あさ

日々の出来事や読んだ本から、自分の心が動いたことについて書いています。好きな詩は茨城の…

あさ

日々の出来事や読んだ本から、自分の心が動いたことについて書いています。好きな詩は茨城のり子さんの「自分の感受性くらい」。草野心平さん、石垣りんさんも好きです。

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  • 瞳の向こうに

    家族のルーツを辿って韓国に留学した記録

  • 日々の徒然

    日々の出来事や読んだ本から、心が動いたことについて書いています。

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①20××年2月20日、始まりの日

20××年2月20日、韓国へ向け旅立った。 東京の自宅の玄関で見送りに立つ祖母の姿を思い出し、胸が痛くなる。2年半前に私がタイの会社に転職した時には空港まで見送りに来られたのに、今は足腰が弱り見送りに行けなくなった。代わりに私の姿が見えなくなるまで玄関に立ち続ける小さくなった祖母。でも私は振り返ることができない。もう一度振り返ればよかったのに。ありがとうってちゃんと伝えればよかったのに。小さな後悔が空港に到着してもしつこく追いかけてくる。後悔を振り切るように、「着いたよ。行っ

    • ⑩植民地下のソウルで、祖母は帝国少女だった

      ある日を境に、祖母の口からぽつりぽつりと家族のはなしが語られはじめた。 その内容も、タイミングも、時間も、祖母次第だ。 夕飯を食べている時、お茶を飲んでいる時、テレビを見ている時―― 60年の間、かたくなに閉ざされ、心の奥底深くにしまわれていた記憶の扉。その重石がわずかにずれて、なにかの瞬間に記憶の一部に光が届いたとき、少しの沈黙のあと、「あの頃はね……」という言葉がもれる。 日本に来たばかりのころの生活のこと、母親に初めてハングルを教えてもらった日のこと、小学生の時

      • ⑨「あのね」からはじまる、家族のはなし

        朝鮮半島出身の祖父母の生い立ちや、日本に来た経緯について、祖母はいちども口にすることはなかった。わたしも、知りたいという気持ちを抱えながら、いちども「教えて」と口にしたことがなかった。 「触れてはいけない」。ルーツを知った12歳の時から15年間、ただひとつの掟が、暗黙のルールとして静かに、重く、横たわっていた。 でも、もう「知らない」ということに耐えられなかった。 2019年の初夏のことだった。 「掟破り」の一大決心をし、祖母に電話をかけた。「教えてほしい」とお願いを

        • ⑧祖母への電話、一世一代の決心

          「差別」というひとつのテーマにたどりつくと、世の中のあらゆることに無知だったわたしは、手当たり次第にいろんな本を読んだ。 でも本だけでは分からなくて、そこから生まれた疑問に導かれるままに、あちこちを訪れた。 重度の身体障害があって自宅のドアを開けるのに30分もかかるけれど、自立して暮らすことを諦めない人々 豊かな内面の世界を、言葉の代わりに絵や織物で表現する知的障害の人々 カンボジアの児童買春の現場と、その問題を本気で解決しようと活動する人々 ガーナの首都から車で6時間離

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        ①20××年2月20日、始まりの日

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        • 瞳の向こうに
          10本
        • 日々の徒然
          5本

        記事

          ⑦知らなくていいことなんて、ひとつもない

          韓国語を学ぶために語学堂にきて出会ったのは、よりよい「何か」を求めて韓国に来た年下のクラスメートたちだった。ベトナムや中国、中央アジアの国々から来た学生のなかには、きょうだいや親戚がすでに韓国にいる人も多くいる。 みんな、何を求めて来たのだろう。それは、学ぶ環境であり、いいお給料であり、共産圏からくる人にとっては言論の自由でもあるかもしれない。 もちろん単純に、K-Popやドラマへの憧れ、韓国が好きというポジティブな動機もあるのだろう。でも、彼らが来た国の経済状況や子

          ⑦知らなくていいことなんて、ひとつもない

          ⑥語学堂に行ったら、初めてオンニと呼ばれた

          いよいよ今日から語学堂での授業がはじまる。 クラス分けテストの結果、希望していた通り3級からのスタートできることになった。順調に行けば、1年間で一番上の6級まで終えられる。 授業は平日9時から13時まで。50分授業が4コマある。3カ月少しで1学期が終わり、学期と学期の間には3週間弱の休暇がある。 学校の授業はもちろんのこと、クラスメートと会うことも楽しみだった。 どこの国から、どんな理由で来ているのか。 韓国という国についてどんな印象を持っているのか。 そんな話を

          ⑥語学堂に行ったら、初めてオンニと呼ばれた

          ⑤韓国でスラダンを見たら、歴史が浮かび上がってきた

          「スラダンを見にいこう」 朝起きて今日といういちにちが、手つかずのままたっぷりあることを知って、そう思った。 そう決めたら、心が一気に浮き立った。 私はあまりアニメを見たことがない。映画館で同じ映画を2回以上見たこともない。でも、スラダンは日本の映画館で2回見てしまった。なんなら3回目を見たいのを我慢していた。 韓国でも見ることができるんだ。 素直にもう一度見られるという喜びと、韓国語で見るという初めての試みにわくわくし、きょうという日の最高の過ごし方に思えた。

          ⑤韓国でスラダンを見たら、歴史が浮かび上がってきた

          ④クラス分け試験の日

          新しい部屋は、これまで住んだどの部屋よりも小さい。 大学生の頃は実家暮らしだったので、初めて学生向けのワンルームに住む。 広さは大体20㎡くらいだろうか。 玄関を入るとすぐにIHキッチンがあり、下には洗濯機が取り付けられている。 スライド式の扉をひくと部屋がある。 南向きの大きな窓、机、ベッド、本棚、収納。部屋には2つ扉があり、ひとつを開けると、シャワーと洗面台とトイレがひとつになっている水回り。そして、もうひとつを開けると冷蔵庫だけが置かれている空間だ。一人暮らしだとせ

          ④クラス分け試験の日

          ③新しい生活のはじまり

          温かいスープでお腹を満たし、穏やかな静けさに包まれた部屋で柔らかい布団にくるまりぐっすり眠った。普段はあまり目覚めがよくない方だが、すっきりとした目覚めで朝を迎えた。 語学堂での授業が始まるまで10日ある。 それまでにしなければいけないことが、引越しとクラス分けのテストだ。 今日は早速、アパートに入居する日だ。 午前中に不動産に行って、契約書にサインする約束になっているため、出かける支度を始める。祖母が昔から使っていた年季の入った布製のスーツケースに再び荷物をぎゅうぎ

          ③新しい生活のはじまり

          ②韓国初日の夜

          夕方、夜の始まりの韓国に到着した。 30kgギリギリまで荷物を詰め込んだ古い布製スーツケースと、機内持ち込みで許可されている10kgの小型スーツケース、そして背中を覆うほどのリュックサックにも溢れるほどの荷物を詰め込んできたため、一人で持ち運べる重さの限界が近かった。 空港でVISAの確認や健康状態の申告を経て、ひとまずタクシーに乗ってホテルに向かう。韓国語は日本在住の韓国人の先生とマンツーマンの授業で2年半ほど勉強してきたが、実際に使ってみたことはほぼない。空港前に待機

          ②韓国初日の夜

          父さんへの最後の願い

          父が突然の病に倒れた。その時点で、もう長くて3カ月しか命がないことがはっきりと分かった。それはもう明白だった。 それからわたしの中にひとつの願いが生まれた。 最後に、きちんとわたしの父親になってほしい。 これから、父さんがいない人生を生きていく上で支えとなる言葉を下さい。 長い間、父のことが嫌いだった。すぐ怒鳴るから怖いし、話すこともないし。60で定年を選択した父は、長年の夢だった山小屋暮らしを始め、気づけば3年程会っていなかった。実質的には離婚だった。 病室でやせ

          父さんへの最後の願い

          あなたらしくね

          令和元年5月1日の作品。 どーんと。個性の強いお花たち。 直径20㌢ほどの大きな大きな赤いダリア。 それに負けない、イタリアの太陽のような力強いエネルギーを発する大輪のガーベラ。そして可愛らしい心をくすぐる甘いオレンジの薔薇。 それだけじゃないです。 かすかに姿を見せるのは純白で柔らかに匂い立つ白薔薇。 そして優しくで上品な薄緑のカーネーション。緑と白のカスミソウがお互いをつなげてくれます。 「わたしはここ」 主張が強そうなお花たちだけど、「あ、ここなのね」と

          あなたらしくね

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          お家でお花見

          お家でお花見

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          春になると思い出すこと

          今年の富山は4月に入っても雪が降った。 それでも2日前にはソメイヨシノが満開を迎え、今週末は冬の間どこにいたのだろうというくらいのたくさんの人が川沿いで花見をして、まっすぐ歩けないほどにぎわっていた。 いつも桜で春の訪れを実感するが、今年はもっと印象深い風景に山奥で出会った。 3月上旬に、山を管理する人に案内してもらい、ふきのとうを採りに行った。今年は平野部では全くといっていいほど雪が降らなかったけれど、車で山奥に進むと残雪があった。 朝8時、山の途中で車を降りると、視

          春になると思い出すこと

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          クリスマスのような正月のような

          クリスマスのような正月のような

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          女の子だからじゃなくて、「わたし」だから

          この前、会社で男性の先輩たちと話していたら、地方議会には女性議員が少ない、という話題になった。 「候補者男女均等法もできたのに、政党はやる気あるのか」「女性候補者を増やすためには」などと途切れなく先輩たちを前に、わたしも自分の意見はあるから会話には参加しながらも、本心では「わたしは興味ありません」と吐き捨てて逃げ出したかった。その場で唯一の女性であるわたしが当然、関心と問題意識を持っているよね、と思われていることも嫌だった。 女性議員を増やす必要性や意義は分かるつもり

          女の子だからじゃなくて、「わたし」だから