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6人の工房で実現させたフリースケジュール -5-

気が付いたら製造業だったんです。わたし。 

ワインバーをやってカフェをやっていた時、私の業種は飲食店だった。サトナカクッキーも売っていたが、それはあくまでカフェのレジ前で売っている副次的な土産物である。製造は自分のところでしているが、感覚としては飲食店のテイクアウト的なものだった。

だがいつの間にかカフェとサトナカで売り上げが逆転。私の業種が飲食店から製造業に変わってしまった。さあ、大変だ。私は飲食店を17年やったけど、製造業なんてやったことがない。飲食店というのは虫で言うとクモのようなものだ。網を張り、そこでじっとお客が来るのを待つ。網の前に気の利いた看板を出したり、いい匂いを出したり、着物を着て網の真ん中で待っているとお客さんが来てくれる。ひとりでは回らないからアルバイトスタッフも雇うが、ヒマな時も多い。そんなときはグラスを磨いてもらったり、シンクを磨いてもらったり、レンジを磨いてもらったり、仕込みを手伝ってもらったりする。それでもヒマだと周囲の網(飲食店)の偵察に行き(ヨシ、うちもヒマだがあそこもヒマそうだ)と言い、あとはスタッフとバカ話をしてガハハハ!とやってたりする。まったくひどい。

サトナカクッキーを作り始めたときもその延長線だった。忙しい年末は毎日オンエアされるラジオショッピングを聞いて「チキショウ!どいつもこいつもカニばっか食いやがって」と悪態をつきながらクッキーを焼く日々。クッキーに私のひがみがしみ込んでいたらごめんなさい。スタッフよりもむしろ私がしゃべっていた。私がしゃべっていると当然スタッフもしゃべる。そうなるとどうなるかって言うと、私がいなくてもみんなしゃべりながら仕事をするようになる。当たり前だ。

これが14年間だからもう大変なものだ。もちろん、仕事に集中しているときはしゃべるのも忘れて仕事するんだけど、それでも誰かが口火を切るとやっぱりおしゃべりが始まる。気が付くと手が止まっていたりもする。ヒマならヒマで、やっぱりおしゃべりしながら資材をつくっていたりする。それもこれも、そういう雰囲気を作ったのが私なんだからしょうがない。

なぜ私がおしゃべりの話をしているか。毎度言うけどパプアニューギニア海産の武藤さんとこは「仕事中は私語禁止」なんである。それなら私のところも。ってなったんだが、もうなんか全然できそうな気がしない。なぜって、私がいないところですでにみんな私語をしているわけで、「明日から私語禁止です」となったら「私語禁止について」という議題で私語が繰り広げられるに決まっている。

考えてみれば、製造業でおしゃべりしながらやっているところなんてあるのだろうか。私の家がもともと製造業というわけでもなければ、製造業で働いたこともない。だから分からない。製造業の仕事がどういうものなのか。

工房の中はピリッとした空気がまったくなくて、よく言えば

和気あいあい、のびのびとした職場

悪く言えば

緊張感のないなれ合いの職場

さて、ここに新しいスタッフが入ってくることになったとき、果たしてどうなったか。これがね、本当に。大変だったんです。私は分かりました。武藤さんが言っていた「仲良くならなくていい」という意味が。

14年間の間にできあがった空気の中に、まったく何も知らない人たちが入ってくる。しかもその人たちはフリースケジュールのことを言われている。しかも私のところをそもそも「クッキーを作る職場」だと思っているし、代表者である私が「飲食店あがりの製造業素人」であることなんて全然知らない。

だからと言って、いきなり職場の空気が変わるわけではなくて、そりゃ今まで働いていた人は今までのようにする。そうなると新しく入ってきた人もそれにならうわけ。するとどうなるか。私語をする人が増えて、その中で仕事をすることになる。エライことですよ。何人もがしゃべりながら仕事をするなんて言うのは。けど、気の合う3人で私語をするのと、新しい人も入れて5人で私語をするのとでは具合が違う。

今まで知り合いだったからおしゃべりの内容も家族のことだったりしたけど、新しい人の前ではあんまりそんな個人的なことは言えない訳で、おしゃべりの内容も気を使ったものになる。すると楽しかったおしゃべりが今度は負担になってくるんですよ。なんと。だって、3人ならそれぞれ会話のキャッチボールになるけど、5人だと人の話を聞くことが増えるし、逆に集中したい時に誰かがしゃべっていると耳障りなんですね。

「私語を禁止にしたいがどうだろう」と面談で聞いたとき、難色を示されると思っていたのにすんなりと受け入れられたのは、このような経緯があったからなんだが、それよりも「仲の良い職場」という、よい職場の見本みたいなことは、実は働く場所には無用なんでは、と思い始めた。武藤さんのラジオを聞いていた時

仲良くしなくていい職場なんて、なんか冷たい感じだ

と、ちょっと思っていたのだが、いざ面談を進めていくと、パートさんたちは友人のように仲良くなることを望んでいるわけではなく、衝突せず、気をつかわず、協力し合えればいいのであって、悩みを打ち明けあう、愚痴を言いあう、推しを語り合う、などという関係は実は全然職場に求めていないことが分かった。つまり、仕事は仕事、できちんとできる。

ではどういうことかと言うと、パートさんの顔色をうかがって気分よく仕事をしてもらえるなら、と私語を許し、緊張感のない職場にしていたのはまさに私自身であって、きちんと筋道立てて物事を進めていけばぜんぜんパートさんのほうがしっかりしている。いやもう、これ私試され過ぎやろ…。本当に自分のダメさ加減がどんどん浮き彫りになるばかりなんであった。

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