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6人の工房で実現させたフリースケジュール -最終回-

フリースケジュールにして、果たして繁忙期に耐えられるのか。ヒマな夏場にパートさんが休んだって別に屁でもないんだが、繁忙期に休んで製造が滞ってしまうとせっかく買ってくれる人がいるのに商品がない!なんてことになりかねない。多くの人がフリースケジュールにしようと思っても、こんな心配が頭をもたげてくると思う。来てほしい時に来てもらえないのではないか。

クッキーが売れるのは12月からせいぜい5月の母の日までで、1年のうち半年はヒマだ。今はその差をなんとか緩くしようと頑張っているんだが、それでもやっぱり真夏にクッキーをもさもさ食べるよりも冷たいビールを飲んだりアイスを食べたい。クッキーなんて木枯らしの吹く季節にあったかい紅茶を入れておやつに食べるものだろう。私でもそう思うんだからやっぱり夏にはあんまり売れない。

そうなると、繁忙期にむけた製造にパートさんがより出勤してくれて、夏のヒマな時期は休んでほしいと思うのが身勝手な経営者の本音だ。しかし、そうは行かない。フリースケジュールは「フリー」なんだからヒマなときに人が多く来ちゃうこともあるだろうし、忙しいときに来てもらえない、なんて言うのは完全に想定される事態だ。しかも、今年はパートさんの数も倍くらいに増えたから余計に余剰人員が出るかも知れない。

フリースケジュールで人が余っちゃったらどうするんだろう…

実はそれまでどうだったかと言うと、ヒマな夏は工房の稼働日数を減らすことがあった。通常土日祝日、それに水曜日も休みだけど「来週はあんまり注文がないので金曜日休みます」なんて言ったりしていた。けれど、パートさんは季節関係なくだいたい一定の金額を稼ぎたいものだ。子供の習い事や塾のお金、家のローンの足し、貯蓄、へそくり、押し活の交通費。それなのに働く日を減らされると困るだろう。

そうは言っても、仕事もないのに来られても困る。ヒマなときの仕事と言えば仕事場の掃除や整理整頓だけど、そうそう掃除ばっかりもしていられない。それまで私はあまり積極的に商品を売っておらず、自然に任せて売れれば作り、売れなければ作らない、と言うやり方をしていた。よく言うとナチュラル、欲がない。悪く言えば普通に商売が下手。ところが人が増えたことから勢い夏も商品を売っていかねばならなくなった。

例年は米を作るから夏は田んぼ三昧なのだが、今年は改革の年ということで田んぼを作らなかった。それで時間はある。夏用のフレーバー「檸檬」を出したりして積極的に売るようにした。夏には息子が帰ってきて手伝うようになり、さらに人件費がかかるようになったが私が担当していたウェブ部門を担当してくれ、自社通販の売り上げが徐々に上がってきた。

それでもやっぱり人件費に対して売り上げが少ない。9月には給料の金が枯渇してへそくりから捻出。10月は貯蓄から捻出。11月にはとうとう小規模企業共済から短期で借り入れをした。繁忙期になんとしても売らねば大赤字である。

フリースケジュールにしたから赤字になったと言っているのではない。そもそも人員の増強は年初に決めていたし、採用した人が仕事に慣れて一人前に動けるようになるまで半年はかかる。それに忙しくなければ結局人と言うのは覚えたりしないものだ。考えてみれば採用の時期が早すぎたのかも知れない。

そんな中で迎えた12月。普段よりは出勤する人も働く時間も多くなった。それはベテランさんが12月は忙しいからと夏の間に休みを取り、12月の出勤日数を確保しておいてくれたからだ。それでもみんな出勤時間はバラバラだし、普通に休む人ももちろんいる。お歳暮、お年賀需要で作り貯めた在庫は徐々になくなり、12月19日には年内配送分の商品が底をついた。人員が足りなくて作れなかったのではない。昨年よりうんと作ったけれど、売れてしまったのだ。

慌てて追加で製造をする。今までならパートさんも「こんな量、明日は3人でやらないと作れませんよ」と言っていたけれど、フリースケジュールになってからは「明日360個分焼かないといかんのですけど、何人来ますかねえはっはっは」とか言っている。それでも追加の商品を作り、さらにいくらかは販売をすることができた。結果、12月だけで言えば昨対比202%、1年間の売り上げは166%増となった。

沢山働いてくれたパートさんに感謝だ。もしかすると「忙しい」「沢山作らねば」という雰囲気がパートさんに伝わって休みたいけどなんか休めないと思われていたかも知れない。それはまた面談で聞く必要があると思う。

何度も言うけどフリースケジュールをやったから赤字になった、フリースケジュールだったからたくさん売れた。そういうわけではないと思う。フリースケジュールはあくまで手段のひとつで、大切なのはパートさん同士が争わず、人間関係のゴタゴタや悩みから解放され、よい環境下で十分力を発揮して働けることでありこれが一番大事でかなめなんである。

フリースケジュールできたぞわーい!

って話ではなくて、ここからさらに争わないためのルール作りとそれを徹底するための覚悟とうちなりの工夫がまだまだ必要になってくるわけで、むしろそこからが本題だ。けれどフリースケジュールを半年やって繁忙期も乗り越えることができた。今のところパートさんに聞いてみてもフリースケジュールを続けてほしいと言う。私もシフトを組んだり、人の手配をする心配がなくなった。フリースケジュールを発信し続けてくれた武藤さんには本当に感謝しかない。来年はここからどんな年にしていけるか今から楽しみにしている。この連載はいったんこれで終了します。ありがとうございました。

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