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その青は、かくも遠く美しく
※ワンライで書いたssを書き直した作品です。
「先輩、これ何ですか?」
私は足を止め、そのショーケースを指さす。そこには黒と白の、恐らく何らかの生物をかたどった二対の陶器が展示されていた。質問を受けて振り返った先輩の、咎めるような目が私を射抜く。閉館間際の文化資料館に人の姿はまばらだったものの、私の声はちょっと響き過ぎたらしい。
「これ、何ですか?」
わざとらしく一段声を落とし、もう一度尋ね
モラトリアムが明けた暁には
※ワンライで書いたssに、大幅に加筆修正したものです。1時間でここまで書けるように精進していきたい。
わたしは夜が嫌いだ。
暗闇は怖いし、昼間のように友達と遊ぶこともできない。それにお母さんは夜、わたしがこっそり外に出ようとするとものすごく怒るのだ。本当に夜ってなんにも良いことがない。憎らしいったらありゃしない! そういってわたしがベッドの中であまりにも不貞腐れるものだから、お姉ちゃんは仕
午後三時のユーフォリア
その学園では毎日午後三時にメンデルスゾーンの「歌の翼に」が流れる。私たちは幼い頃からそれを聴くと跳躍をするよう教育された。伸びやかなドイツ語の旋律を浴びると生徒は何処にいたとしても跳躍する。校庭で、音楽室で、教室で、トイレの個室で。高く跳べば跳ぶほど先生方は喜んでくださるので皆いつも一生懸命に跳躍した。翻る濃紺のスカート。靡く髪の毛。少女たちの赤いリボン。
高く、大きく、美しく!
なぜ跳ばなけ
Love letter from
友人が金星へ旅立った。なんでも一目惚れをしたらしい。
たったひとつの恋で四千数百万キロメートルもの距離を飛び越えてしまえるのってすごい。たぶん私には生涯できない。
彼女が金星へ辿り着いた後、私たちは時折手紙でやりとりを交わすようになった。文明的なのか前時代的なのかいささか微妙なところではある。
ただ、どうやら彼女は徐々に地球の言語を忘れつつあるらしい。
十年が経つ頃には、送られてくる手紙はすべて金