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夢のつづき

iphoneと対話をしている。彼の制作中の動画を見て、そう感じた。佐藤直樹。彼はその小さな画面を見ながら、木板に木炭でひたすら絵を描く。最初はアーツ千代田3331の前にある大きな樹を描き始めた。その後、さまざまな場所でピンと来た植物や自然をiphoneのカメラに収め、同じように描き続け、支持体を横につなげている。まるで巻き絵のような作品だ。今ではその横幅は205mになるが、制作はまだ止まらない。

写真をもとに絵を描く。それを聞いて真っ先に頭に浮かぶのはカメラ・オブスクラ。現実世界がそのまま平面に投影され、その像をなぞれば写真と同じく正確に世界を写し取ることが出来る。フェルメールはこれを用いて、まるで写真表現のように綺麗な光を捉えた。

佐藤が使うiphoneは、フェルメールの時代と同じ、“記録”としての写真である。にもかかわらず、佐藤が描く作品は、現実世界がそのまま投影されているとは言いがたい。現実ばなれした植物と、実在するさまざまな場所が連なった作品は、佐藤が「夢現に描いている」と言うとおり、まるで夢の世界のようだ。

佐藤は言う。「描いていない自分」と「描いている自分」の二人が存在する、と。それが「iphoneで被写体を撮影する自分」と、「夢現に絵を描く自分」だとすれば、前者は後者が夢の中で迷わないよう導く、案内人に思えた。

佐藤はiphoneと対話していたのではなく、自分の中にいるもう一人の自分と対話していたのだ。一人の人間に別の人格が存在する。その感覚は普段、意識していないだけで、みなが等しく持ち合わせているのではないか。何かに没頭している時、その実、自分の中にいるもう一人の自分と対話を続けている…。制作中の佐藤を映した動画の中でその現場を目の当たりにした。

ふたりが作り出す夢のつづきは、まだあるのか。それとも、終わりに近づいているのか。それは、佐藤にも分からない。私はその夢のつづきを、見てみたい。

大島有貴(文+写真)

佐藤直樹01


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#佐藤直樹 #美術 #絵画