くす玉

8月の青い空にどデカい入道雲。潮風が海から柔らかい頬を刺激する。

子供達が毎日、海に行く。海の町に暮らす子供の日課だ。

今年は、私の祖母が初盆を迎える。

祖母は、子供達から

「おおばあば」と呼ばれ慕われていた。

真っ黒に日焼けしたしわくちゃの手で、器用にくす玉を作る。折り紙を折る手は、いつも魔法使いの手のように見えた。

私は、小さな頃から、祖母が作るくす玉を一緒に作る。でも、小さな手は、中々上手く出来ないからすぐ泣いた。

「何事も慣れだよ。」祖母の口癖だった。

私が、結婚し子供が出来た。夫と共にひ孫を見せに行った時、ぐしゃぐしゃな顔で泣いて喜んだ。

「わしもおおばあばになったんだ。」

ひ孫を抱く手を見て、はっ!とする。両手の指が全部で7本しかない。思わずそれの手をじーっと見つめてしまった。

その視線に気がついた祖母は、「これか?」と子供を私に返して広げて見せた。

左手は

小指と薬指、右手は中指が、欠損していた。

「その指いつからそんな状態?」

あまりにも堂々とする祖母は、歯がない口を、開けて笑って言った。

「若い頃に、戦争があったのしってるだろ?その時手榴弾が、私の目の前で爆発したんだ。まぁ幸か不幸か命は取り留めて、この歳まで生きて来れたが、なくなった指が亡霊のように見えた。しかし、生きてさえいれば、なんとでもなるもんだよ!」」

私は、毎年夏休みが来る度に子供を祖母の家に連れていった。そうして「おおばあば」と慕う子供は、いつしかくす玉が作れるようになっていた。

「カナより器用に折り紙するのお。」祖母は、95まで生きて眠るように逝った。

嫁ぎ先は、実家から車で30分。

海は、いつも通り青く輝いている。

もうすぐ子供が、帰ってくる。真っ黒に日焼けした顔を見て、昔、祖母がよく作ってくれたくす玉を私もまた作ってみようと思った。

「もうすぐお盆だよ!おおばあばにお盆になったら会いに行こうね!おおばあばにお土産持って行こう。陸人も手伝ってくれる?」

「いいよ。」陸人は、小さな手を器用に動かしスイスイとくす玉のパーツをおって行く。それに引替え私は……

横目で見て陸人は、一言。

「ママ、相変わらず、折り紙下手だね!でも、下手は下手なりにいい味が出る。」

あははっ!私は、思わず、笑ってしまった。それは祖母がよく言っていた一言だった。

『おばあちゃん、あなたの想いはしっかり伝授されてるよ!ありがとう!』



少し歪んだくす玉を実家の仏壇の横に吊るす。

線香の香りが部屋を覆っていた。

「おおばあばに挨拶しな!」

陸人は、仏壇に手を合わせた。

網戸から優しい潮風が入ってきた。

キッチンからスイカを切って持ってくる母が、くす玉を懐かしそうに見つめていた。

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