教科によって変わる、公立中学校の内申点分布
中学校の内申点(この記事では、教科別の5段階の評定を意味します)は、2001年から絶対評価が導入され、評定の割合が評価する先生の裁量次第になりました。「クラス全員、数学は「5」を付ける」ということも、理論上はできるようになったのです(たぶん校長先生に止められますが)。
評価する先生によって評定の割合がバラバラということは、教科によって評定の割合が変わってくるということでもあります。それでは、内申点が付きやすい教科、あるいは付きにくい教科はあるのでしょうか?
評定分布の公開データを分析
まず、東京都教育委員会が公開している、東京都の公立中学校を2022年3月に卒業した中学3年生の評定の分布を調べてみました。9教科の評定の平均は3.31なのに対し、美術は3.37、音楽は3.35と少し高く、数学は3.26、英語は3.27と少し低くなっています。
上の表を棒グラフでも表してみました。
この棒グラフを眺めた私は、5教科と実技4教科(音楽/美術/保健体育/技術・家庭)とで、内申点の付き方に差があるのではないかと考えました。ただ東京都だけでは偶然の可能性も否定できないので、他の自治体(千葉県・愛知県・岐阜県)についても調べてみました。なぜこのラインナップかと言うと、公立中学校を2022年3月に卒業した中学3年生の評定の分布を教育委員会の公式サイトで公開しているのが、東京都とこれら3県だけだからです。
千葉県では、9教科の評定の平均が3.59と、東京都に比べて評定が全体的に高いです。教科別に見ると、音楽が3.65、美術と保健体育が3.64と少し高く、英語が3.51、国語が3.52と少し低くなっています。
愛知県では、9教科の評定の平均が3.16と、東京都に比べて評定が全体的に低いです。教科間の差はあまり大きくないですが、美術が3.19、音楽と保健体育が3.18と少し高く、英語が3.12、数学が3.13と少し低くなっています。
岐阜県では、9教科の評定の平均が3.14であり、愛知県と同程度です。教科間の差はあまり大きくないですが、美術と保健体育が3.17と少し高く、数学と英語が3.12と少し低くなっています。
全体的に評定平均が高い教科は?
前項で挙げた生のデータを加工し、各教科の評定平均と9教科評定平均との差分をまとめた棒グラフを作成しました。
このグラフから、少なくとも2022年3月卒業の公立中学校3年生については、調査したいずれの都県でも、実技4教科の評定平均が5教科の評定平均よりも高い傾向にあったことが読み取れます。
実技4教科の中での高低はまちまちですが、なぜか技術・家庭はそこまで高くなかったようです。
5教科の中では、千葉県の国語の低さが目に付きますが、全体としては数学と英語の評定平均がとくに低いようです。
「5」が付きやすい教科は?
前項で実技4教科の評定平均は高い傾向があると述べましたが、それは必ずしも「5」が付く割合が高いことを意味しません。2022年3月卒業の公立中学校3年生については、5教科の方が実技4教科よりも総じて、「5」が付いた割合が高かったのです。
5教科は実技4教科に比べると、高校入試の学力検査で課される教科であることもあって、学習により多くの時間を費やす生徒が多いと考えられます。その結果が「5」が付く割合の高さに現れているのかもしれません。また、5教科の中ではとくに英語で「5」が付く割合が高ったのが目につきました。
「2」以下が付きやすい教科は?
実技4教科は評定5の割合が低いのに、なぜ評定平均は5教科よりも高めだったのでしょうか?それは、5教科に比べて「3」の割合が高く、「2」の割合が低いことが主な要因です。
東京都を例にすると、5教科で「3」以上が付いたのは約8割、裏を返すと約2割に「2」または「1」が付きました。一方、実技4教科では9割近くに「3」以上が付き、「2」または「1」が付いたのは1割強しかいませんでした。実技4教科は「5」が付きにくいものの、「2」以下も付きにくいと言えそうです。
一方、2022年3月卒業の公立中学校3年生については、5教科の中でもとくに数学と英語で、「3」以上が付いた比率が低い、すなわち「2」以下が付いた生徒の割合が高くなりました。
ベネッセの調査によると、高校受験を経験した高校1年生が中学生のころに一番苦手だった教科として挙げたのは「数学」と「英語」が群を抜いて多かったそうです。こうした苦手意識が内申点の付きにくさにも反映されているのかもしれません。
まとめ&今後の展望
絶対評価で付けられる公立中学校の内申点には、
・実技4教科の評定平均が5教科よりも高い
・実技4教科は5教科に比べて「5」が付きにくいが、「2」以下も付きにくい
・5教科は実技4教科に比べて「5」が付きやすいが、「2」以下が付きやすい
・5教科の中でもとくに英語と数学は「2」以下が付きやすい
傾向があることを確認しました。もちろん個々の中学校・教員単位で見ればバラツキはあるでしょうが、全体としては各教科の特性に応じた評価がなされていると考えられます。
この調査はあくまで2022年3月卒業の4都県の公立中学校3年生について行ったものですが、評定の分布を公開する自治体が増えれば、さらなる検証が進むはずです。私の予想では、年度をまたいでも、あるいは他の道府県でも、今回の調査で見出された同様の傾向が見られると思います。
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