小説を書きます。一杯の番茶のように、ほっと一息つきたい時に さりげなくも香りのある潤い…

小説を書きます。一杯の番茶のように、ほっと一息つきたい時に さりげなくも香りのある潤いとして読んでいただけたら本望です。

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山猫と郵便局            ー幻想酒楼 三層目ー

雨の郵便局緑の匂いが濃い。秋に入った雨は冷たく、色づきかけた葉の上を雨粒が銀色に光って転がり落ちていく。うっそうと葉を茂らせた樹々の下を私は早足で歩いていた。 このあたりはいまどきには珍しいほど家々の区画が大きく、庭木にも松や椎の大木が目立つ。もとは古い避暑地だったと聞けばそれも頷ける。崩れかけた大門や、長く続く塀の奥には古くとも立派な邸宅があるのだろう。 台風でも近いのか、強い風に樹々が揺れるたび肩に雫が滴って私は首筋をすくませる。やがて行く手にぽつんと、オレンジ色の灯り

    • 幻想酒楼主人御挨拶         ー幻想酒楼 零層目ー

      主人口上さてもさても、今宵は本楼へようこそお越しくださいました。お初にお目に掛かります幻想酒楼主人に御座います。月明かりばかりの道中にてお足元は如何でしたか。初めてお越しのお方には、ちつとお判りにくい迷い道、不埒な酒妖どもが悪戯などの御厄介をお掛けしておらねば幸いで御座います。 辿りつかれての隠れ家の本楼にてお出ししているものは、甘い酒、辛い酒、不思議な酒となんでも揃えてございます。さらりと一杯で抜ければ好いものを、酒の甘さに脚を取られて梯子酒、一層二層と楼を彷徨い高みに登

    山猫と郵便局            ー幻想酒楼 三層目ー

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