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悠久の森林が失われ牧草地と化すアマゾン、大河の流れと時の流れ

ブラジル再び。

ブラジルの国土は世界5位、中国よりは小さいがオーストラリアより大きい。
先にサンパウロ、リオデジャネイロ、南パンタナール、イグアスなど南部を2ヶ月ほどかけて走ったが、それは広大な国土のほんのごく一部。
これから西部アマゾンを走る。

アマゾン川はアンデスを源流とし、南米大陸を横切ってはるか大西洋へと注がれる。
アンデスのふもとからの高低差はわずか100mほど、大平原地帯となっている。

しかし、道はえんえん小刻みなアップダウン。

ジャングル走行と思いきや、ファームじゃないか。

大農場主による広大な牧草地。
もしかして、またもやえんえんファームの風景?
雨にも負けず猛暑にも負けずアップダウンにも負けず進む気になれたのは、アマゾンの大自然を楽しむためだったのに。

世界最大の熱帯雨林、アマゾン。
その面積は日本の14倍、地球上の熱帯雨林の半分を占める。
しかしこの半世紀で20%が消失し、現在も減少中。
伐採された土地の70%が牧畜業として利用される。
地球の人口はまだ増加中なのだから、これを阻止するのは難しいだろう。

アマゾンがいかに広大かを見に来たつもりが、アマゾンがいかに伐採されてきたかを見せつけられる旅になりそうだ。

デカッッッッッ!!!

White Witch Moth。
「白い魔女」という名の世界一羽の長い蛾。
和名はナンベイオオヤガ。
羽の面積だと沖縄にも生息するヨナグニサンの方が大きいらしい。

こっちは黒い魔女かな、これもかなり大きいけど白と比較するとだいぶ小さく見えてしまう。

ハキリアリ、再び。

カットした葉を巣に持ち帰り、その葉を養分とするキノコを栽培する。
自分たちの糞を肥料にしたり、抗生物質を塗布したり、適正な湿度に保ったりなど、人間以外で農業を営む唯一の生物。
そしてそのキノコも、ハキリアリが育ててくれないと繁殖できない共生関係にある。
高度に分業化された複雑な社会が形成されている。

育てたキノコを食べるのは幼虫と女王アリだけ。
女王アリは20年も生きるが、働きアリは飲まず食わずで働いて数ヶ月で死ぬ。

大型の働きアリは2cm近くあるだろうか。
僕は何度かくるぶしを咬まれ、その並外れた咬合力を体感した。
その牙は亜鉛とマンガンで構成されている、つまり金属。

中南米では人間の都市文明遺跡だけでなく、アリの文明社会までもが見られる。
ただ皮肉なことに、ハキリアリは人間にとって農業害虫とみなされ、駆除の対象となっている。

氾濫。

雨がやんで1日以上たっても、川の水位は上昇し続ける。

にぎわっていた河原の遊歩道も、すっかり水没。
滞在した宿のすぐ目前まで水は迫っていた。

小さな街の宿で1泊。
庭にヤシの木や各種フルーツが成っている。

もぎ取ったココナッツをぶった切り。

ジュースを飲み干し、中の実をほじくる。

僕が日本人だと知って、たいそう驚いていた。
お別れの際、「ナマステ」と言われた。
いや、ナマステじゃないが。

久々のWARMSHOWERS泊。
プールサイドの軒下にテントを張らせてもらった。

ホストはベーシックな英語を話せる。
今回のブラジル再訪で初の英語話者。
とりわけ言語的障壁が大きいこの地で、ちょっとでも英語を話せる人との出会いはこの上なく大きな救いだ。

アサイーをごちそうに。

ホストも他の人たちも、フレンドリーにウェルカムしてくれる。
皆、「いい季節に来たね」と言う。
いい季節!?
今はちょくちょく雨が降って気温が下がるし風もあるからすごしやすい、らしい。
乾季の7~8月がベストシーズンかと思いきや、その時期は日照りが続いて風もなく、日中も深夜もずっと暑いままの地獄、らしい。
水シャワーなのにお湯が出てくるとか。
南半球は7~8月が冬という認識でいたのだが、「もうじき恐ろしい夏がやって来る」なんて言うからいろいろ感覚がバグってしまう。

ここから、アマゾン最大の街マナウスまで船で3~4日で行けると聞き、船旅に決めた。

チケット売場と船の出港場所の下見に連れて行ってもらった。
何から何までとてもわかりづらくなっており、よそ者が自力でたどり着くには相当にハードルが高い。

翌日、無事出港。
いろいろ教えてもらったおかげて助かった。

アマゾン川最大の支流、マデイラ川。

初めてのマイハンモック、気持ちいいー。

大河をゆったりと進む船の微細な振動と、ハンモックをやさしく揺らす風が、絶大な催眠効果をもたらし、アホみたいによく眠れる、、、

ハンモックというのは実によくできている。
起きている時でも眠っている時でも、尻や腰や背中を痛めることなく身体をやさしく包みこんでくれて、枕もいらない。
長時間の船旅でも、ずっといられる。
ハンモックはアマゾン起源だそうだ。
この土地と気候に適した合理的なつくりになっている。

川沿いに道路はないが、あちこちに集落が点在しており、人々の生活がある。

ハンモックも心地良いが、デッキに出てずっと外を眺めているのも飽きない。

時々、やや大きめの街も現れる。
地図を見た限り、他の街と道路でつながっていない。
水路のみで存立しているのか。

どこからともなく小舟が近づいてきて、フルーツやチーズなどを売る人も現れる。

とうとうアマゾン川へ合流、マナウスまであと少し。

GPSがなかったら自分がどこにいるかなんてわからないし、広すぎて川なのか湖なのか海なのかもわからないぐらい。

レヴィ=ストロース(1908-2009)が旅したアマゾン。

1960年代、西欧視点からの進歩史観という時間軸で攻めたサルトルを、未開地の親族構造という空間軸で論破したレヴィ=ストロース。
これを機に時代の流行は実存から構造へとシフトしたが、もちろんレヴィ=ストロースは歴史を棄却して構造だけを採択することなどは意図してなかった。

レヴィ=ストロース的「意味」とは、未知の記号を既知の記号に置き換える循環作業。
最終的な「意味」に到達することはない。

新石器時代から変わらぬ生活をしているという未開人に会ってみたい。
かれらは本当に無時間の中で生きているのだろうか。
でも自転車で行けるような場所には住んでなさそうだな。

出港から60時間ノンストップ、マナウス港に到着。
人口200万人、アマゾンのど真ん中の大都市。

今まで大きな街に着くたびにSIMの購入を試みたのだが、いずれも失敗。
ブラジルは、全国民にCPFと呼ばれる納税者番号が与えられており、生活していくのに不可欠なIDとしてガッチリ管理されている。
当然の如く、SIMの購入にもCPFが求められる。
近年は外国人旅行者はパスポートだけで買えるようにはなったが、それができる店舗は限られている。
ただでさえ、自国言語だけを絶対とする言語的閉鎖性が意志の疎通を阻む上に、非効率的なシステムやルールが追い打ちをかけて手間取らせる。
ここマナウスで数時間におよぶ悪戦苦闘の末、ようやくネットにつなぐことができた。
こんなに苦戦したのは初めて、SIM難易度世界一、ブラジル。

閉鎖的管理社会。
唯一のポルトガル語国家ということもあってか、ブラジルは他のラテンアメリカ諸国とは一線を画している。
SIM購入におけるこのドタバタ劇の中に、ブラジルという国の堅固な閉鎖性が象徴的にギュッと凝縮されている気がする。
この感触は、外国人宿泊拒否ルールで難儀した中国の記憶とかぶる。
ブラジルは社会主義国家なのか。

ちなみにブラジルは、南米で唯一Amazonが利用できる国。
しかしその際にもCPFが求められるので、CPFを持たない外国人はAmazonで買い物することもできない。

それから次の問題、歯。
この世に生を受けてから甘党一筋、今も走行日はコーラ1日5L、日々だいたい砂糖で生きており、超健康優良体を維持している。
ただ、虫歯にはなる。
だいぶ前から奥歯がひどく痛み、そして少し前に前歯の差歯が取れてしまっていた。
南米のそこらの歯医者でちゃんと治してもらえるか、いやとても信頼できない。
幸いここマナウスで、日本語が通じる日系歯医者を発見。

こんな立派なビルの中。

日系二世の女医さんで、生まれも育ちもブラジル。
日本に住んでいたこともあり、御茶ノ水の医科歯科大学に2年ほど通っていたそうだ。
御茶ノ水といえば、2015年あたりから僕の日本での拠点地で、今回の旅を始める前も御茶ノ水に住んでいた。
出身地ではないにしても、地元感はある。

助手の女性は日系人ではないが日本語の単語を少し知っているようで、「アサジサン、ドウゾ」と丁寧に案内してくれる。
SIM購入での奮闘とはまるで別世界、ここでは人として互いをリスペクトする関係を築ける。

治療後、ジャパニーズレストランでごちそうになった。

ふつうの魚フライ定食と見せかけて、このフライは実はピラルクー。

もちろんピラルクーなんて食べるの初めて。
しっかりとした歯ごたえの白身魚でおいしい。
米と味噌汁はもちろん、漬物や豆腐やゴボウなどの小鉢も各種あってうれしい。
麻酔がまだ少し効いている状態での食事だったが、それでも日本食を食べられるのはこの上ない僥倖。

ピラルクーは世界最大の淡水魚、体長3m。
1億年もその姿を変えていないという古代魚。

野生のピラルクーは保護されており、食用や鑑賞用で売られているものは養殖。

魚市場でもひときわ目を引く存在感。

あまりに場所を取るためか、巻かれて売られるピラルクー。

フェリーでアマゾン川を往復してみる。
観光用ではなく地元民用の無料フェリー。

無数の支流を持ち、複雑に入り乱れるアマゾン川。
1本の明確な川ではなく、アマゾン水系と言った方がふさわしいかもしれない。

マナウスと接しているのは、コロンビアを源流とするネグロ川。
その名のとおり、黒い。

この黒さは、熱帯雨林から流れ出るタンニン。
酸性のため、生息できる生物も限られている。

ここで、アマゾン川本流であるソリモンエス川と合流。

アマゾン川本流は、ブラジルの上流側ではなぜかソリモンエス川と呼ばれる。
ここマナウスでネグロ川と合流してから、下流側で再びアマゾン川となる。
ややこしい。

ソリモンエス川はペルーを源流とし、急峻な渓谷の岩石や土砂が溶け込んでいるため、茶色い。
ネグロ川とは水質が著しく異なるため、両者は合流してもしばらくは混じり合わない。

合流地点を越えると一変。

水質が異なるため、生息する生物も異なる。
こちら茶色のソリモンエス川には、ピンクのカワイルカがたくさん泳いでいる。
水面上に浮かび上がるのはほんの一瞬なので、残念ながら撮影はできず。

1時間ちょっとで対岸に到着。
距離は13km、ただ川を渡るだけなのに、スケールでけえな。

川の長さにおいては諸説あって現在世界2位となっているが、その流域面積と水量においては他のいかなる河川をも圧倒している。
平均水深は40m、最深で120m。
流量は世界の全河川流量の15~18%を占める。
そして多種多様な生態系。
世界最大の川、と言って差し支えないだろう。

ビーチリゾートだってある。

どこからどう見ても海。
でも川なのです。
アマゾンは流れる海のようなもの。

日本のビーチでカメラを構えたりしたら通報されかねないが、とっさにポーズをとってくれた若者たち、ノリいいな。

ジャングルウォーキング。

野生動物との遭遇はないが、熱帯雨林を体感。

世界最大の森。
果てしない無限の森のように見えるが、二度と元に戻せない限界点が刻々と迫っているという現実。


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