武蔵野美術大学公開講座2019 第5回「『役に立つ』から『意味がある』へのシフトを学ぶ!」レポート

モデレーター:稲葉裕美さん(OFFICE HALO代表取締役)
講師:山口周さん(独立研究科、著作家、パブリックスピーカー)

9月から隔週で行われている、武蔵野美術大学による「デザインとアートの力」をテーマにした公開講座ですが、本日でついに最終回です。

どの回も「クリエイティブ」「リーダー」「デザイン、アートの力」を主軸としつつ、毎度趣旨が全く異なり非常に楽しいものでした!

あらためて、大学というものは普段普通に暮らしていたら出会わないような方と接することができる貴重な場であるんだなと再確認できました。また大学行きたい…。

今回もお話を聞きながら、可能な範囲でレポートいたします。

山口周さんの代表的な著書

「役に立つ」から「意味がある」へのシフト〜昭和的優秀さの終わりの始まり〜

昭和は、暮らしの中で解決すべき問題がたくさんあった。それらを解決していればビジネスになった。ボールを待っていれば飛んできてそれを打っていればよい。

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今はものが飽和状態。多機能なもので溢れている今、「問題解決」ではなく「問題提起」していく必要がある。

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正解・ソリューションではなく問題・アジェンダ

受験やクイズ番組は、「人から出してもらった問題を完璧に答える」というもの。そういう本が、いまだに本屋でベストセラーになっていて、人々はそういう人に憧れている状態。しかし環境としてはその「問題解決」の価値が薄くなっている。→人の心よりも環境のほうが変わる速度が速い。

「ソリューション・正解」が過剰になっている。

モノではなく意味

昭和時代の幸福の象徴と言われていた「マイカー・カラーテレビ・冷蔵庫・洗濯機がある豊かな暮らし」は、平成初期ごろ実現したが、結果幸福度は上がらなかった。

今、日本でグローバル含め一番売れているのは「こんまりさん」の本。1100万部売れていて、ハリーポッター等に匹敵する部数。では彼女は、どういう価値を生み出しているのか?

「ものをなくす」ということに価値を生み出している

「ものをなくすことの価値」は、人類の長い歴史の中で初めてのことである。

利便性より情緒・ロマン

エアコンはエンジニアや企業の努力により技術的に最高峰まで上り詰めているが、利便性が低いがロマンがあるということで「暖炉」を導入する人は多い。エアコンと比べ高く、熱効率も悪いが選択される。

「役に立つ」が評価されず、個人にとっての「意味」が重視される

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役に立つ車は一定の金額までしか上がらないが、個人にとっての意味がある(ブランド)の車のほうが3倍や4倍も値段があがる。(値段が高くても3〜4倍役に立つわけではない!)

今車で一番高いのは、自分にとって役に立たないような、近未来的なスーパーカー。

「役に立つ」を追求することの危うさ

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「役に立つ」マーケットは、消費者からしたら1位の1社でいい。ただし「役に立たない」が「意味がある」ような嗜好品である「煙草」「お酒」などは様々な種類がある。

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(わかる)

トークセッション

大学時代に文学部を選ばれた理由は?やはり当時から経済学部などの「役に立つ」ではなく「意味がある」という感覚があったんでしょうか?

単純に楽しそうだった、ピンときた。文学という分野にかっこよさを感じていた。この分野で活躍する人や、世界観に憧れがあった。
データは裏切られるが、直感にはあまり裏切られない。
就職氷河期に就活をしていたが、「圧倒的有利」と言われていたような、経済学部・部活でのリーダーなどの経験者が苦戦するなか、そういう人たちを尻目に1社だけ受けた電通にあっさり入ったりした。

自分のプロデューサーになってあげるという感覚が大事。自分が主人公の物語で、自分が脚本を考える。そこになにも制約はなく、何をやっても良い。自分が文学部に入ったのも、そのような視点で「自分を文学部に行かせてあげた」という感覚。

あまり長期的に考えないほうが良い。世の中にはいろんな予測が出ているが外れていることも多い。そのときの直感、感覚が大事。

山口さんは様々な役職・職業を経験されていますが、自分自身の選択肢へのオープンさ(制限のなさ)はどのように培われたんでしょうか?

転職はあまりうまくいっておらず、8社ほど経験しているが、勝率は低い。当日いきなりやめることもあった。そこで切り替えて、新しいことをはじめたほうがいい。(特に前の会社の人と関係が悪くなったりとかもない)
これは生まれついての性格もある。高校とかも意味がないと思ってあまり行かず、美術館・図書館・博物館・映画館に行くことを繰り返していたが、このときの経験こそ今に活きている。高校で学んだことは全然役に立っていない。夢中になってやったことだけが心に残る。

自分(稲葉さん)と近くてちょっと嬉しい…。高校には意味を感じなかったのであまり行かず、日本の論点をひたすら読んで、いろんな意見に対する反論を、それぞれ色をつけながら見るのが好きでした。

類友ですね。

こんなスタンスだが、もちろん人生には悩んでいた。大学にも暗い思い出しかなかったし、電通にいくのも嫌だった…。寂しさみたいなのはあった。

社会への自分の関わりを考えるにあたって自分を客観化する、そのための手段としての「自分の脚本を考える」は有効そうだなと思いました。

実際のプロジェクトでも取り入れている。たとえばレクサスの「意味」を考えるにあたって、「10分くらいのショートムービーを考えてみる」は有効。登場人物、シナリオ、シチュエーション、こういうタイプの人が乗るというところまでイメージできないと「意味」で勝負ができない。どうしても「役に立つ」で勝負しがち。

こういう発送をするのは、小説や映画などの物語に触れることは大事。人が触れる「意味」のパターンに新しいものはない。

ポルシェやAppleがやっているが、「意味」は情報の蓄積なので、長い時間をかけて本を1ページずつ書き連ねていくように意味を蓄積していっている。それがブランドイメージになる。

別のパターンとしてpatagonia。「役に立つ」性能的な情報を蓄積しているのもあるが、「パタゴニア」という場所(「最後の秘境」というような)のイメージを盛り上げ、最大限活用してブーストしている。

コクヨのノートは役に立つが意味がない。モレスキンのノートは、ピカソが使ったり著名な人が使ってきたという「情報」の積み重ね、「物語」があるから強い。

リベラルアーツは「意味を生み出す」という観点でみたときに、どのように活きてくるのでしょうか?

意味をつくるにあたっては「パクる」ことが大事。パクるにあたっても、教養が非常に重要。(パクリもとがたくさんあるため)

チャーチルは意味を作り出すのが上手い人だった。「鉄のカーテン」などのメタファーを使い、意味を与えている。
また名演説でも知られているが、チャーチルは名演説集の本を常に持ち歩いて、今で言うお笑い芸人のように常にネタを仕入れていた。そのためかっこいい言い回し、ささる言い回しをたくさん知っていた。最終的にノーベル文学賞を受賞している。

また、問題を見つけるには旅をするしか無い。「もっと違う世界があって、こっちのほうが良い」と思わないと、問題に気づけ無い。
例えば日本は電柱だらけだが、外国に行くと全く電柱がなかったりする。

タイムトラベルもするとよい。昔のアート、文学作品にふれることで心の旅に出る。Airbnbの創業者も、もとは中世の旅行者の行動から発想を得ている。

目の前の当たり前を当たり前と思ってる限りは、問題に気づけない。

前回の関野先生の話に通じるところもあると思いました。非常に人気がある授業で、今ではない時点・原始の体験をすることで現代の当たり前に問を投げかけている。

先日、哲学者の方と面白い話をした。受動態・能動態の話。例えば「会社に行く」という行動は、能動態にあたるが、本当に「能動的」に自分がやっているのか?考えるとそんなことはないように思えてくる。

もともとギリシャ時代には受動態はなく、途中で生まれた。受動態が生まれたのは、「法律」が生まれたため。「責任」が発生するので、行動に対して「意思」というものをひもづけることにした。

突き詰めて考えると本来的には、基本的に人間の行動としては「受動」が多いほうが自然。

発想はどこからくるのか?

昼寝が大事。眠いとだめ。
何かをひらめくときは、ものすごく睡眠をとったときの朝、まどろんでるときや、シャワーでシャンプーをしているとき。シャンプーは大事。アルコールが入っていたり夜の時間帯に思いつくことは、後々考えるとそうでもなかったりする。
ひらめきは脳のネットワークのつながりなので、脳がしっかり働いていることは大事。

もうひとつは、アメリカの研究者が「天才」についての研究で判明した結果で、その人の最高傑作は人生においてもっとも多作だった時期に出る。逆に駄作もたくさん出る。
量を出すにはどうすればいいのか?アイデアをたくさん出すためには時間が必要。→長い間アイデアを出し続けるには?夢中になることが必要。好きなことを考えている人に勝てないのは、それについて考えている時間の長さが違うため。

つまらないことをやってるうちは、中長期的にはそれが「好き」な人には絶対勝てないので、次に行くほうがいい。

新しい価値を作るとはなにか?

マズローの欲求5段階説を考えるのがいいと思う。

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画像引用元:https://ferret-plus.com/5369

創造的リーダーを目指すみなさんにメッセージ

喜怒哀楽がすごく大事。今の創造的リーダーはものすごく世の中の問題に怒っていたり、悲しんでいるのでそれを解決しようとしていたり、また自分が楽しんでいるものを世界中の人に知らせてあげたいという思い。

これをやっていると共感してくる人がでてくる。そういう人と一緒に仕事をするととても楽しい。

「正しさ」で集まってきた仲間は離散しやすいが、「喜怒哀楽」で集まると強固なつながりが得られるし、友達になれる。

最近の著書で書かれていたとおり、チャーチルはイギリス的、ケネディはアメリカ的だったり文化的な背景が重要になってくるように思うが、今の日本に通用するストーリーとは、どういうものなのか?

そんなに特殊なものではないように思う。日本において、ストーリーやビジョンで引っ張って行くような会社はないように思っている。

でも言語を超えて伝わる、心を動かされるストーリーというのは存在するので、文化的な背景は意識しすぎなくてもよいように思う。

新たな発想を出していくにあたって、老いるということについて、どう考えているか?自分が若いときには、年上の人の考えは古く感じていたし、今の自分(40歳)が若手の考えを聞くと「若いな」と思ったりする。

今の若い世代と接していると、傾向は見えていて、たとえばひがみのような感情が少ないなと思ったりするが、老いというよりは単純に環境や世代の違いということであるように思う。

一方で、「老い」に関して、新しいアイデアを生み出す力としては「18歳がピーク」という生理学の研究は出ているので…まあしょうがない。普通に退場していけばいいのでは。

サイエンスへの向き合い方は?

アートのハートを、サイエンス(ロジック)の鎧で包む。エンジンはあくまでアート。
トロイの木馬作戦で、サイエンスで壁のなかに入って、後からアートの兵が中からワラワラ出てくるような。
サイエンスの外装でもってサイエンス派にうまく取り入る。なのでサイエンスのプロトコルは大事。
接合面(システム間をつなぐ)部分ではサイエンスが必要になってくる。アートのためにサイエンスをハックする。

たとえばサイエンスの人向けのアートの本である、「なぜエリートは美意識を鍛えるのか?」は、サイエンスの人向けの書き方になっている。タイトルからしてもそう。コアはアートになっている。

アートで戦うにはまず論理思考。

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今回も大変大変ためになりました!山口さんの語り口調が軽快で終始楽しく聞くことができました。
「アートで戦うためにサイエンス・論理思考を鍛えよ」は非常に染みましたね…。多くの作品にふれること、ストーリーテリングなどデザイナーとして取り組みたいことがまた多く発見できる講座でした。

5回を通して、以下のような観点は共通点として挙がっていたように思います。

・失敗してもいいからプロトタイプをどんどん作れ、多作であれ
・旅に出て新たな観点に触れよう
・多くの文学作品(SF)を読もう

ちゃんと思い返すともっとあるような気がしますが…。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
過去4回分もnoteにまとめていますので、もしよければ合わせてご覧ください!


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