「問われる情報リテラシー(棒読み)」

 3月18日にFacebookに書いた記事を転載しました。年齢、性別、学歴を問わず、最低限の知識と思考を身につけていないと、新聞に与太丸出しの投稿をしてしまう「痛い大人」になってしまう、という話です。

 今月12日付の徳島新聞朝刊の「読者の手紙」にこのような投稿がありました。私たち大人のための頭の体操に使えそうなので、引用します(原文ママ。※は私の註)。
 4日付本誌で女優の秋吉久美子さんの連載シネマから人生「映画『記者たち 衝撃と畏怖の真実』」を読んだ。その中でイラク戦争についての彼女のコメントが秀逸だった。大量破壊兵器があるという米国政府のプロパガンダ(※1)にマスメディアがのっかりイラク人100万人、米兵3万6千人以上が死傷したという戦争だが、大量破壊兵器は一つも発見されなかった。事後にニューヨーク・タイムズは謝罪文を掲載したが果たしてそれで済むものかと。 メディアの責任は重い。しかし、その中にあってただ1社が政府の見解に疑いを抱いて追及していくドラマが前述の作品である。今、アマゾンで前年の千倍以上に売り上げを伸ばしている小説があるという。約70年前に出版された「1984年(※2)」である。
 その中では全体主義政府によって行動、発言、思考がコントロールされる監視社会が描かれる。そこではうそは真実と呼ばれ真実はうそと呼ばれる。歴史もまた簡単に書き換えられる。家庭、職場、通りに監視カメラが設置され思想警察に見張られ規則を逸脱すると逮捕される。
 米大統領選挙でのマスメディアの反トランプ大合唱やツイッター、フェイスブック、ユーチューブなどの会員制交流サイト(SNS)の検閲(※3)は常軌を逸していた。心ある人々はユートピア(理想郷)の正反対の世界である、ディストピアの到来を察知しているようだ。情報へのリテラシー(※4)が再度問われている。
 ※1:プロパガンダ(propaganda)とは、特定の思想によって個人や集団に影響を与え、その行動を意図した方向へ仕向けようとする宣伝活動の総称(「三省堂 WORD-WISE WEB」より引用)。主に国家が国民を扇動する際に用いられる。
 ※2:ジョージ・オーウェルの小説。ソ連をモデルとした全体主義国家「オセアニア」を舞台に、歴史を改ざんする役所「真理省」の小役人である主人公ウィンストンが政府の秘密を知り、反体制活動をするという物語。
 ※3:検閲の定義に関する裁判例(最高裁大法廷判決昭和59年12月12日)
「行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべきである」
 ※4:情報を十分に使いこなせる能力。大量の情報の中から必要なものを収集し、分析・活用するための知識や技能のこと(「デジタル大辞泉」より引用)。
 突っ込みどころしかない文章です。まず、句点や読点の使い方が酷い。段落の構成もおかしく、論理的につながっていない。少なくとも、「メディアの…」の行と「今、アマゾンで…」の行は段落を変えるべき。
 さらに基本的な言葉の定義を間違えているため、内容が支離滅裂である。例えば、私企業に過ぎないメディアやSNSが「検閲」などするはずがない。
 また、「プロパガンダ」はトランプ政権(当時)の十八番である。新型コロナウイルスを軽視するプロパガンダを掲げ、多くの感染者と死者を出したのは他ならぬトランプ政権である。政権が流したデマを、メディアは「有害なウソ情報」であると追及し、SNSは規約に基づき掲載を禁止したしただけである。
 ちなみに「1984年」が大幅に売り上げを伸ばしたのは、トランプ政権が自己に都合が悪い事実を「フェイク」呼ばわりし、自らが発信するデマを「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」と称して拡散させたことが、「全体主義国家を彷彿とさせる」と世界中で騒ぎになったのがきっかけである。同様の趣旨で売り上げを伸ばしたのがハンナ・アーレントの「全体主義の起源」である。
 「Qアノン」に代表されるように、ネット上に溢れる陰謀論にハマる人は少なからずいる。彼ら彼女らは様々なルサンチマンを抱え、既存のメディアを敵視して「ネットで真実に目覚めた」と称する。「情報リテラシー」を問われているのは投稿者本人であり、このような事実誤認と陰謀論だらけの投稿を載せる徳島新聞の編集者である。
 こんな感じで「頭の体操」をしてみました。もちろん、特定個人を誹謗中傷するつもりはありません。「問われる情報リテラシー」という題名に沿って書いただけです。
 きちんと知識を身につけて新聞を読むと「情報リテラシー」を養えるので、若い人にはぜひ読んでほしいものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?