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「親バカにだけはなるまい」と誓った水野美紀 我が子の2度目のクリスマスツリーに懊悩する

 42歳で電撃結婚、翌年には高齢出産。女優・水野美紀さんが“母性”ホルモンに振り回され、育児に奮闘する日々を開けっぴろげにつづった子育て奮闘記『余力ゼロで生きてます。』(2019年11月、朝日新聞出版)からの記事。今回は子どもが産まれて2度目のクリスマスを控え、「親バカ」について懊悩する水野さんをお届け。さらに子育て奮闘記第二弾『今日もまた余力ゼロで生きてます。』も好評発売中! こちらもお楽しみに。

水野美紀の子育て奮闘記『余力ゼロで生きてます。』(2019年11月、朝日新聞出版)

 クリスマスが近い。

 二子玉川に向かう道すがら、ベビーカーに我が子を乗せ、私は「親バカ」について想いを巡らせている。

 我が子にとっては産まれて2度目のクリスマス。とはいえまだ1歳。クリスマスなんてまだ分からない。だから、うちでは特に何の準備もしていない。

 ツリーを飾る予定もないし、プレゼントを渡す予定もない。小学校に上がるくらいの頃でいいだろう。

 こんなちっちゃい頃から大げさに祝うのは、それこそ親バカだろう。

 そんなことより、日々の、こんな何でもないお散歩の方が、我が子は嬉しいはずだ。その証拠に嬉しくて足をバタバタさせているじゃないか。

  ん?
  どうしたの?
  あ、靴脱ぎたいの?
  脱いじゃうんでちゅか?
  はいはい、今脱がせてあげるからねー。

 親バカってのはみっともない。

「親バカにだけはならないぞ」と20代の頃から決めていた。

 古くからの友人がパパになり、お宅に遊びに行った時、

「この人だけは親バカにはならないだろう」

 と思っていたその友人が、デレデレの親バカぶりを垣間見せてきた時にも、私は心に誓ったものだ。

 私だけは、親バカになるまいと。

 いい大人が、人前で赤ちゃん言葉を使うのもみっともないし、何でも買い与えるなんてもってのほか。服なんてすぐ着られなくなるんだからお下がりで十分だし可愛い服着たって本人はよく分かってないんだから。ほとんど親の自己満足だ。

 しかし、風邪を引けば咳が出て「風邪をひいているぞ」と分かるが、親バカには自覚症状がないようだから、気を付けなければいけない。

 さあ駅に着いた。

  電車に乗りまちゅよー。
  ほら~、電車きたよー。バイバイしてるの?
  電車にバイバイしてるの?
  可愛いねえ。
  これから乗るからねー。
  ガタンゴトンだねー。

 休日の電車は空いている。ベビーカーで乗るにはありがたい。

 ベビーカー優先スペースもあいている。よし。

  ほらー、お外見えるねー。

 まあ、「気を付けなきゃ」と思っている時点で、自分が親バカになりそうな危険をすでに感じているということになってしまうのかもしれない。それは、ホルモンの影響もあって、子供に対する感じ方がすっかり変わってしまったので仕方がなかろう。

 親バカが高じるとその先に「バカ親」というのもあるらしい。

 学芸会で、

「うちの子の出番が少ない」

 とか、かけっこで

「順位をつけるのはかわいそう」

 なんて文句をつけるのはもう、バカ親の類だろう。

 出番が多けりゃいいってもんじゃないし、かけっこだって、ビリだったら「悔しい」と感じて、速く走れるように頑張ろう、と思うのが大事なんじゃないか。

 うん。私は大丈夫。

 バカ親になる類の親ではないぞ。

 ちゃんと客観視できている。

 夫は我が子にメロメロだけど、大丈夫だろうか?

 たまに子煩悩を通り越して、過保護になる気がするしな。

 メルカリで我が子の服買いすぎだしな。

 夫が親バカになってきたら私がしっかりと歯止めをかけなくちゃな。

 などと考えているうちに、二子玉川駅に着いた。

 駅前の広場には大きなクリスマスツリーが出現している。

イラスト:唐橋充

 ほら、この時期こうして出かければ、あちこちに立派なツリーが飾ってあるんだから、わざわざ家の中に飾らなくたっていいのだ。

 ただでさえ片付けが大変なのに、1年に1回しか使わない、こんなかさばる物を増やすなんて馬鹿らしい。

 それに結構いい値段するし。子供のために高くても買っちゃうから、足下見られてるんじゃないの?

  ほら見てごらん。おっきいねーー。
  クリスマスツリーだよー。

  ん?
  ベビーカー降りる?
  歩きたいの?
  ツリーのとこ行く?

  よしよし、ほら、走ったら危ないよ!
  ゆっくりよ!
  走るの速いねえ~。
  将来はオリンピック選手かな?

  ツリーを指さしてるの?
  そう、これがクリスマスツリーだよお。
  サンタさんにお手紙入れるポストもあるねえ。

  嬉しいの?
  きれいねえ、キラキラして。
  そう、そんなに嬉しいの?
  あら、そんなに?
  きゃっきゃ言って。
  大声出して。
  そんなに嬉しいの?

 ……買う!!

 うちにもツリーを飾る!!

 夫にメール!

 それにしても自覚症状がない、っていうのが厄介だよなあ。

 まあ、子供可愛さに盲目になる気持ちはよく分かる。だけど、可愛がるのと甘やかすのは違うからね。その辺しっかり見極めていかなくちゃ。

 あ、夫からメール。

 なに? 「90センチのツリーと150センチのツリーがあるけどどうする?」だって?

 150センチで!!

水野美紀(みずの・みき)
1974年三重県生まれ。女優、作家・演出家。87年芸能界デビュー。2017年第一子を出産。映画「踊る大捜査線」シリーズ、ドラマ「探偵が早すぎる」シリーズ、テレビ番組「突然ですが占ってもいいですか?」、舞台「ベイジルタウンの女神」。舞台では脚本・演出を担当、自身で演劇ユニット「プロペラ犬」も主宰している。他にも多数の出演作があり、CMにも出演するなど、幅広いジャンルで活躍し続けている。また、何気ない日常をユーモラスにつづったエッセイ集『水野美紀の子育て奮闘記 余力ゼロで生きてます。』も好評を得ており、続編が9月20日に発売予定。その他の著書に、『ドロップ・ボックス』『私の中のおっさん』『プロペラ犬の育て方』がある。

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