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しあわせの甘い香り

私の母はどんくさい。
お塩とお砂糖の間違いなんて日常茶飯事。

賞味期限を確認しようにも
今日が何日か忘れてしまうから
いつまで経っても確認できない。

母の偉いところは
自分でもどんくさいことがわかっているので
準備や支度のために、私の倍の時間を取っていること。

私が30分で支度する場合
彼女は1時間かかる。

こんな具合だから
母が家事をやり終える日を見たことがない。

なんで終わらないのかしら…?
と、いいながら1日を終えている。

私は逆にせっかちで待っていられない性格なので
子どもながら見兼ねて母の家事を手伝い始めた。

その家事手伝いが、今では時給2300円超えの仕事になっているから
母には感謝しても感謝しきれない、ということにしておく。



そんな母にも、唯一得意なことがある。
それはシフォンケーキ作りだ。

私が1時間で片付けまで終わらせられるのに対し
彼女は込み込みで3時間かかる。

遅い。
でも、おいしさだけはいつもかなわない。

メレンゲのふわふわ具合だって
粉類をふるいにかける丁寧さだって
さっくり混ぜる方法だってそう変わらないのに
彼女のシフォンケーキを越えることができない。

いつもふわふわしっとりで
冷めてもそれは変わらず。

ケーキにフォークをいれた時には
ぷしゅぷしゅと静かな音をたてながら一度つぶれるけど
切った瞬間にぽんっと元のかたちに戻ろうとして膨れる姿が
なんともかわいい。そして、おいしい。

そして、ケーキを作りながら

ケーキはね、美味しいのはもちろんのこと
この部屋中に広がるあまい香りが一番のご馳走なの。
どんなに高いケーキを買ってきても
じっくり焼けるまでにただようあまい香りにまさる幸せはないのよ。
これは作った人の、そして作る過程でそばにいた人の特権なの。
だから、ケーキは食べると幸せになるのよ。

と、いつも話してくれて
この話を聞くのがすごく好きだった。

今日、久々にシフォンケーキを焼いたのだけど
やっぱり彼女のケーキを超えられない。

生きてるあいだに
あと何回食べられるかな。


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