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幻想酒楼主人御挨拶         ー幻想酒楼 零層目ー

主人口上

さてもさても、今宵は本楼へようこそお越しくださいました。お初にお目に掛かります幻想酒楼主人に御座います。月明かりばかりの道中にてお足元は如何でしたか。初めてお越しのお方には、ちつとお判りにくい迷い道、不埒な酒妖どもが悪戯などの御厄介をお掛けしておらねば幸いで御座います。

辿りつかれての隠れ家の本楼にてお出ししているものは、甘い酒、辛い酒、不思議な酒となんでも揃えてございます。さらりと一杯で抜ければ好いものを、酒の甘さに脚を取られて梯子酒、一層二層と楼を彷徨い高みに登るほどに見える景色も変わりゆき、気づけば深酒の酔眼も眩む高さにて、往きは良い良い帰りはなんとやらの童べ唄も御座います。聞けばそうして楼から出られなくなったお客様もいらっしゃるとの巷の噂。お客様もどうぞお気を付けてお登り遊ばせ。

さてお迎えしているこの楼も、現在(いま)の姿は泡沫の夢。人の夢も儚き一夜、夢に瓦と書いて甍と申します。甍遥けきこの楼も、次にお越しの際にはがらりと姿を変えているやもしれませぬ。今宵一夜は一期一会。ただひとときの夢をごゆるりとお愉しみ下さいませ。

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