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生きることについての2つの映画

今週観た映画2つについて綴りたいと思います。



デヴィッド・ホームズ 生き残った男の子

この映画はHBOが2023年に公開したドキュメンタリーです。
デヴィッドは一作目からハリーポッター映画のハリーのスタントダブルをしてきました。
スタントという危険な仕事を心から愛し楽しみどんな難しいアクションでもこなしてきました。
そして2009年1月、最終作品リハーサルの時に事故にあい彼は首を骨折、脊髄を損傷し下半身不随となってしまいました。

(ここからはネタバレも含みます)
ドキュメンタリーの後半は怪我をしてからの彼の生活やインタビューを中心に進んでいきますが、当事者ではないと分からない苦悩をそうでない私たちにも感じさせてくれる場面が多くありました。
脊髄の損傷は体に様々な影響を与えます。デヴィッドは下半身不随になっただけでなく、その後右手が動かなくなり、左手の手先の感覚がどんどんなくなっていて現在進行形で悪くなっています。近い将来、左手も動かなくなるかもしれない、それから呼吸機能も低下するかもしれないという不安を抱えながら生活しているのです。
またデヴィッドは日々体の痙攣や痛みに見舞われています。痙攣している彼をカメラがとらえた場面はとてもショックでした。
でも彼は医者が進める鎮痛剤の服用を出来るだけ避けています。体のあちこちが麻痺している彼にとって「痛み」は生きているという証、その痛みをできるだけ感じていたいのだそうです。
私はしょっちゅう起こる頭痛で頭痛薬を飲んでますが、確かに「痛み」という体の悲鳴は生きているということなんですよね。
「痛み」に鈍感になるという事は命をあやうくすることでもあります。
だから重篤な病気の場合、薬との向き合い方は本当に難しいと思います。QOLを上げるために痛みを取り除くのは大切かもしれませんが、薬なしでは生きられなくなるとそれで失うものも多い。。。
私が持病で神経内科に入院している時、同室の若い患者さんが薬を大量に飲んでいて精神科の薬も常用していました。体の病気によって精神的にもダメージを受けてしまうんですね。

デヴィッドは2019年になんと12日間の間に4度の手術を受けました。4度目の手術は脳の手術でした。連続した手術期間中に彼はインスタで「意思を保つのが難しくなってきた。でも出来るだけ強くいよう」と語っています。
彼のすごいところは過去を振り返るのではなくいつも未来を向いているところです。デヴィッドの笑顔やポジティブなコメントがとても印象的です。元々とても前向きな人ですが、困難を乗り越えようとするところを映像を通して包み隠さず見せながら私たちの人生にとってポジティブなメッセージを発信しています。

ハリー役のダニエル・ラドクリフがこのドキュメンタリーの制作にもかかわっていますが、10年ものあいだ同じ現場で作品を作ってきた仲間がこうした不幸にみまわれてしまって彼なりに後悔があったと思いますし、事故後はダニエルもまた友人たちもトラウマを抱えてしまってデヴィッドとの接し方もどうしたらいいかわからなかったと思います。
こういう場合、当事者からすると普通にしていて欲しいんですけどその普通がなかなか難しいですよね。だからデヴィッドのように当事者のほうから笑顔を向けて何気ない会話をしていくことって大切なのかなあと思いました。
当事者は常に葛藤しています。
私がこの病気じゃなかったら、とか事故に合わなければ、などと思ってしまったり、普通の生活をしている人とついつい比べてしまったりすることもあります。
でも、そう考えても過去は変えられないのですから今の自分とこれからも上手に折り合いをつけて付き合っていくしかない訳です。だったら出来るだけ自分の人生を充実させるために自分なりに努力したり好きなことをするのがいい。大事なことは「出来ないことを考えない」ことです。そして「他人と比較しない」こと。
今の自分にしか出来ない一日を素敵に過ごせたらそれが一番だなと思います。そして、現在のデヴィッドのようにいつも明るく前向きを心がけて目標を持てたら毎日がもっと素敵になるでしょう。
私も今日からの日々を自分なりに頑張ろうと思いました。

本当に観てよかったなと思えるドキュメンタリーでした。


生きる LIVING

黒澤明監督の「生きる」を第二次世界大戦後のロンドンを舞台にリメイクされたイギリスの映画です。
脚本は私も好きな作家のカズオ・イシグロ。主演はビル・ナイです。

観た感想はとにかくビル・ナイが素晴らしかった。
仕事一筋堅物公務員の雰囲気、余命を告げられたのちの迷走と決意。主人公の性格上セリフは多くないのに、表情やしぐさから彼の感情が伝わってきました。
また、カズオ・イシグロさんの脚本もすばらしかったですよ。彼の小説で「日の名残り」や「私を離さないで」の主人公のように感情を抑制されているようなイメージを主人公のMr.ウィリアムズにも感じました。この脚本を戦後イギリスの美しい映像にしているのも見応えがありました。

(ここからはネタバレも含みます)
主人公のMr.ウィリアムズは妻に先立たれてからも一人息子を育て堅実な生活を歩んできました。お役所仕事柄、山積みの案件を後回しにしたり他の課に責任を押し付けたり、そういうことを当然のこととして日常的にしていたある日彼は突然医者から余命宣告を受けます。

そこから彼は、無断欠勤などしたことない仕事を1か月以上休み、遠出をして夜遊び上手な見知らぬ男サザーランドに余命を打ち明け、一緒に夜通し羽目をはずします。
それでもMr.ウィリアムズは気が晴れずにいました。
役所に新人で入社してすぐにやめた若い女性マーガレットと町でばったりあい、一緒にランチをしたり映画をみたり時にはゲームセンターでUFOキャッチャーをしたりします。(当時のロンドンにUFOキャッチャーがあったことにびっくり)
彼にとって、明るくてなんでもはきはき言い自分の将来の為にあっさり転職するマーガレットは生命力に溢れていました。自分にはないものを沢山持っている彼女と時間を過ごすことによって、その後彼が変わっていきます。
なにか吹っ切れたように突然出勤したMr.ウィリアムズは、後回しにしていたある案件を最後の仕事として懸命に取り組む決意をします。

映画は、なんとここで突然Mr.ウィリアムズのお葬式の場面になってしまいます。丁度半分まで進んだところなので一瞬「え?」と戸惑いました。

後半は、お葬式後に部下たちがMr.ウィリアムスがいかにその案件に熱心に取り組んでいたかの会話と回顧シーンになります。
とてもエモーショナルで何度も泣いてしまいましたよ。
Mr.ウィリアムズは、案件の為に上司に嘆願したり他の課にたらいまわしにされるところを居座って粘ったり今迄では考えられない行動をとって部下を驚かせます。
けれど、彼の熱意が周りの人を動かすことになり仕事をやり遂げることができたのでした。
成し遂げたとはいえそれはお役所の小さな地域案件の一つにしかすぎず、Mr.ウィリアムズの残した功績はもしかしたら地域環境の変化に伴い数十年後には残されていない可能性もあります。でも彼のひたむきに取り組む様は周りの人の心に大きく刻まれました。

同居している大切な息子には病気のことが最後まで言えずじまいでした。
息子は最後まで病気のことを父自身知らなかったのではと思っています。Mr.ウィリアムズは、息子には息子の人生があるので余命いくばくしかない自分の為に生活を変えてほしくなかったのでしょう。
余命のことを伝えたとしても、伝えなかったとしても残されたものはいずれにしろ「こうすればよかったのか」と後悔するものです。
それに、もし伝えていたら息子に反対されて仕事は続けれられずあの案件はやり遂げられなかったかもしれません。

自分だったらどうでしょうか。
余命宣告されたら、残りの時間をどう過ごすでしょうか?
私なら最後まで普通の生活をしたいです。
いつもどおりの家族との時間、愛犬との時間、そして少しの仕事と創作の日々。

家族が余命宣告されたらどうでしょうか。
今までおろそかにしていた時間を埋めようと必死になっちゃうかも。

矛盾していますね(笑)

結局、デヴィッド・ホームズのドキュメンタリーを観た感想と一緒で「今の自分にしか出来ない一日を素敵に過ごす」ように意識すること。これに尽きるのかなと思いました。
人生は今日という日の積み重ねでしかないですものね。

Mr.ウィリアムズの死後、残された部下たちはまた山積みの案件を後回しにする日常に戻ってしまいます。お葬式の帰りの電車の中で「Mr.ウィリアムズに学ぼう。我々がやる気になれば物事は進むんだ」と言っていた上司も忘れてしまったかのようです。
一人の部下は「こんなはずじゃないだろう!」と葛藤するんですが、なんだかあるあるなケースで切なくなりました。
悲しいかな、私たちは毎日忙しさに追われていつも大切なものを忘れてしまうんですよね。

大切なものを忘れてしまうから、こういう映画や本を手元に置いておく必要があるんだと思いました。

そういえば、
丁度カズオ・イシグロさんの新しい長編小説「クララとお日さま」を読了しました。
とても素晴らしい作品でしたので、また次回にでもご紹介出来たらと思います。

体調が悪くない限り、夜はストリーミングで1本映画を観ています。ミステリー・サスペンス・ホラー・ファンタジー等娯楽作品が多いんですけれども、今週はたまたま生きるというテーマについてのシリアスな映画を観ることができてとても良かったです。

では、また。

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