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まだ見ぬ魚を追いかけて ~北海道からの沖縄移住記 2021年2月~

 今年から、西表島で初挑戦した釣りを再開した。初心者用の釣り具セットを買ってあったものの、ラインが絡まってしまって放置していたのだが、詳しい友達のおかげで、ようやく体勢を立て直すことができた。

 正直、釣りの用語も針やおもりの選び方もわからない。竿の扱い方だけ友達に教えてもらって、あとは沖縄の釣り動画を浴びるように見て概要をつかみつつ、キャンプのたびに海に投げてみる。キャンプも釣りも、それ自体だけでなく、付随してだんだん身についてくる知識やノウハウがおもしろい。苦手だった学校で習う理科全般が、アウトドアでなら楽しく学べる。キャンプで言えば、火のおこし方や、道具類の素材の特性。釣りなら、魚の種類や生息する海中の地形の違い、それから六時間ごとに引いては満ちる潮について。キャンプ・釣りと一言で言っても、求めるものや楽しみ方が、人によって全く異なることもわかってきた。「色々な人がいて、色々な生き方がある」という、当たり前のようでなかなか簡単には受け入れられないことが、心で分かるようになってくる。

 外遊びに夢中になっているうちに、三度目の桜の季節がやってきた。桜の季節は、私が西表島からこの本島北部にやってきた季節であり、本当ならまだ雪に埋もれているはずの私の誕生月でもある。とうとう三十歳だ。これまでとても自由に生きさせてもらって、これからも同じように生きていくのか、それが私にとって正解なのかを、考えずにはいられない。

 二十代の終わりはあまりに楽しく、三十代だって絶対楽しいと断言できる。けれど一方で、友達とのキャンプから帰ってきた後、一人で道具を洗って片付けている時に感じるさみしさとか、耳をかすめていく世界の不穏なニュースたちを前に、私は途方にくれる。まだ何もできない子どもみたいだと思い知らされるからこそ、考えることをやめずにいられるのだと思う。世界の暗い波をくぐり抜け乗り越えるにはどんな力がいるだろう?この手でつかめるものを増やしたい。とりあえずまずは、この手で魚をつかまえたい!


あさひかわ新聞2021/2/16号「沖縄移住記28 果報(カフー)を探して」掲載

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