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新都橋の結婚式(中国)2018


ゾンジャブ Xinduqiao 新都橋

 新都橋(ゾンシャプ)は、四川の成都からチベット自治区のラサを繋ぐ川蔵公路(南路)上にあり、位置的には康定(ダルツェド)と理塘(リタン)の中間ほどにある。康定と理塘間の移動の寄り道にはちょうど良い距離だ。そして何よりここにはチベタン風の家屋が結構残っているので、街並み散策にうってつけの場所だ。康定と理塘の二つの街は都会であって移動という意味では便利な街ではあるが、近代的なビルやホテルが多く立ち並び、チベタン風の昔ながらの街並みを味わうとなるとちょっとゴンパ周辺ぐらいしかなくなっている。そういう意味ではまだ開発されてなく、大通り沿いにも多くのチベタン風の威風堂々としたいかにも頑丈そうな石作りの直方体住居が並ぶ様は見ごたえがある。ひょっとして表面上に石を積み上げたように外観だけにしているのかもしれないが、それでも町の風情が“チベットを感じる”という意味で散策が楽しくなる。


 街中を散策していると、赤いテープでデコレーションされている車が目に入った。聞くとやはり結婚式用の車で明日の朝に式だという。ラッキー!! 以前にもチベタンの結婚式に遭遇したことがあるけど、時間の関係でうまく撮影できなかった。今回は時間的にも明日は余裕があるのできっとうまく撮影できるだろうと、心うきうきモードで翌日を迎えることになった。


結婚式の準備

 朝に会場となるレストランへ向かうとチベタンの盛装した人々が式の準備におしゃべり(身内の挨拶か?)に大忙しと動き回っていた。それにしてもみんなの表情がとても明るい!!やはりこういうおめでたい場面になると誰でも頬が緩んでしまう。そしてなおラッキーなことに雨勝ちの天候だったにもかかわらずこの日は青空が広がった。雨季のさなか文字通り素晴らしい晴れ舞台となったのである。


 写真右の思いっきり笑顔の青年が新郎。服装も素晴らしいが首飾りも重量を感じさせる。


 チンコー麦(裸麦)で仏教の卍を描く関係者。これは何にするのかなー?と思っていたが新婦が登場したときに明らかになった。


結婚式

 しばらくすると新郎が車に乗り込みこれから新婦を迎えに行くらしいとのこと。正直言ってこれには嫌な予感がした。すぐに新婦を連れて戻ってくるよ、とのことだったのだが、今までにこういう場合にすぐに戻ってきた試しというのは記憶にない。数時間レベルで“すぐ”と表現されることが田舎では多いので結構心配であった。しかし、実際には本当に嫌な予想に反して30分ほど(だったかな?)で戻ってきたのである。車列が到着する直前になると、おそらく事前に携帯で連絡されているのだろうけど、カタと呼ばれる白いスカーフを持った人が列を作り始めた。これはチベットで相手に敬意を表するときに使われるものである。そしてサン(お香)が焚かれ、白い香煙が道路を支配し始めたころにド派手に爆竹の爆音が鳴り響き、新郎新婦の到着を村民に知らせた。そして間もなく赤いリボンで飾り立てた数台の車列が白い長いカタの列の前に滑り込んできた。見事なチベタン衣装で身を固めた新婦がドアを開けて笑顔を見せた。ここのチベットエリアでもきっと赤はおめでたい色なのであろうか、紅白がベースとなった民族衣装で特徴的なのは腰からぶら下げている重そうな飾りだ。そして意外なのは車からそのまま地面に降りることなく、まずは準備中に見たチンコー麦で描かれた卍の上になんと足を下したのである。しかももちろん土足で。日本だと、宗教的なものを足というか土足で踏みつける行為はとても非常識で侮辱的な印象を与える行為だ。とても不思議ではあるけどこの地方では、これには今までの災いを洗い流すという意味があるのだという。


 写真右のカタをいっぱい抱えた二人の男性がきっと新郎新婦の父親と思われる。マイクを握った男性は日本では仲人に相当するような役のようで、なにかお目出たいような言葉をチベット風の詩の朗読のように詠っている。


 その後は僧侶が現れ、二人に読経をし、聖水らしき液体を降りかけている。


 これでとりあえず儀式は終了し、一同はレストランへ吸い込まれていった。

入り口には写真のように器を持った人が待っている。白い三つ細長い塊はヤクのバターで中の液体はチンコー酒である。この酒を指に浸し、上に向かって酒を弾き飛ばすような仕草を3回行う。一度目は神へ、二度目は祖先へ、三度目は両親へ、というお祈りだという。


 レストラン内では多くの村人が御馳走を前に歓談していた。そしてさらに次々と料理が運ばれてくる。

 新郎新婦は来客の各テーブル全てに足を運び、一緒に祝杯を挙げる。こういうところは結構世界どこでも似たような感じで、とてもめでたいシーンだ。


ヤクとチンコー麦

 今回こうやって結婚式を見ていくと、チベットの人々にとって生活上重要なキイワードが二つあることに気付く。ヤクとチンコー麦だ。日常の中だけでなく、このような一生の上で重要なイベント場面においても色々な形で使われている。ヤクは結婚式においてヨーグルトやバターとして登場したが日常では毛皮や肉が重要だ。チンコー麦はもちろん酒だけでなく、普段はツァンパと呼ばれる粉にしたものが日常食としてチベットでは浸透している。チベット高原は標高3000~4000mほどの生活上厳しいエリアである。これぐらいの標高ともなると他の穀物や家畜はなかなか生存できず、結果的にこの環境に適しているチンコー麦とヤクが残った形だ。今はインフラが発達して標高の低いところで栽培された野菜や果物、その他様々なものが手に入るが、本来はこの厳しい環境で育つチンコー麦やヤクに生活の基盤が支えられていたわけだ。式を見ていると生活を支えるのみならず、宗教上の慣習にも深く関わっていることを感じる。生活は変化していったが、伝統はいまだに廃れてはいない。もちろん、今後西洋スタイルの式に変化してしまう可能性もあるのだろうけど、やはりその土地の伝統的な結婚式にはその地方ならでは慣習があり、それを垣間見れるのはとても興味深いものだし、旅を楽しませてくれる。
 
 

トマ

 ちょっとここでチベットエリア独自の料理の紹介をしてみよう。
 この黒い塊状のものはトマと呼ばれる。どうやらツルキンバイという植物の地下茎らしい。甘味を感じる芋のような食感。強引に例えるとサツマイモか小豆に近いがそれほど甘みが強いわけではない。ヤクのヨーグルトにこのトマ、そしてこれにヤクのギーをかけてさらに砂糖をかけて食べる。このトマはチベット地方の御馳走であり、おめでたいときとか法会などで食卓にあがる珍しい貴重な食べ物だ。日本人的にはこの茶色い物体は見た目が悪く、何かのサナギなさがらの不気味な形をしているが味は癖がなくちょっとしたおやつ感覚の食べ物だ。何かのイベントでこのトマにありつけたらきっとそれはラッキーだ。何も知らないと気色悪くて手を伸ばす気が起こらないかもしれないが、チベット地方で目にしたら是非一度食べてもらいたい御馳走だ。



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