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水野美紀“驚愕”の展開… 夫は独身時代、庭に何を埋めたのか?

 42歳で電撃結婚、翌年には高齢出産。女優・水野美紀さんが“母性”ホルモンに振り回され、育児に奮闘する日々を開けっぴろげにつづった子育て奮闘記『余力ゼロで生きてます。』(2019年11月、朝日新聞出版)からの記事。今回は「動物を飼うこと」についてお届けします。さらに子育て奮闘記第二弾『今日もまた余力ゼロで生きてます。』も好評発売中! こちらもお楽しみに。

水野美紀の子育て奮闘記『余力ゼロで生きてます。』(2019年11月、朝日新聞出版)

「ハムスター飼いたい」

 急に夫が言い出した。

 近い将来、小学生になった我が子に、

「犬飼いたい」

 とせがまれるのは育児あるあるだと認識していたので、対策をぼんやりと想像したりしていたものだが、まさかハムスターとくるとは。しかも夫から。

 絶対にネットで動画か映画か何かを見て感化されたのだ。

 私が渋い顔をしていると、

「ほら、ハムスターって、そんなに長生きしないじゃん」

 と夫。だから手軽に飼えるんじゃない? ということが言いたいのだろうか。

「てことは、花壇の一角にハムスターのお墓ができるわけだね」

 どうだ。

 葬式を済ませるまでが飼育である。そこまで考えていたか、夫よ。

「俺が一人暮らししてた家の植え込みにはいっぱいお墓があるからね、実は」

 初耳だ。

 どういうことだ。そこまで経験済みだと言いたいのだろうか。

 いっぱい? いっぱいって、どういうことだ……。

「何飼ってたの??」

 話がホラーの方向に進みはじめた。

 夫の以前住んでいた家は、資料やら服やらで、足の踏場もないほどぎっしりなワンルームで、とても犬や猫を飼えるような環境ではない。

 水槽なんかも置いてあった記憶がない。

 あの部屋で一人、いったい何を飼い、葬ったのだ! いっぱい!

「え?」

 と言いよどむ夫。「よけいなことを言っちまった」という顔で。

 ハムスター飼いたさに、よけいなカミングアウトをしたのに違いない。

「何を埋めたのよ!」

 私は恐怖に少し顔が引きつっていたかもしれない。

「ある日、駅から歩いて帰っていたら……」

 夫が話しはじめた。

 え? 何、この意外な導入部。

「お祭りで金魚すくいしたら、意外とすくっちゃってさあ」

 とか、そういうのを予想してたんだけど。

 ちなみに私は、中学生の時にヒヨコ釣りで2匹釣れて、ヨシコとマコトと名付けて飼いはじめたら2匹とも立派に育って、毎朝、コケコッココケコッコすごい声で鳴くもんだから、困って学校に相談して学校の飼育小屋で飼ってもらえることになった、という経験があるけども。

「ある家の前に、『ご自由にどうぞ』って……」

 え? なにそれ、やっぱり子猫とか子犬? そのお家で産まれちゃって、飼えないから箱に入れて? ひどい! ちゃんと避妊手術するとか、飼い主の責任で管理してほしい。

 飼えないにしても、箱に入れて捨てるんじゃなくてもっとやり方が、

「大量のおたまじゃくしが置いてあってさ……」

 ……おたまじゃくし?

 え、見たことある? 家の前におたまじゃくし捨てられてるの、見たことある?

 あたし一回もない。

「俺は連れて帰ったんだ」

 なんで水槽もないのに連れて帰るかね。

 ていうか、普通連れて帰るかね? おたまじゃくしを。

 いやその前に、その家、仮に山田さん家としよう。

 山田さん、そのおたまじゃくしどうした?

 どっから持ってきた? カエル飼ってるの? 卵産んだの? そして産まれたの?

 きっとカエルを飼いたい人がいっぱいいるから、道行く人に分けてあげよう。そういうこと?

 そんなにいないよ? カエル飼いたい人。

 子供が欲しがると思ったのかしら。

 カエルが好きな大人、そうそういないもんね。

 モチーフとしては私も好きだけど、モノホンはね。

イラスト:唐橋充

「ほら、俺、アマガエル好きじゃん?」

 いたよね、ここに。

 この人が山田さん家の前を通る偶然たらね。

 そうか。じゃ、埋まっているのは、おたまじゃくしだったのね。

「で、翌日水槽買いに行ってさ」

 あ、なに? 水槽買ったの?

「空気ぶくぶくするやつとか買ってさ、お世話したわけ」

 ってことは……カエルになったんだ。

「ヒキガエルだったよね」

 山田さんどうした? え、これトラップ? 山田さんのトラップ?

「でも俺はコオロギあげたりして育てたわけ」

 よかったよ。皆殺しにしたのかと思ったよ。

「何匹、カエルになったの?」
「10匹くらいかな」

 うえええええ!!

「でもさ、みんな長生きしなかったよ」

 なんなんだ、この何ともいえない話。

 で、結局、夫は、

「我が子に命の大切さと悲しみを知って欲しい」

 と言う。

 自分はカエルが死ぬたびに落ち込み、悲しかったけれど、えいやっと気持ちを切り替えて、

「ま、いっか!」

 と乗り越えて来た、と。

 だからハムスターを飼いたい、と。

 じゃあ、まずカエルでいいじゃないかと思ったが、私に断固拒否されると思ったのだろうと推察する。

 もちろん拒否! カエルは拒否!

 ハムスターは……。

 もうちょっと考えさせてもらいたい。

 ただ、これだけははっきり言える。

 ハムちゃんがその生涯を全うし、天に召された時、一番落ち込んで号泣するのは夫だろう。

 我が子はに「よしよし」と慰められている夫の姿が眼に浮かぶ。

水野美紀(みずの・みき)
1974年三重県生まれ。女優、作家・演出家。87年芸能界デビュー。2017年第一子を出産。映画「踊る大捜査線」シリーズ、ドラマ「探偵が早すぎる」シリーズ、テレビ番組「突然ですが占ってもいいですか?」、舞台「ベイジルタウンの女神」。舞台では脚本・演出を担当、自身で演劇ユニット「プロペラ犬」も主宰している。他にも多数の出演作があり、CMにも出演するなど、幅広いジャンルで活躍し続けている。また、何気ない日常をユーモラスにつづったエッセイ集『水野美紀の子育て奮闘記 余力ゼロで生きてます。』も好評を得ており、続編が9月20日に発売予定。その他の著書に、『ドロップ・ボックス』『私の中のおっさん』『プロペラ犬の育て方』がある。

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