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こんにちは、瀬戸内海(3/9)

2022年9月28日

 テントを叩く雨足が収まることはなかった。Yahoo!天気の雨雲レーダーを見つめすぎて、充分に眠ることができなかった。旅の序盤にうまく眠れないのはいつものことだ。仕方がない、諦めたほうがいい。睡眠不足は否めないが、朝6時にテントから這い出す。

 朝ごはんのコーヒーを飲みながら、愛媛は大三島の多々羅キャンプ場に電話して予約を取った。今日の絶対的タスクは、キャンプ場に隣接する道の駅の受付にて、施設閉店時間までにチェックインを済ますこと、それのみだ。意味のない会議も出席しなくていいし、センスを欠いたPOPも作らなくていいし、上司の不機嫌に耐えなくてもいい。こんな幸せなことはない。
 そうか?自分で決めなくてもいい、人の言ってることにハイハイ従って愚痴を言っているほうが、楽では?そうかもね。

 ぐしょぐしょに濡れたテントをおざなりに押し込み、しとしと雨が降る大島キャンプ場を立つ。ぐずぐずの長靴を履き直し、べちょべちょの雨合羽に袖を通す。コンディションは最悪だけど、山陰から山陽への峠を越えなくてはならぬ。燃える燃える燃える。そう思わないとやってられない。

 昨日のおじいちゃんが朝散歩に来ていて、長い桟橋ですれ違った。がんばってね、と声をかけてくれた。わかった、がんばるね。

 愉快なライダーが諸手を振って挨拶してくれた。わかった、がんばるね。

岡山あたり。やっと、やっと雲間から太陽が見えた。ありがとう、太陽ありがとう

 今日は尾道で「しまなみ街道原付チケット」を買って、原付専用道を走る予定を立てている。125cc以下のバイク・自転車でしか走れない素敵な道だ。正直それが楽しみで楽しみで、ここまで来ようと思ったのだ。
 GoProもしっかり充電した。山陽のほうは晴れているらしいし、絶景を楽しみながらのんびり走ろう。

 (2023.08.15:なお、GoProのデータは手違いでロストしてしまったため、この時の絶景は私の心の中のみにある。とても楽しい道だった)

 雨に濡れた全身を乾かしながら、気持ちよくのんびり走っていたら、思ったよりも時間が押している。

 それもそのはずだ。Googleマップが算出した到着予定時刻は、自動車専用道路のほうのしまなみ海道を利用した場合の時間だった。
 盲点。頭が悪い。離島ひとつひとつをぐるっと一周する原付専用道は、当然それよりも時間がかかるではないか。

 これ、道の駅が閉まるまでに受付に着くのか?

 気がつけばガソリンメーターが点滅している。普通のカブならさっさとガゾリンスタンドに駆け込めばいいのだが、あいにく私のタイカブは

タンデムシートが悲鳴をあげてら

 これだ。後ろの荷物を全部下ろして、給油したあと、再度積載するのを面倒くさがって、給油をずるずると先延ばしにしてきたツケを、ここで払う羽目になるとは。

 一応燃費とタンク量を鑑みて、ゆうに走り切れる計算でここまで来た。だけど、荷物をたっぷり載せて、アクセル全開で厳しい峠を越えてきた。算出当時よりも悪い燃費で走行してきたことは、火を見るよりも明らかだ。

 瀬戸内海のど真ん中でガス欠立ち往生は困る。数少ない島内のガソリンスタンドを探して、最短ルートを逸れる。時間がない。時間がない。時間がない。

 転がるように離島を走り回って、絶景なんて目をくれず、法定速度ギリギリで巡行。なんとか閉店時間3分前についた。よかった。

 ガソリンを入れることに決めた瞬間、キャンプ場受付に電話をかけて確認をとった。ギリギリに着きそうなんですけど、待ってもらうのって厳しいですよね、と。
 ダメなら潔く今治あたりでビジネスホテルでも取る覚悟はできていた。だけど、(あまりにも動転していた私に同情してくれたのだろうか)受付の方がとても優しくて、30分遅延までなら待ちますよ、と声をかけてくれた。

 なんて優しいんだ、最近の私にそんな優しさはあっただろうか……?無職だブルシット・ジョブだ分業制だなんだかんだ、他者の状況を慮る余力はあっただろうか?

 こちらの不手際と確認不足で、迷惑をかけて本当に申し訳ない。かろうじて間に合って本当によかった。
 そんな人間はいないと思うが、この記事を読んだせいで、キャンプ場の受付の方へ「遅れてもいいだろう」とクレームを入れる人が現れてほしくない。でも、このことを伏せずにはいられなかったのだ。ありがとう。

 ということで、肝心のしまなみ海道は、焦りで脳みそ真っ白に焼き付いて、記憶がほとんどない。

 キャンプ場は平日にも関わらず割と賑わっていた。さっさとテントを設営して、キャンプ場の温水シャワーに駆け込む。ボタン式で、使わない間は秒数を節約できるのがありがたい。

 徒歩3分のコインランドリーでぐずぐずの洗濯物をきれいにする。

私にとってコインランドリーの匂いは、朝マックぐらい旅情をそそる

 乾燥を待つ間に、徒歩1分のファミリーマートでファミチキとレモン酎ハイを買った。今日は、今朝キャンプ場で淹れたコーヒー以外にまともなご飯を食べていない。とてもそれどころではなかった。昨晩ぶりのご飯、アルコールが沁みる。瀬戸内海の優しい波音がする。遠くまできたもんだ。

テンアゲ
大三島橋のたもとで眠る

 カップルキャンパーが喧嘩していて、騒がしい。よるべなかった昨晩が嘘のように賑やかで、安心する。

長靴を乾かす

 明日はのんびり周辺を探索しよう。高速をかっ飛ばすトラックの走行音を聴きながら、やっぱり今夜もうまく眠れない。


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