 Visits to figurative art museums may lower blood pressure and stress. Arts & health, 11, 123-132.

②美術館への訪問によってストレスの感じ方が軽減し,ストレスと関連するホルモンの1つであるコルチゾールが減少する。この効果は特に男性に高く見られる。
[2] Clow, A. & Fredhoi, C. 2006 Normalisation of salivary cortisol levels and self-report stress by a brief lunchtime visit to an art gallery by London City workers. Journal of Holistic Healthcare 3, 29–32.

③美術作品を美しいと感じることで痛みが軽減され、痛みに関連した脳波の大きさ(振幅)が小さくなる。ただし、痛みから美術作品へと注意が逸れるからなのか、痛みそのものに効果があるのかはまだ研究中。
[3] de Tommaso, M., et al. 2008 Aesthetic value of paintings affects pain thresholds. Consciousness and Cognition, 17, 1152–1162.

④アート作品を鑑賞することによって、注意統制の持続が困難な認知症の患者に対して注意機能の改善が見られた。
[4] Kinney, J. M., & Rentz, C. A. 2005 Observed well-being among individuals with dementia: Memories in the Making©, an art program, versus other structured activity. American Journal of Alzheimer’s Disease & Other Dementias®, 20, 220-227.

他にも、記憶障害やうつ症状、不安やストレス、痛みや不快感といった様々な問題に、
アートがどのように効果をもたらすのかという研究がなされています。

お薬の効果や手術の効果と違って、量的レベルでの変化の把握は難しいところですが、
それでもこれだけの人が、アートの効果を“なるべく科学的に”確かめようとしているわけですね。

個人的には、「美術館鑑賞がお薬の代わりになる」とは思いませんが(薬物治療が欠かせないことだってあります)、
美術鑑賞をすることで、日常のストレスから逃れ、がんじがらめになっている狭い視野から解き放たれる効果は確かに存在すると思っています。

美術鑑賞とは、「自分とは違う誰か(作者)の視点、ものの見方、考え方、感じ方」に、シンクロすることでもあります。それは柔軟な思考やこれまでと違った視点を提供し、凝り固まった“常識”や“思い込み”をほぐしてくれます。

色や形の無限の重なり、荒々しく激しい表現、静謐で清らかな情景。
それらは萎縮してカチコチに固まった“こころ”に、もう一度暖かい息を吹き込んでくれます。
「きれいだな」「おもしろいな」「不思議だな」「怖いな」「好きだな」
ぜひ、ご自身の感想や感じ方に耳を傾けてみてください。
それは自分自身のほんとうの"感覚"や"感受性"と向き合うかけがえのない時間になります。

美術鑑賞の効果は、実際には数字ではかることは難しいのかもしれません。言葉でうまく説明できないのかもしれません。
でも、それは確かに“感じられる”はずです。

みなさんも、ぜひ、好みの展示があったら美術館に行ってみてください。
そして、ご自身がどう感じるか、その“効果”を実際に確かめてみていただきたいなと思います。

今回は、「美術鑑賞の治療効果」について、考えてみたnoteでした。

最後に、日本の美術館や企画展を見つけられるサイトをご紹介しておしまいにしたいと思います。
https://artscape.jp/index.html

みなさんもぜひ、素敵な作品に出会えますように。


それでは、また次のnoteでお会いしましょう!

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