アートライティングスクール

アートにまつわる言葉を編み、文字を綴ることを専門的に学ぶ学校「アートライティングスクー…

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アートにまつわる言葉を編み、文字を綴ることを専門的に学ぶ学校「アートライティングスクール」のnoteサイトです。受講生の記事を中心に公開します。本校は「東京ビエンナーレ2020/2021」のソーシャルプロジェクトのひとつで、プロジェクトディレクターは美術評論家の福住廉です。

最近の記事

宮永愛子インタビュー[前編] 三日後につながる隠し扉とは?

想いは、どうすればリアルに感じることができるのだろう? 時間を超えることができるものってなんだ? 諸々の問いをインスタレーションという方法論で可視化した作品が宮永愛子さんの《ひかりのことづけ》ではないだろうか。 アートライティングスクール1期生の4人が鑑賞後に感想を述べあい、そこから生まれた様々な疑問を投げかけさせていただいた、ロングインタビュー前編。 後編はこちらをご覧ください。 取材・文・撮影:西見涼香、大豆生田智、荒生真美、佐藤久美 編集:佐藤久美 ──展

    • 宮永愛子インタビュー[後編] 三日後につながる隠し扉とは?

      私たちの日常にゆるやかに入り込み語りかける《ひかりのことづけ》。「作品を通して、かたちのない光や時間とのつながりを鑑賞者に感じてほしい」。宮永のアート観と、それに影響を与えた人々と過ごした時間を振り返る。                                 アートライティングスクール1期生の4人が鑑賞後に感想を述べあい、そこから生まれた様々な疑問を投げかけさせていただいた、ロングインタビュー後編。 前編はこちらをご覧ください。 取材・文・撮影:西見涼香、大豆生田

      • 佐藤直樹インタビュー「そこで生えている 2013-2021」展示を支えた見えざる手

        おそらく佐藤直樹の《そこで生えている》を知るだれもが、この展示を待ち望んでいた。 もちろん私もその一人だ。200 メートルを超える絵画作品を街中でどうやって展示するのだろうか。 若い「市民」が新たな鑑賞者となり、作品展示をも支えた。会場となった私立正則学園の先生と生徒である。 「会場の正則学園が決まったのは、わりと最後だった。単純にほっとした。こんな都心の6~7 階建ての高校は自分の概念にはなかった」。体育館ではなく、教室が並ぶ6階が自分の会場であると聞いたとき、佐藤は

        • それぞれの肖像 「青海三丁目地先の肖像」2.5 architectsインタビュー

          東京ビエンナーレ・公募プロジェクト「青海三丁目地先の肖像」。 建築家ユニットの2.5 architectsが東京のフロンティアである「青海三丁目地先」という臨海の埋立地の場所性を捉え、私たち一人一人に関わる問題として向き合う過程をつくるプロジェクト。 “この土地は、最終処分場として都市のゴミを一手に引き受けながら、オリンピックの会場となるはずの場所だった。一刻一刻姿を変えるこの場所で、どのような地霊(ゲニウス・ロキ)を見出すことができるだろうか。 地質学者によると、現代は奇

        宮永愛子インタビュー[前編] 三日後につながる隠し扉とは?

          ダフナ・タルモン「ギフトプロジェクト 東京2021」 考えさせられるギフトとは。

          English 「東京ビエンナーレ2020/2021」のソーシャルダイブ・プロジェクトでは、海外アーティストの来日は叶わなかった。ただしダフナ・タルモンは、イスラエルから東京のプロジェクト参加者と会期前に密に連絡を取った。多くのボランティアに支えられて、彼女にとって初のイスラエル外でのプロジェクトは実現した。 ギフト提供者とのZoom会議 日本のギフト提供者とのミーティングは、ダフナがギフトプロジェクトを初めたきっかけの話から始まった。 2012年に愛犬NINAをガン

          ダフナ・タルモン「ギフトプロジェクト 東京2021」 考えさせられるギフトとは。

          Dafna Talmon, "Gift Project Tokyo 2021" What is a gift that makes you think?

          日本語記事はこちら Overseas artists were invited to participate in the open call for the Social Dive Project at the Tokyo Biennale2020/2021, but due to the Covid disaster, none were able to come to Japan. However, Dafna Talmon kept in close contac

          Dafna Talmon, "Gift Project Tokyo 2021" What is a gift that makes you think?

          西原珉プロジェクトレポート&インタビュー 「話を打ち明けても、表現しても、安全な場所」トナリバ

          西原珉(にしはら・みん)の肩書は、アーティスト+ソーシャルワーカー+メンタルヘルスセラピスト。「東京ビエンナーレ2020/2021」参加作家の中でもひときわ目を惹く。作品も、アートセラピーやソーシャル・ワークとしてのアートプロジェクトの視点から、フリースペース「トナリバ」を開設するという他に類がないもの。 心理の基礎からセラピーの対処方法まで、~トナリファシリテーター養成講座 「トナリバ」オープンに向けて、ファシリテーター養成講座が開講された。一日4時間の講座を4日間

          西原珉プロジェクトレポート&インタビュー 「話を打ち明けても、表現しても、安全な場所」トナリバ

          Interview 鶯谷という街へ、飛び込む。鶯谷ベルエポック 村口 麻衣さん

          鶯谷ベルエポック。 山手線最後の秘境「鶯谷」。 色めき建ち並ぶホテルのネオンや生活を感じる民家を隠れ蓑にして、この街には芸術の軌跡が隠されている。「色街」と「文化」を交錯させ、ジャンルや世代を超えて、一過性ではなく街に残り続けるアートを目指すプロジェクトだ。 今回、このプロジェクトを主宰している村口 麻衣さんに、アートライティングスクール一期生の4人がインタビューを行いました。プロジェクトを体験した鑑賞者としての視点から、さまざまなお話をお聞きしました。 取材・文:西見

          Interview 鶯谷という街へ、飛び込む。鶯谷ベルエポック 村口 麻衣さん

          伊藤ガビンさんと渡辺篤さんインタビュー

          Q:あいトリからコロナ禍を経て大きな思考の変化はありましたか? 「…それは面白い質問だね」とにやりと考え込んだ姿が忘れられない。私はガビンさんの情報がなかなか集まらないなか、あいトリだろうがコロナ禍だろうが、不動のテンポで更新されているインスタグラムを見てみた。ちょっとした嗜好が画像で記録されている。私が求める活動の詳細などはない。しかしその記録の隙間に絶対に何か大きな思考の変化があるはずで、それを知りたかった。唯一手元にあった美術手帖の「美術と表現を続けるための21の提言

          伊藤ガビンさんと渡辺篤さんインタビュー

          東京をきく──モノ・コト、そしてオトの再発見

          おしゃれブラザーズ・吉永ジェンダーが主に運営するレコード空間。場所は上野の飲食店が軒を連ねる雑居ビルの一室で、すぐ側には不忍の池がある。店主の衣装はラフな普段着で肩肘張った雰囲気はない。話口調も穏やかで話していて心地がよい。アートが好きな人たちが集まりやすい場所ではあるが、決して美術談義をするわけではない。同じ空間に集まった人たちが自然と語り合ってしまう。レコードを通した過去や記憶の物語。 今回私は、東京ビエンナーレを文字として記録するプロジェクトである、アートライティング

          東京をきく──モノ・コト、そしてオトの再発見

          私たちは、顔のYシャツ

          「私は、なかなか本心を言う事ができません。だんだん話し相手がいなくなって来ました」(展示に用いられた文言) 個人商店が東京という大都会から姿を消していく。この「私」という存在は、どんどん大きな集合体に飲み込まれていく。冒頭の文言にある「私」に展示を見る「私たち」は多かれ少なかれ共感するのではないだろうか。 神田小川町交差点に位置する個人商店、「顔のYシャツ」。大きな顔の看板建築で知られるオーダーメイドのワイシャツ専門店だった。「初代店主・梶永松さんの青年時代の似顔絵を看板

          私たちは、顔のYシャツ

          神田街歩き 神田明神・男坂

          「すべての坂道には意味があるんだ」。地理学徒だった私の恩師の言葉だ。 江戸・東京は時とともに海に向かって広がり、やがてビルは競うように空をめざした。しかしそんな東京にも人が住む以前の「土地の記憶」が随所に眠っている。 江戸三大祭の一つ「神田祭」で知られる神田明神は本郷台地の突端に鎮座する。そこは1万年前に終わった氷河期の名残である。息を切らして神田男坂を踏みしめる。大昔の海の岬を登るのはやはりハードだ。すべての坂道には意味がある。 渡抜貴史 #神田 #街歩き #神田明

          神田街歩き 神田明神・男坂

          存在し続けることの美しさ

          その瞳は、何を捉えているのだろうか。括り付けられ、不自由な体勢で何かを見つめる先には、悲しみ、哀愁が漂っていた。だが、そこに痛みは存在せず、美しさが、ただそこにあった。 東京都現代美術館にて「マーク・マンダースの不在」が開催された(2021年6月22日まで)。マーク・マンダースは、架空の芸術家「マーク・マンダース」の自画像を「建物」という枠組みを用い、30年以上表現し続けている。作家が18歳の頃、自伝的な小説執筆を試みた際、「建物としての自画像」という構想が生まれた。「建物

          存在し続けることの美しさ

          「災い」との共存

          おまじない。それには、人間がウィルスという脅威を恐れ、縋ってきた歴史がある。今日のコロナ禍において、おまじないはワクチンに形を変えた。人々はなぜワクチンを打つのか。それは、「病気にかかるかもしれない」という不安の気持ちを捨て去るためではないかと思う。ワクチンが存在しなかった時代、人々はおまじないを通して、神仏とつながってきた。 「疫病・たいさ〜ん!江戸の人々は病いとどう向き合ったか」がアーツ千代田3331にて開催された(2021年5月31日まで)。この展示では、感染症がたび

          街歩き 看板建築

          富嶽三十六景や名所江戸百景で知られる安藤広重は、江戸の火消の家に生まれた。青年期に度々の火事に出動した体験を元に、火事絵“江戸乃華”を描いた。 火消の頭(かしら)の1軒が神田多町2丁目にある。火消頭は賭けで決まったそうで、すぐそばには江戸看板建築の商店がいまも残る。看板建築は防火のため軒がなく、銅板で覆われている。いわれてみれば、緑青で平坦なファザード。江戸中期1700年頃の街並みを感じられて嬉しくなった。 佐藤久美 写真1 路地右側の脚立の奥が火消し 写真2,火消頭近

          O01 長谷川逸子 「音のきづき」

          曳舟駅を降りて線路沿いに北上すると、ドーム型のクーポラのある白い建物が見える。ユートリヤすみだ生涯学習センターのB棟1Fギャラリーに入ってすぐに、天井から下げられた白い幕で仕切られたいくつもの円柱状の空間が広がっている。中の様子は見えない。パオのような小部屋の中には白い柱の林があり、林に囲われた隅にはいってみる。 音が、やんだ。 自分の感覚を疑い、一歩下がって周囲の雑音を確認する。柱に囲まれれば囲まれるほど、周囲の音が聞こえなくなる。吸音素材、とはこういうものかと知識が追

          O01 長谷川逸子 「音のきづき」