_卒論公開チャレンジ

看護学生が患者と関わる際の意識・行動をコーチングを使ってインタビューしました #卒論公開チャレンジ

しおたんさんのツイートをみて卒論(看護学士)を公開してみることにしました。

そして、卒業校や教授への確認はめんどくさかったのですべて伏せています。

あくまでこちらは卒論で、学術誌や学会誌に載ったわけでないので著作権などは、平気なはず。

そして、とっても読みにくいので再編集しています。
原文ままでないのでご了承ください。

時間のない人は要旨だけでも!
では、はじめます。

<目次>
・要旨
・はじめに
・目的
・方法
 1)研究対象
 2)データ収集方法
 3)倫理的配慮
 4)分析枠組み
 5)分析手順
・結果
 1)看護提供者として患者を知る
 2)看護学生の役割・立場を考える
 3)患者から情報収集する
 4)看護学生が聞き手、患者が話し手のコミュニケーション
 5)患者を優先した関わり
 6)患者と良好な関係を築く
 7)患者の意味ある刺激になりたい
 8)患者に学生のいいイメージを持ってもらいたい
 9)期間の限られた関係
 10)身だしなみに注意
・考察
 1)看護学生のあるべき姿
 2)身だしなみ
 3)限られた期間
・おわりに


===

要旨

【目的】看護学生が臨床実習において患者と信頼関係を構築する事は極めて重要である。これまで、看護学生が患者と関係を構築していくプロセスにおける看護学生の思いや意識を明らかにしたものは見当たらない。

そこで、本研究では看護学生―患者間の関係を構築するプロセスにおいて看護学生がどのような事を意識し患者と関わっているのかを明らかにする。


【方法】研究対象はA大学医学部看護学科4年生のうち、成人看護学実習が終了しており、かつ付属病院でのアルバイト経験がある看護学生5名(女性3名、男性2名)とした。

データ収集は2009年6月、1時間程度の半構造的インタビューを実施した。研究参加者へは、研究の詳細と倫理的配慮を記載した用紙を各々へ配布しそれを口頭で説明し、同意を得た。

分析方法は、ICレコーダーに録音したインタビューから逐語録を作成した後、テクストの分析テーマに関連する箇所に着目し、具体例(ヴァリエーション)を集め、概念を生成した。次に概念間の関係を考え、概念同士を比較対照しながら概念を包括するカテゴリーに分類していった。

その上で、カテゴリーと概念の関係を示しながら、看護学生―患者間の関係構築プロセスにおける看護学生の意識・行動モデル(理論)を作成した。


【結果】以下、〈〉はカテゴリー名を表す。分析の結果、〈看護提供者として患者を知る〉、〈看護学生の役割・立場を考える〉、〈患者から情報収集する〉、〈看護学生が聞き手、患者が話し手のコミュニケーション〉、〈患者を優先した関わり〉、〈患者と良好な関係を築く〉、〈患者の意味ある刺激になりたい〉、〈患者に学生のいいイメージを持ってもらいたい〉、〈期間の限られた関係〉、〈身だしなみに注意〉という10のカテゴリーと40の概念が生成された。これらのカテゴリーは〈患者と良好な関係を築く〉を中心に様々な関連やループを形成していた。


【考察】看護学生は患者と良好な関係を築くことを大変重視している。看護学生は患者との関わりにおいて、各々の看護学生が考える「看護学生のあるべき姿」という思いを根底に看護学生として意識・行動していること、身だしなみに注意すること、患者と関わる期間に留意していることがわかった

さらに、患者を優先させた関わりをすることや患者の話を聞こうと関わることなど、患者と関わる看護学生の様々な意識が行動を規定し、ループを描いていることが考えられた。患者と良好な関係を構築することがこのループの中心にあった。

このように、看護学生の思いと看護学生が考えている様々な意識や行動が患者との関係を構築するプロセスに影響していることを見出せた。看護学生―患者間の関係構築プロセスにおける本意識モデルは、これから患者と関わる看護学生にとって、患者との関係を構築する方法や具体的なコミュニケーションの実践に役立つものと考えられる。



はじめに

 看護師は患者を尊重する態度を基盤に、よりよい患者―看護師関係を作りながら、患者の気持ち・考え・要望に沿って正確なニーズを捉えて看護を行うことが重要である。つまり、看護師は患者との人間関係を基盤にして看護を提供する。

岩井ら1)は、「看護とは患者―看護師間の人間関係とそのプロセスを意味するものと考えられ、患者―看護師間に良好な人間関係を築くことが患者の医療の結果に影響を与えるとし、良質な看護を提供できる必要条件である」としている。

看護の条件の一つである看護師―患者間の良好な人間関係について、医学中央雑誌(以下、医中誌とする)で「看護師」、「患者」、「関係」、「プロセス」をキーワードに検索した結果、17件がヒットした。

ほとんどの論文が患者の疾患や障害に焦点を当てたものであり2-5)、一般的に看護師―患者間の人間関係を良好に築くとはどういうことかを明らかにした論文は見当たらなかった。

看護学生が臨床において看護提供者として患者と信頼関係を構築する事は極めて重要である。看護学生は学習者という立場で患者と関わりを構築しながら、患者のニーズや介入すべき点を捉えて看護を提供していく。

先行研究では、看護学生―患者関係の構築に関して看護学生の実習レポート・プロセスレコードの分析を始め、看護学生の臨地実習におけるコミュニケーションの良否に関わる要因6)、看護学生のコミュニケーション能力に関する研究7)、看護学生のコミュニケーションに関する研究8)、患者とのコミュニケーションにおける看護学生の自己効力感9)、精神看護学実習における学生の対人関係構築のプロセスとその関連要因10)が明らかになっている。

しかし、看護学生が患者との関係を構築していくプロセスにおける看護学生の意識や行動を明らかにした研究は見当たらない。

看護学生と患者の関係は看護師養成機関に入学するところから始まる。そして、初めて援助者として患者と関わる。これまでの人間関係の構築とは異なった「看護学生」という自己と「患者」という対象の間で関係を構築していかなくてはならない。

経験したことのない患者とのコミュニケーションに看護学生は不安を抱えている11)。これは、看護学生が患者との関係を構築する上で、今まで経験したことのない関わり・コミュニケーションを意識しているからではないだろうか。

そこで、本研究では看護学生―患者間の関係を構築するプロセスを明らかにする意義があると考え、看護学生―患者間の関係を構築するプロセスにおいて看護学生がどのような事を意識し患者と関わっているのか検討する。

ここでは、看護学生―患者間の関係を「友人・家族・同僚とは異なる信頼関係の構築・相互理解・看護の方向性の共有を目的とした看護学生と患者との人間関係」と定義する。


目的

看護学生―患者間の関係を構築するプロセスにおいて、看護学生がどのような事を意識し患者と関わっているのか明らかにする。


方法


1)研究対象
成人看護学実習を終了し、看護学生として患者と接した経験が豊富なA大学付属病院での看護補助員のアルバイト経験があるA大学医学部看護学科4年生の看護学生のうち研究への参加を承諾した者を対象とする。

2)データ収集方法
2009年6月の1ヶ月間に、半構造的インタビューを実施した。インタビューは、プライバシーが保てる部屋で対象者5名(女性3名、男性2名)について、それぞれに1時間程度行った。インタビューは、インタビュアー1名が研究対象者1名と行った。質問内容は①患者との関わりにおいて気をつけていること、②友人との関わりと患者との関わりで違うと感じるところ、③アルバイト時と実習時で患者への関わり方で違うところ、等である。

3)倫理的配慮
研究の詳細と研究参加の同意書を記載した用紙を各々へ配布し、それを口頭で説明した。研究参加者へは、自分の意思によって判断し決定することが出来ること、研究への参加は途中であっても自分の意思によって中止することができること、インタビュー内容はICレコーダーに録音されること、インタビューを録音したICレコーダーのデータは研究終了時に破棄されること、インタビュー内容は個人名が特定されないよう保障されること、インタビュー内容はこの研究の目的以外に使用されることはないことを説明し、同意書への署名を得た。

4)分析枠組み
  本研究では看護学生―患者間の関係構築プロセスにおける学生の意識という仮説生成を目的としているため、その目的に照らし、インタビューデータをもとにボトムアップにモデル構築するのに適した木下(2003)の修正版グラウンテッド・セオリー・アプローチ(以下M-GTAとする)を分析の枠組みとして採用した12)。

しかしながら、M-GTAでは具体例の少ない概念は採用しないという面があり、必ずしも本研究のように少数事例に基づいて理論を構成していく研究には適していない面もある。

そこで、本研究では構造構成的質的研究法であるSCQRM(スクラム)をメタ研究法として位置づけし、研究目的に照らし合わせて関心相関的に重要だと考えられるデータはヴァリエーション・概念・カテゴリーとして採用していくことにした13,14)。

5)分析手順
まず、録音データを文字に起こし、テクストを作成した。インタビューを実施した5名をそれぞれA、B、C、D、Eとする。テクストは1800字詰め用紙で、Aが27枚、Bが31枚、Cが27枚、Dが30枚、Eが28枚となった。

その後、看護学生―患者間の関係を構築するプロセスにおいて看護学生がどのような事を意識し患者と関わっているのかに従ってデータを繰り返し読み、テクストの分析テーマに関連する箇所に着目し、具体例(ヴァリエーション)を集め、概念名をつけた。

その際、反対の内容からなる概念が生成される可能性を考慮するため対極例があるかを確認しつつ、概念名とその定義、具体例を分析ワークシートにまとめ、概念を生成した。

概念名が決定したら、同じような具体例を他の箇所からも探し出して、最初の具体例の下に記入していった。一つの概念に一つの分析ワークシートを作成した。図1は分析ワークシートの例である。

分析ワークシートが一通り出来上がった後、次に概念間の関係を考え、概念同士を比較対照しながら概念を包括するカテゴリーに分類していった。上記の手順で進めていく中で、分析ワークシートの概念名や定義の変更の必要があると判断した場合には、適宜修正を行った。

以上の手順に沿って、担当教員の下で分析を行った。

図1

概念名
:決まった期間での関係構築
定義:看護学生が実習期間や入院期間といった限られた期間の中で患者との関係を構築すること。

ヴァリエーション
【A】やっぱ変な話、付き合いが短期間っていうのあると思うんですよね。短期間の中で自分ができることを精一杯しようみたいな。(患者との関わりにはやっぱ期限があるから?)そうですね。期限があるから頑張れるっていうのはあると思います。実習もあと3日とか思ったりするので。

【B】(期限があるから関われるんですか?)そうですね。期限があるからだと思いますね。期間が短いのも人間関係築く上では期間が短ければすぐ終わっちゃうから。その場が良ければまだいいかなって。ずっと続くもんじゃないと思うし。

【C】短い期間の中でいろいろ聞いてアセスメントしたりしなきゃいけないっていう課題と、その人とうまく関係性を築かなきゃいけないっていうので、やっぱしね。そのいい関係を作るために何をするかって言ったら、その人の望むことっていうのをとにかく自分の出来る範囲でするっていう。(中略)この人こんなに自分のためにやってくれんだとかっていう風に思ってもらえればっていう。そういう風に短い期間でこの人はこんなにこういう風にしてくれるんだっていうところまで、出来ればいいかなって。

【D】(患者とは関わる時間が限られることは影響する?)してると思いますし、時間が短いのもあるし元々の目的として患者さんと仲良くなる事があんまり目的じゃないっていうのもあるからだろうなっていうのも思います。

【E】(患者が相手だと期間が決まってるけどその辺りはどう?)いい関係を築きたいなっていうのは思うけど。(期間が決まってるから早くいい関係を築きたいって思います?)あー、思うだろうね。思います。(友達だとどう?)仲良くなりたいけどなんだろう。そこまで患者さんみたいにがっつかない。

メモ
期間が短いから深い関係を構築しようとする者と、そこまで深い関係を望まない者がいる。


結果

M-GTAによる分析において、40の概念が生成された。生成された40の概念から概念間の関係や概念を包括するカテゴリーに分類したところ10のカテゴリーが生成された。ここでは、カテゴリーごとにカテゴリー名と概念名を用いて説明する。以下、文中に〈〉で示した部分はカテゴリー、【】で示した部分は概念を意味する。

1)看護提供者として患者を知る
カテゴリー〈看護提供者として患者を知る〉は【患者を理解しようという意識】、【患者の価値観を知ろうという意識】の2つの概念からなる。看護学生が患者を関わる際に、看護を提供する者として患者を捉え知ろうとしていることである。

【患者を理解しようという意識】は、看護学生が患者と関わる際に患者を理解しようとしている意識のことである。Cは「俺自身聞きたいなっていうのがあって。やっぱその人のこと知りたいし。で、その人の事知る事で(中略)今度どういう風に関わってたらいいのかっていうのはもう、その話をしたり関わってく上で、この人にはこういう関わりが必要なんだって。例えば質問をして、ちょっとしか答えが返ってこないっていう感じの人だったら別にあんまり話しかけない方がいい人なんだとかそういうのもあるし。一応、話を聞く上では興味あるないっていうあれはなくて。興味があるから聞いてるっていう感じだから別に興味がないっていう感じではない。」と、患者に興味を持って理解しようというプロセスを語っている。

【患者の価値観を知ろうという意識】は、看護学生が患者と関わる際に患者の状況や思い、過去の体験を語ってくれることで患者の考え方や価値観を知ろうとしている意識のことである。Dは「その共通の話題というか、そういう天気一つとってもその相手がどういう風に感じてるかっていうのとかもちょっとわかる気がするしっていうのもあって聞いてます。」と、患者が現象や現状をどのように感じているかを尋ねると話している。


2)看護学生の役割・立場を考える
 カテゴリー〈看護学生の役割・立場を考える〉は【看護学生のあるべき姿でいようという意識】、【看護学生としての意識】、【技術の正確性が患者との関係に影響しているという意識】、【看護学生としての行動】、【学生役割から外れる事は看護師に確認し対応】、【患者を観察・アセスメントする】、【患者の安全を守る】、【看護学生としての限界】、【アルバイト時の患者への無理のない対応】の9つの概念からなる。看護学生が患者と関わる際に、それぞれの学生が持つ看護学生の役割・立場を考えることである。
 【看護学生のあるべき姿でいようという意識】は、看護学生が患者を関わる際に、各学生がイメージする「看護学生のあるべき姿」を意識していることである。Dは「患者さんに近づくのはいい事なんですけどでも、ある程度その接遇の範囲というか…っていう事を考えちゃうと、堅苦しくならない程度に柔らかくみたいな。学生っていうのでなんか何が出来るわけでもないし。」と、自身の持つ看護学生像と実際の行動に迷いが生じていることを話している。

【看護学生としての意識】は、看護学生が患者と関わる際に、各々が持つ看護学生というイメージを意識していることである。Eは「友達と接する時とやっぱり違くて。演技してるっていうわけではないと思うけど別の自分がいるみたいな感じで(中略)もう実習着を着たらナースの卵なんだっていうのがあるから、イメージを自分で抱いているからそういう風に自分が笑顔になってやってるっていうのは当たり前かなっていう感じ。」と、自分がイメージする看護学生像と実際の自分の行動に関することが語られた。

【技術の正確性が患者との関係に影響しているという意識】は、看護学生が患者を関わる際に、提供する技術の正確性が患者との関係の構築に影響を及ぼしていると意識していることである。Dは「その血圧とか計るにしてもちゃんと出来るっていう事が大事かなって。そこも大事かなって思います。」と提供する技術が患者との関わりにおいて大事であると述べている。

【看護学生としての行動】は、看護学生が患者を関わる際に、各学生が持つ看護学生のイメージやあるべき姿に沿って行動していることである。Cは「それは関わりだけじゃなくてやっぱ最初に言った安全の事もそうだしやっぱ、いろんなとこに気を張っとかないと事故につながるっていうのもあるし。関わりの中でもやっぱその気を使って話さなきゃいけない事とか聞いちゃいけない事とかっていうのもあって。」と看護学生としてすべき事を語っている。

【学生役割から外れる事は看護師に確認し対応】は、看護学生が患者を関わる際に、各々の看護学生が考える看護学生の役割・立場から外れることは看護師に確認した後、患者へ対応することである。Aは「医療的なことも聞かれるんですけれど、それがわかっていてもやっぱり学生という身分なので…それがもしかしたらいいかげんな情報かもしれないし責任もとれないので、もし医療的なことを聞かれたら簡単なことでも看護師さんに確認したり看護師に聞いてくださいと言うようにしています」と、看護学生という役割・立場における判断だけでは患者への責任がとれないことから看護師へ確認することが述べられた。

【患者を観察・アセスメントする】は、看護学生が患者と関わる際に、看護学生の役割として患者を観察・アセスメントしていることである。Cは「観察しながらっていうか結局もう病気持ってる人たち…いつどうなるかわかんないからやっぱし顔色とかも見ながら(中略)その人の疾患も知りつつ。例えば呼吸器で酸素飽和度が低くて酸素つけてる人だったら、結構話すと酸素使っちゃうから。あんまり長引かせちゃうと酸素飽和度落ちるしっていう…そういうのがある人はかなり気を使わなきゃいけないっていうのはある。」と観察とアセスメントをしながら患者と関わっていることを語った。

【患者の安全を守る】は、看護学生が患者と関わる際に、患者の安全を守ることである。Bは「ペンも結構処置とかケアとか…そういうのにやっぱ物あたって落ちちゃ危ないから。なんで…あんまり(ポケットに)持ってなかったですかね。」と、自身の持ち物で患者やケアに危険を及ぼす可能性のあるものは持たないようにすると語っている。

【看護学生としての限界】は、看護学生が患者を関わる際に、看護学生が考える学生の限界の中で行動しようとしていることである。Bは「実習中は、間違った事を言ったら一応その人の病気については勉強してるじゃないですか。だから、先生からはそれは正しい情報を伝えたほうがいいって事は言われたので、ちゃんとその正しいことを伝えてましたね。もしそれ以上に不安がってたりとかした場合はその日の担当ナースに伝えたりとかっていう事はしてましたね。…そうですね、でもそんな否定も出来ないですね、やっぱり。立場が立場なんで。あんまり出来ないんですけど…そうですね、あまりにもはずれてる事はいいますね。」と、学生としての立場で出来る範囲を自分で設けており、その中で行動していると述べている。

【アルバイト時は患者へ無理のない対応が出来る】は、看護学生が患者と関わる際に、実習という与えられた環境とは異なり、アルバイト時は看護学生として無理のない自然な対応が出来ることである。Bは「たぶんあの報告しなくていいっていうのがでかいですね。ナースに報告しなくていいっていうのとその会話の内容でその辛いとかって…病気の事に関してはやっぱ患者さんから情報をもらわない事の方が多かったんで。世間話のが多かったんで。その情報がわかってもどれを伝えればいいかわかんないのもあるしそうですね…気が楽っていうんすかね、やっぱり。報告しなくていいし、看護過程もやんなくていいし。アセスメントもしなくていいし記録もないし最高ですよね。」と、アルバイトでは実習とは異なる無理のない患者への対応ができることと自身の思いを語っている。


3)患者から情報収集する
カテゴリー〈患者から情報収集する〉は【患者との会話から情報を得る】、【患者の本音から情報を得る】、【記録で得られる情報が学生―患者関係に影響している】、【実習という制約のための必然的な情報収集】の4つの概念からなる。看護学生が患者と関わる際に、情報収集を意識して行動していることである。

【患者との会話から情報を得る】は、看護学生が患者と関わる際に、患者との会話から情報を得ようと意識し行動することである。Bは「患者さんの関わりの中でやっぱ話すことが情報収集につながると思うので。話の中から聞けることとか。あと、聞きたいこと、聞かなきゃわからないことって情報の中にあると思うんです。」と、患者との会話が情報収集につながっているという考えを述べている。

【患者の本音から情報を得る】は、看護学生が患者と関わる際に、患者の本音を引き出そうと意識し行動していることである。Aは「もしかしたら学生だからってもうちょっと何かフランクな返事が返ってきちゃうかもしれないので、仲良くなって本音もぽろっと出ちゃうような関係になれたら、まぁ真の情報が聞けるかなって思って仲良くなるっていうのは大事にしてます。」と、本音が真の情報であり、それを得るために患者と良好な関係を築くという考えを語っている。

【記録で得られる情報が学生―患者関係に影響している】は、看護学生が患者を関わる際に、看護記録によって得られる患者の情報が看護学生―患者間の関係構築に何らかの影響を及ぼしていると看護学生が考えていることである。Dは「それ(アセスメントやケア)があるせいで(患者の)悪いとこばっか見ちゃってんじゃないかなっていうのが心配になりますたまに。ここがダメだからっていうのを見つける事ばっかり頑張ってんじゃないかなみたいなのはちょっと心配ですね。(アセスメントが患者さんの印象を決めてるかもしれないってことですよね?)はい。難しいですね。」と、患者と関わる際に看護記録に影響されて患者の理解を妨げているのではないかという不安を述べている。

【実習という制約のための必然的な情報収集】とは、看護学生が患者と関わる際に、実習での看護過程において必然的に関わりを持って得なくてはならないと考えている情報収集のことである。Cは「実際にこれはあんまり言っちゃいけないかもしんないんだけど、実習だとこれ本当に聞かなきゃいけないのかなって項目があるじゃん、アセスメントの。こんなん聞いてどうすんだよみたいなのがあるんだけど…これは別に聞かなくていいんじゃね?と思ってても聞かなきゃいけないみたいな。」と、得なくてもいいと考えている情報でも実習では得なくてはならないと考え行動している事を語っている。


4)看護学生が聞き手、患者が話し手のコミュニケーション
カテゴリー〈看護学生が聞き手、患者が話し手のコミュニケーション〉は、【患者に話してもらおうという意識】、【患者の話を聞くという意識】、【看護学生の反応を患者に返す】、【患者の会話へのモチベーションを気にかける】の4つの概念からなる。看護学生が患者と関わる際に、患者とのコミュニケーションでは看護学生が聞き手、患者が話し手という意識を持ち行動していることである。

【患者に話してもらおうという意識】は、看護学生が患者と関わる際に、患者に話をしてもらおうと意識していることである。Bは「本人がその、病気とかその状態とか話すようになったら…なんていうんすかね、もっと話しやすくするようにっていうんすかね。そうリアクション、そうですね。結構よくしましたね。」と、患者に反応を返す事で患者が主体的に話をしてくれるのではないかと考えていることを話している。

【患者の話を聞くという意識】は、看護学生が患者と関わる際に、患者の話を聞こうと意識していることである。Dは「まぁこっちも患者さんもたぶんわかってないと思うので、それを伝えるためにもまずはしっかりちゃんと聞くっていう時期を作っとかなきゃなっていうのは思います。」と、看護学生―患者関係構築のために聞くというプロセスが大切であるという考えを語っている。

【看護学生の反応を患者に返す】は、看護学生が患者と関わる際に、看護学生の考えや感情、患者の話を聞いていることをバーバルコミュニケーション・ノンバーバルコミュニケーションを通じて患者へ反応を返すことである。Eは「本当リアクションをとる時も身体を大きく使ったりとか相手に自分の…感情がすぐ伝わるような…感じにしています。」と述べている。

【患者の会話へのモチベーションを気にかける】は、看護学生が患者と関わる際に、患者の会話への意欲を読み取りそれに応じて学生も対応することである。Dは「患者さんの話し方、表情とかやっぱり話したい事の時とかってすごい表情も明るくなるし、言葉もポンポン出てくるじゃないですか。そういうのを見てあんまり話したくない話なのかなみたいな事は…すごい家族の話とか好きでポンポンしてくれる人もいるし、そうじゃなくてすごい閉ざしちゃったりしてる感じの人もいるしっていうのでそういうところ見て、やっぱそういうのってはっきり本人が言う言葉にしない事だと思うので読み取るようにしてます。」と、患者の会話へのモチベーションを読み取ろうとしていることを語っている。


5)患者を優先した関わり
カテゴリー〈患者を優先した関わり〉は【患者とは一歩下がって関わる】、【出来るだけ患者の思いや行動を尊重する】、【患者の理解に合わせた対応をする】、【学生の本心より患者との関係を重視する】、【患者に集中する】、【患者の思いや行動を自分に置換する】、【ノンバーバルへ注意を向けた対応をする】の7つの概念からなる。看護学生が患者と関わる際に、患者を優先するという意識を持ち行動することである。

【患者とは一歩下がって関わる】は、看護学生が患者と関わる際に、看護学生は患者よりも一歩下がって関わることである。Bは「学生っていう立場でやっぱちょっと患者が上っていう意識があります。上の立場っていうので、一応まぁ当たり前ですけど言葉遣いとか気をつけなきゃいけないし。」と、患者が目上の存在という意識とそれに基づいた行動について述べている。

【出来るだけ患者の思いや行動を尊重する】は、看護学生が患者と関わる際に、自分の都合よりも患者の思いや行動を尊重していることである。Aは「その訪室も相手の方の負担にならないように。こうやっぱ最初の方は難しいんですけど何日か一緒にいると、この方この1時からは昼ドラを見てるから邪魔しちゃいけないとか、この2時からはいつもお昼寝をしているから起こしちゃいけないとか、そういう生活リズムが見えてくるんですよ。じゃぁ、逆に暇そうにしている時間はいつだろうって思って。その暇な時間に訪室しておしゃべりをして、まぁなんていうかうざったい存在にならないようにしてますね。」と、患者のスケジュールを把握し患者の負担にならないような関わりを持っていることを語っている。

【患者の理解に合わせた対応をする】は、看護学生が患者と関わる際に、患者の知っている情報や患者の理解度に合わせた対応をすることである。Bは「どこまで知ってるのかなっていうのは。どこまで説明ついてるのかなって。どこまで知らされてるのかな…と思って。(中略)学生から言っていいことってやっぱあると思う。いっちゃいけないこととかあると思うんでそこには十分ちょっと注意しましたね。」と患者が知っている情報に合わせて会話を展開しようとしていたことを述べている。

【学生の本心より患者との関係を重視する】は、看護学生が患者と関わる際に、看護学生の本音や感情よりも患者との関係を重視していることである。Bは「(患者との会話が)楽しいと思ってない時もありますね。ちょっとでも不安でもありますよね。その伝わってないかとか。その作り笑いっていうか。でも、わかっちゃうのかなーとか思ったり。でもねーみたいな、どうしようかなって。真顔よりかはいいかみたいな感じですかね…」と、看護学生の感情よりも患者との関係やその場の雰囲気を重視した対応をしていることを話した。

【患者に集中する】は、看護学生が患者と関わる際に、患者に集中することである。Dは「(やっぱり患者さんと話す時は患者さんとのその話に集中して?)はい。なるべくはい、他に意識が飛ばないようにやってます。」と述べている。

【患者の思いや行動を自分に置換する】は、看護学生が患者と関わる際に、自分がされて嫌なことは患者にもしないようにと考え、患者への対応や関わりを自分だったらと置き換えることである。Bは「確かに自分がそう聞かれたときにストレートに聞いてもらった方が嬉しいな、ってか答え方としても楽じゃないですか、とは思いましたね。自分の事に当てはめてっていうのが結構多かったっすかね。」と、自分にあてはめて考え行動していたことを語っている。

【ノンバーバルへ注意を向けた対応をする】は、看護学生が患者と関わる際に、特にノンバーバルコミュニケーションに注意を向けて患者へ対応することである。Dは「沈黙のまま、の時もありますやっぱり。その、話したくなかったりちょっと疲れちゃったりっていうのもあるかなっていう風に思うんで、少しそのままボーってっ過ごしたりする時もありますし。で、やっぱりそういう時にその患者さん…の顔とか見て…あんまり話すの大変そうだったなーとかっていうのがあれば終わりにしたりはしますし。」と、患者のノンバーバルなサインを感じ取り対応していることを話している。


6)患者と良好な関係を築く
カテゴリー〈患者と良好な関係を築く〉は【共感を意識して関わる】、【患者の反応を見ながら患者との関係を作る】、【患者の身体的・精神的距離を考慮】、【目線を合わせる】、【患者のプライバシーに配慮】の6つの概念からなる。看護学生が患者と関わる際に、看護学生―患者の関係を構築し良好な関係を築いていくことである。これは、看護学生―患者の関係を構築の重要なカテゴリーである。

【共感を意識して関わる】は、看護学生が患者と関わる際に、共感を意識して関わることである。Dは「患者さんがなんか嬉しかったエピソードだったりとか大変だったものに関しては、そうですかぁ…みたいな。本当、心の底から共感してますよっていうのを出すようにはしてました。」と、共感の感情を患者へ伝えようとしていたことを語っている。

【患者の反応を見ながら患者との関係を作る】は、看護学生が患者と関わる際に、患者の反応を見ながらコミュニケーションをとり患者と関係を作ることである。Aは「患者さんから今日娘がお見舞いにきてくれたのーなんて言われたら、あ、娘さんいらっしゃるんですかとか言って、掘り下げるようにしていっています。」と、会話の展開において患者の発言を受けて対応していたことを述べている。

【患者の身体的・精神的距離を考慮】は、看護学生が患者と関わる際に、患者との身体的・精神的距離を考慮することである。Dは「自分でその椅子とかなくて立ってる時だったら位置だったりとか、ちょっと、ちょっとうろうろっていうのも変ですけど」と、患者と自分の立ち位置について述べている。

【目線を合わせる】は、看護学生は患者と関わる際に、目線を合わせようとしていることである。Bは「あと、たぶん普段は絶対気にしないですけど目をみて話すとか。俺あんま…普段あんまやんないですけど、なんか見ないんですけど(中略)そうですね目線とかも気をつけてますね。」と、患者と関わるときには目線を合わせることを語っている。

【患者のプライバシーに配慮】は、看護学生が患者と関わる際に、患者のプライバシーに配慮した意識や行動をすることである。Aは「朝とかでやっぱお通じとかそういう風な事を聞く時は、周りにあんまり人が居ない環境がいいけど…そういう時が無理な場合は小声で聞いたりはしてますね。」と、患者の排泄に関して配慮することを述べている。


7)患者の意味ある刺激になりたい
カテゴリー〈患者の意味ある刺激になりたい〉は【学生の存在が患者の生活を刺激する】、【学生との関わりを楽しんで欲しい】の2つの概念からなる。看護学生が患者と関わる際に、看護学生として患者の意味ある刺激になりたいという思いである。

【学生の存在が患者の生活を刺激する】は、看護学生が患者と関わる際に、患者の生活を何らかのかたちで刺激していると考えていることである。Aは「患者さんの場合は自分が役に立ちたいっていう気持ちなので、そこは大きく違いますかね。」と、患者との関わりにおいて自分を生かそうとしていることを語っている。

【学生との関わりを楽しんで欲しい】は、看護学生が患者と関わる際に、患者に自分との関わりを楽しんで欲しい、プラスに働いてほしいと考えていることである。Aは「仲良くなればあの私と過ごす時間がその方にとって負担にならない、楽しいことの一つになる。入院生活って暇じゃないですか?その中で大きなメリットかなっていう…。」と、患者と関係を構築するプロセスの中で学生との関わりをメリットとして考えていることを話している。


8)患者に学生のいいイメージを持ってもらいたい
カテゴリー〈患者に学生のいいイメージを持ってもらいたい〉は【患者に学生のいいイメージを持ってもらいたいという意識】、【患者に学生のいいイメージを持ってもらいたいという行動】の2つの概念からなる。看護学生が患者と関わる際に、患者から嫌われることなく、学生のいいイメージを患者に持ってもらいたいという思いのことである。

【患者に学生のいいイメージを持ってもらいたいという意識】は、看護学生が患者と関わる際に、患者にいいイメージを持ってもらいたい、与えたいという意識のことである。Dは「見た目というか与える印象というか大事かなーと思います。うん、綺麗にやっぱり身ぎれいにしててもやっぱり笑顔がなかったりとかするだけでやっぱり多少は違って、まぁ両方気をつけないとあれなのかなとも思います。」と、患者に与える印象に関して意識していると述べている。

【患者に学生のいいイメージを持ってもらいたいという行動】は、看護学生が患者と関わる際に、患者にいいイメージを持ってもらいたい、与えたいという具体的な行動のことである。Bは「腕組むと怖いってよく言われるんで。威圧感があるのか…そう、自分をなんか閉ざしてるっていうイメージがあるらしくて。腕組むと怖いとか言われたりするんで、絶対しないようにしてます。患者さんの前では絶対しないようにしてます。」と、看護学生の悪いイメージを与えると考える行動を慎んでいることを語っている。


9)期間の限られた関係
カテゴリー〈期間の限られた関係〉は【決まった期間での関係構築】、【関わる期間が長いと自然な対応になる】の2つの概念からなる。看護学生が患者と関わる際に、看護学生は期間の限られた関係だと考えていることである。

【決まった期間での関係構築】は、看護学生が患者と関わる際に、看護学生が実習期間や入院期間といった限られた期間の中で患者との関係を構築することである。Cは「そうですね、短い期間の中でいろいろ聞いてアセスメントしたりしなきゃいけないっていう課題と、その人とうまく関係性を築かなきゃいけないっていうのでやっぱしね。」と、期間が患者を関わる上で大きく影響していることを語っている。

【関わる期間が長いと自然な対応になる】は、看護学生が患者と関わる際に、ある程度の期間をかけ患者と関わり関係が構築されてくると、学生も無理のない自然な対応が出来ることである。Cは「結構長い時間関わってて慣れてきたら敬語は基本的には使うけどもちょっとフランクな場面も見したりしてっていう。患者さんに対して自分の中で関わってきて関係を築いていく中でここなら別にフランクな感じになってもいいっていうのも自分で判断しながら…本人が話してて楽しそうになるようにしてるっていうか。」と、患者との関係構築の中で学生が場面や状況を判断しながら自然な対応をしていることを語っている。


10)身だしなみに注意
 カテゴリー〈身だしなみに注意〉は【視覚的に好印象を与えたいという意識】、【嗅覚的に悪い印象与えたくないという意識】の2つの概念からなる。看護学生が患者と関わる際に、身だしなみに注意していることである。

【視覚的に好印象を与えたいという意識】は、看護学生が患者と関わる際に、視覚的に好印象を与えたいという意識があることである。Bは、「ユニフォームはちゃんと着とかないとダメかなとか。しわくちゃなのってなんか清潔感ないですよ。身だしなみの部分では、俺はワックスつけないんで何ともいえないんですけど。その日朝起きた髪型ではねてたら直しますね。水(を)頭からかぶって整えるんです。あと、ヒゲとかはちゃんと剃るようにはしてますね。(中略)まぁ病室とか入るときはちゃんと消毒は行ったりとか。爪も切ってますね。」と、患者が視覚的に捉える看護学生のイメージについて注意していることを述べている。

【嗅覚的に悪い印象与えたくないという意識】は、看護学生が患者と関わる際に、嗅覚的に悪い印象を与えたくないという意識のことである。Bは「あと汗とか?匂いとかヤバイっすよね。さすがに匂いって一番きついですもんね。言えないですしね相手に絶対。(中略)男の靴ってすげえ蒸れるんですね。穴あいてないんですよ。脱いだ後びしょびしょですからね。なんでもう、よく乾燥させますね。」と、患者が嗅覚的に捉える看護学生のイメージに関して話している。


以上の結果から、カテゴリーと概念の関係を考えながら、「看護学生―患者間の関係を構築するプロセスにおいて看護学生がどのような事を意識し患者と関わっているのか」を構造化したモデルを作成した。
(こちらはデータの関係上、記載していません)

看護学生―患者間の関係構築プロセスにおける看護学生の意識・行動モデルでは、看護学生が患者と関係を構築するプロセスにおいて、様々な要因が関連しある種のループを構築していることがわかる。

まず、看護学生が患者との関係を構築するプロセスにおいて〈看護提供者として患者を知る〉という意識が生まれる。実習においてもアルバイトにおいても看護提供者として、患者に興味を持ち理解したいという意識が生まれる。

ここで、患者を知るために〈患者から情報収集する〉という意識と行動が生じるわけだが、このプロセスには〈看護学生の役割・立場を考える〉が大きく影響する。看護学生として得る患者の情報とはどういうものなのか、看護学生の範囲で患者にすべきケアはどういうケアなのか、どのように情報を得るのか、どのような情報を得なくてはならないと考えているのかなど、患者から情報を得るにしても看護学生が考える「看護学生のあるべき姿」が大きく影響している。「看護学生のあるべき姿」は看護学生としての意識を生み、看護学生としての意識が看護学生としての行動を規定している。

これら影響を受けて、看護学生は患者から情報を得ようとしている。その上で、〈患者から情報収集する〉のである。ここでは、患者から情報を得るメリットの他に、看護学生の行動が得られた患者の情報に左右されるというデメリットもある。

次に、患者から情報を得るにあたって〈看護学生が聞き手、患者が話し手のコミュニケーション〉を意識し行動する。患者から情報を得るだけでなく、ここでは患者とのコミュニケーションを通して関係を築くきっかけとなる

故に、看護学生は患者に反応を返したり、患者の会話へのモチベーションを気にかけたりする。このカテゴリーには患者から情報を得る、患者とのコミュニケーションを円滑にする意味で〈患者を優先した関わり〉が大きく影響する。看護学生は患者を優先する関わりを実習や経験を通して身につけているのである。

そして、看護学生―患者間の関係を構築するプロセスにおける中心が〈患者と良好な関係を築く〉である。これは、看護学生―患者間の関係構築プロセスにおける看護学生の意識・行動モデルの中心をなすカテゴリーである。このカテゴリーは継続的に患者と関係を築くための意識や行動が含まれる。このカテゴリーを踏むとまた、〈看護提供者として患者を知る〉というカテゴリーまで戻り、情報収集・コミュニケーションのループを辿っていくと考えられる。

このループを構成する〈看護提供者として患者を知る〉、〈患者から情報収集する〉、〈看護学生が聞き手、患者が話し手のコミュニケーション〉の3つのカテゴリーは〈期間の限られた関係〉の支配を強く受けている。これは、看護学生の実習期間や患者の入院期間によってそのプロセスの時間の流れが変化することを意味する。

〈患者と良好な関係を築く〉カテゴリーには、〈患者の意味ある刺激になりたい〉と〈患者に学生のいいイメージをもってもらいたい〉という看護学生の患者への肯定的な願望が浮かび上がった。看護学生が自分の存在を生かしたい、自分との関わりが患者のメリットになって欲しいという意識とそれに伴う行動が大きく影響している。この二つのカテゴリーには患者へ好印象を与えたい、悪い印象を与えたくないという意識である〈身だしなみに注意〉が関わっている。看護学生は当たり前の事として患者に与える自身の印象や身だしなみに注意して患者と関わっている。これは、看護学生―患者間の関係構築プロセスに関連しており、患者との良好な関係構築に間接的に影響している。

考察

先行研究では、質問紙による分析法でいわゆる客観的なデータをもとに看護学生―患者間の関係構築プロセスを明らかにしたものが多かった。しかし、本研究では看護学生がどのような意識のもと患者と関わっているのかということを学生の生の声をデータに看護学生が分析し、学生の考えや思い、方法を紡いだ。


1)看護学生のあるべき姿
看護学生の考える「看護学生のあるべき姿」が看護学生の意識・行動の範囲や患者との関係構築に影響していることがわかった。各々の看護学生が「看護学生のあるべき姿」を持っていた。この「看護学生のあるべき姿」は一人ひとり異なっており、それによる意識も当然異なっている。実際の看護学生としての振る舞い・行動もこの影響を大きく受けている。

さらに、実習という環境から離れたアルバイト時、看護学生の患者への意識・行動にはそれぞれ変化が見られる。なぜなら、アルバイトにおいて看護学生は患者との関わりを無理のない自然な対応が出来る、精神的に楽であると考えているからである。

このように、実習とアルバイトでは看護学生が患者とかかわる体験を受け止める気持ちに違いが見られる。しかし、看護学生としてあるべき姿でいようという思いには影響していない。

以上の「看護学生のあるべき姿」から派生する看護学生としての意識・行動は、〈看護提供者として患者を知る〉から〈患者から情報収集する〉のプロセスに大きく影響を与えている。


2)身だしなみ
看護学生―患者間の関係構築プロセスでは、患者に与える看護学生の視覚的イメージ、つまり身だしなみが影響すると看護学生は考えている。身だしなみに気をつけることは、看護学生―患者間の関係構築プロセスにおいて、当たり前の自然な行動として現れていた。

そうした背景には、1年次からの身だしなみに関する教育と看護学生としての体験が関わっている。その考えを基盤に〈患者に学生のいいイメージを持ってもらいたい〉と〈患者の意味ある刺激になりたい〉という意識が生じている。加えて、身だしなみは看護学生らしさを考えるという点で「看護学生のあるべき姿」にも影響している。

つまり、身だしなみに気をつけることは、患者に与える看護学生自身の印象を決定する要因になっている。これは、患者に学生のプラスイメージを与えたいという思いと看護学生のあるべき姿を構成する重要な要素となっているのである。

日常生活において身だしなみは他者へ与えるその人の印象を決める要素になっているが、看護学生―患者間の関係構築プロセスにおいては、看護学生側が考える重要な要素の一つとなっていることがわかった。


3)限られた期間
看護を提供する者として患者を知ろうとして情報を集め、関係を作りながらケアを提供するプロセスにおいて、看護学生は患者と関わる期間に非常に影響されていることがわかった。

実習期間や入院期間によって、看護学生は構築したいと考える関係やそのプロセスに違いがあると考えている。これまでの人間関係の構築とは異なり、看護学生は患者との関係の終結を念頭にいれて関わるという経験をする。

特に、実習では関係の終結の日時がはっきりと決められているという条件下で患者と関係を構築しなくてはならない。与えられた期間の中で患者と良好な関係を構築することは、臨床実習において重要な要素の一つである。加えて、患者との良好な関係を構築することは学生の実習満足度にもつながっている7)。看護学生は患者との出会いや実習経験を積みながら、期間の限られた患者との良好な関係の構築の方法を身につけ実践していた。

上記の意識・行動によって看護学生は患者との関係を構築しようとしている。その目的は、患者との良好な関係を構築することにある。そのために、看護学生は身体的にも精神的にも患者を優先させた関わりをしている。

本来ならば、看護学生―患者間の関係は対等であることが望ましいと言われている。しかし、看護学生の「患者を尊重する」、「患者さんで実習させて頂く」、「患者の療養生活に介入させて頂く」といった気持ちが【出来るだけ患者の思いや行動を尊重する】、【患者の思いや行動を自分に置換する】などといった意識・行動を生んでいるのだと考えられる。

そして、患者と良好な関係を構築するためにも患者から情報を得るためにも患者の話を聞こうと意識し行動している。患者の話を聞きたい、患者に話してもらいたいという意識のもと看護学生は患者に反応を返したり、患者の会話へのモチベーションを気にかけたりしている。こうした意識・行動が患者と良好な人間関係を構築するという目的に結びついている。患者と良好な関係を築くという目的には〈患者を優先した関わり〉、〈看護学生が聞き手、患者が話し手のコミュニケーション〉、〈患者の意味ある刺激になりたい〉、〈患者に学生のいいイメージをもってもらいたい〉ということが影響しているように見える。しかし、患者と良好な関係を継続的に築くためには、また〈看護提供者として患者を知る〉まで戻り、一連のループを辿りながら患者との良好な関係とは何かを再検討していかなくてはならない。この繰り返しによって、患者との良好な関係の構築がなされると看護学生は考えている。また、図2の〈期間の限られた関係〉を含む〈看護提供者として患者を知る〉、〈患者から情報収集する〉、〈看護学生が聞き手、患者が話し手のコミュニケーション〉、〈患者と良好な関係を築く〉という一連のループを看護学生―患者関係は何度も通っていると考えられる。

何度もループを通ることで看護学生―患者関係と看護学生が患者に提供する看護の質が螺旋状に向上していき、その結果良好な患者との関係と良質なケアの提供につながっていると看護学生は考えていると推察できる。


おわりに

看護学生は患者と良好な関係を築くことを大変重視している。看護学生は患者との関わりにおいて、各々の看護学生が考える「看護学生のあるべき姿」という思いを根底に看護学生としての意識・行動していること、身だしなみに注意すること、患者と関わる期間に留意していることがわかった。

さらに、患者を優先させた関わりをすることや患者の話しを聞こうと関わることなど、患者と関わる看護学生の様々な意識が行動を規定し、ある種のループを描いていることが考えられた。患者と良好な関係を構築することがこのループの中心にあった。

このように、看護学生の思いと看護学生が考えている様々な意識や行動が患者との関係を構築するプロセスに影響していることを発見できた。今後は例数を増やし、看護学生―患者間の関係構築プロセスをもっと掘り下げて考えたい。

看護学生―患者間の関係構築プロセスにおける本意識モデルは、これから患者と関わる看護学生にとって、患者との関係を構築する方法や具体的なコミュニケーションに役立つものと考えられる。


謝辞

お忙しい中インタビューに参加して頂いた学生5名、アドバイスをくれた同じ研究室の学生2名、ご指導下さった◯◯先生に深く御礼申し上げます。


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西條剛央:ライブ講義・質的研究とは何か SCQRMベーシック編,新曜社,2007

西條剛央:ライブ講義・質的研究とは何か SCQRMアドバンス編,新曜社,2008




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