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SAR衛星画像で能登半島地震の被災状況を把握する初めてのトライ

はじめに

地震や、台風などの自然災害が発生した時に、一番重要なのは被害状況を迅速に把握することです。それによって、迅速かつ適切な救援や、復旧、生活再建活動を行うことができます。災害地の状況を迅速に把握するために、衛星画像を解析した結果を利用することができます。

朝日新聞社メディア研究開発センターの福沢です。令和6年1月1日16時10分に、日本の石川県の能登半島地下16kmで発生した最大震度7の内陸地殻内地震で、建物の倒壊や津波の被害、それに地盤の隆起、火災の被害などが発生しました。その状況を把握するため、今回は衛星データを用いて現地の被害状況を簡単に解析しました。

概要

地震被害の概要を把握するためにはSARの干渉解析などがよく使われています。SARでは地表面の変化(沈降や隆起など)も推定できます。
一方、より詳細な被害 (建物や道路の損傷など) は光学衛星データの解析により把握できます。

SAR衛星

SAR衛星は、地表に向けて電波を発射し、その反射を観測します。この技術により、雲や夜間でも観測が可能であり、地形や地表の特性に関する情報を獲得することができます。
災害前後の画像を比較することで、微細な地形変化や地表の移動を検出し、測定することができます。これにより、地滑りや地盤沈下のリスクなどを評価できます。

光学衛星

光学衛星は、太陽光を反射する物質を観測し、地上の画像を撮影します。
 一般的に、フルカラーの衛星画像が得られますが、夜間や雲に覆われている場合は撮影できません。光学衛星のデータは、建物の損傷や道路の損傷、土砂崩れなどの被害を直接的に示すため、災害時の被害の範囲や深刻さを素早く把握できます。

今回SAR衛星データを中心にトライを行い、解析方法や、関連事例をご紹介させて頂きます。

 トライ

・SAR衛星
光学画像のデータは、可視光線を使用して観測されたデータです。一般的な写真と同様に、人間の目で見ることができるものです。このようなデータは、航空写真のような目視のイメージに近い画像を提供します。

 下記の2枚の写真は「PALSAR-2_L2.1*」のSAR画像です。
PALSAR-2_L2.1というのはJAXAが開発した「だいち2号(ALOS-2)」に搭載されたPALSAR-2というLbandの合成開口レーダ(SAR)で観測したデータです。分解能:3~100m、観測幅:50~490km。

(1) 2023年12月6日の撮影

(2) 2024年1月3日の撮影

(3) DInSAR (差分干渉SAR) 解析を用いて、上記2枚の差分を行った結果

上記は、(1)と(2)を比較して、差分を赤と青で示しています。ただ、PALSAR-2_L2.1のSAR画像は解像度が低いので、差分が何を示しているのかまではわかりません。一方、衛星データのGPS情報が取得できるので、位置情報から地図とマッチングする後処理を行えば、具体的な情報(建物など)を明らかにできる可能性があります。

SAR衛星データの解析方法

SAR衛星データを用いて地震の影響を分析するには、複数の方法があります。これらの方法は、地表の変化を検出することで地震による損傷の範囲と程度を評価できます。以下に、主要な解析方法を紹介します。

干渉SAR(InSAR)解析

干渉SAR技術は、二つ以上のSAR画像を重ね合わせることで地表の微細な変動を検出する方法です。これは、特定の地点での地表の相対的な動きを計測し、地震による地表の隆起や沈降をマップ化します。この方法は、地震だけでなく、火山活動や地滑りなど、他の地表変動の研究にも広く用いられています。

DInSAR(差分干渉SAR) 解析

DInSARは、二つの異なる時間に撮影されたSAR画像の位相差を利用して、その間に発生した地表の変動を検出する技術です。この方法は、地震によって引き起こされる地表の変化を詳細に捉えることができ、特に大規模な地殻変動が発生した場合に有効です。

ピクセルオフセット法

ピクセルオフセット法は、地震前後のSAR画像内の特定の特徴(例えば、建物や地形)の移動を検出する方法です。この技術は、干渉法では捉えられない、水平方向の変位や大きな変形を検出するのに特に有効です。

時系列解析

複数の時点で取得されたSAR画像を用いて、時系列的な地表の変化を追跡する方法です。このアプローチにより、地震の前兆現象、本震による影響、そしてその後の余震や地盤の安定化過程を詳細に分析することができます。

機械学習・AIを利用した解析

最近では、機械学習や深層学習技術を用いてSARデータから地震に関連する特徴を自動で検出し、解析する方法が開発されています。これらの技術は、大量のデータから複雑なパターンを識別する能力を活かして、より迅速かつ精密な被害評価を可能にします。

これらの方法は、それぞれに利点と限界があり、実際の分析では複数の手法を組み合わせることで、より包括的で正確な地震の影響評価が可能になります。

他の参考事例

今回、SAR画像を用いて、簡単にDInSAR (差分干渉SAR) 解析手法で、能登半島地震による現地の変化を検知しました。詳細的な変化情報まで行ってないですが、今後さまざまな解析方法を活用して、もっと正確的に現地の情報を把握して行きます。
一方、実運用の参考としては、下記の2例の研究成果もご紹介したいと思います。

山梨大学の研究成果

大地震時の被害状況を即時に把握するAI技術を開発

"この研究では、人工衛星が周期的に地表を撮影していることに着目し、地震前後の画像を詳細に比較することで地震による建物形状の変化を検知する3D convolutionを導入したAI技術を開発し、従来の画像処理技術よりも高い精度で建物の倒壊を検知できることを検証した。また、日本全国で社会のデジタルツインとして整備が進んでいるデジタル都市データから、地震時の建物被害と関連の深い建物の築年代と建築材料の2種の情報を抽出し、衛星画像の画像処理結果と統合した分析をAIに行わせることで、更に倒壊した建物の検知精度を向上させた。 開発技術を2016年熊本地震時の被災地域のデータに適用した結果、地震によって倒壊した建物を90%超という世界最高水準の高い精度で検知することに成功した(下図)。"(大地震時の被害状況を即時に把握するAI技術を開発、p.2)から引用されました。

開発手法による被害検知結果と実際の被害状況の比較
(2016年熊本地震時の被災地域に対して適用)

国土地理院 

「だいち2号」観測データの解析による令和6年能登半島地震に伴う地殻変動
"2014年1月1日16時10分頃に発生した令和6年能登半島地震(M7.6、最大震度7)について、だいち2号の観測データを使用し、2.5次元解析、ピクセルオフセット法による解析、及びSAR干渉解析を行いました。
 今回の解析により、能登半島全域の地殻変動が明らかになりました。2.5次元解析結果では、輪島市西部で最大約4m※の隆起、最大約2m※の西向きの変動が見られます。珠洲市北部で最大約2m※の隆起、最大約3m※の西向きの変動が見られます。(下図)"(「だいち2号」観測データの解析による令和6年能登半島地震に伴う地殻変動(2024年1月19日更新)、p.1)から引用されました。

2.5次元解析結果による変動量(「だいち2号」観測データの解析による令和6年能登半島地震に伴う地殻変動(2024年1月19日更新)、p.1)と記載されています。

まとめ

自然災害が発生した際、迅速に被害状況を把握し、適切な救助や復旧活動を展開することが最優先されます。特に、令和6年1月1日に石川県能登半島で発生した大規模地震のような緊急時には、衛星画像の解析が重要な役割を果たします。この地震では、建物の倒壊、津波の被害、地盤の隆起、火災など、多方面にわたる被害が生じましたが、衛星データの活用により、これらの被害状況を迅速に捉えることが可能になります。

地震被害の概況を把握するために、SARの干渉解析などが用いられ、地表面の変化を推定することができます。また、光学衛星データは、建物の損傷や土砂崩れなどの直接的な被害を示し、災害の範囲や深刻さを素早く理解するのに貢献します。これらの技術により、災害前後の画像から地形の微細な変化や地表の動きを検出し、地滑りや地盤沈下のリスクを評価することができるのです。

また、山梨大学の研究成果では、地震による建物の形状変化を検知するAI技術が開発され、2016年の熊本地震データへの適用により、倒壊した建物を世界最高水準の精度で検知することに成功しました。国土地理院による令和6年能登半島地震の解析でも、地殻変動が明らかにされ、重要な情報を提供しています。

このように、SAR衛星や光学衛星をはじめとする衛星データは、自然災害発生時における被害状況の迅速な把握と分析に不可欠なツールです。これらの技術を活用することで、効果的な救助活動や復旧計画の策定が可能となり、災害に対する社会のレジリエンスを高めることができます。

メディア研究開発センター・福沢栄治