偶然の克服
テレビのお天気お姉さんが
「夕方激しい雨が降る予報」
というのを信じて、夕方から友達と食事をするのを来週に延期しようと決めた。
私の嫌いなものベスト3
幽霊、注射、雷。
最近雨の前には、必ず、ゴロゴロ言い出し、その後バリバリ!ドーン……ほんとに耳を塞いでしゃがむ体勢を取ってしまう。通り雨が、ザーッと降る中、ずぶ濡れになる走って建物内に行けばいいのにってみんなは言うが、中々足が動かないのだ。
夕立が私の楽しみを奪う。
LINEに「今日はやめよう!」ってメッセージを残す。
しかし、中々既読にならなかった。最近バイトが忙しくてスマホを見る暇がないらしい。私は、やっぱり友達に会いに行く決意をする。決意というのは大袈裟だろうか?
少し早い目に出て、夕立が来る前に、待ち合わせ場所に行くことにした。
私のアパートから、待ち合わせ場所まで徒歩とバスで1時間弱。午後3時に家を出る。夏の熱気で、蒸し風呂の中をバス停まで歩いた。
途中で、お腹の大きな女性が小さな子供の手を引いて通り過ぎた。と思ったら、小さな子供が母親の手を離し、走り出す。
「凛!ママの手離しちゃ駄目!」と、叫ぶ母親。聞く耳を持たない子供は、どんどん距離を離していく「あっ!」遠くで子供が、前のめりに転んだ。母親が大きなおなかを抱えて走り出す。「あっ!」今度は母親が前のめりに転んだ見て見ぬふりをする状態ではなくなった。まず、子供の所に行って、抱き抱え、母親の所に走り込む。
母親は、下半身から、出血していた。
「誰か!救急車!!」通り過ぎていこうとしたおばさんが、救急車を呼んでくれた。
救急車が来ると救急隊員に「病院まで付き添うように言われて、私通りかかっただけなんです。」と説明するが、何度もお願いされ断れなくなった。
仕方なく、病院まで付き添う。子供は、擦り傷だけだったが、母親は、臨月。出血が酷いらしい。医師が私の血液型を聞く。「大変恐縮ですが、献血して頂けませんか?」母親の血液型はRH-o型。偶然というのは恐ろしい。私の血液型もRH-o型。一刻を争うと、迫られれば断る余地などなく、腕に注射器が刺さるのを息止めて見守った。
何とか8 00CCの血液を固まった身体から吸い取られて、少しふわーッとなり、ベッドで目を瞑り、休んでいると誰かが、私の手を握った。
とても暖かくほんわりした気持ちになる。
「ありがとうございます!家の娘を助けてくださって、私の血液型もあなたと同じでした。あの子を出産する時に大出血を起こし、ショック死してしまった。しかし、あの子は、2人目を無事産む事ができる。ほんとに感謝します。」
年若い女性は、母親そっくりだった。意識が朦朧する中、もしかして幽霊?と思ったが、全く怖さは感じなかった。むしろ、温かさに包まれた気持ちになった。
その時、LINEの通知音が鳴る。「今どこ?私バイトが早く終われたから、やっこのアパートの前にいるの?」
読んだ後、電話をかけ、事情を説明する。
彼女は何度も感嘆の声を上げていた。「私さ、2つ怖いもの克服しちゃった。へへっ」
「へへっじゃないよ!今からそっち行くから、それまで休ませてもらいな!」
外はなんだか暗雲が、立ち込めていた。
友達が病院に到着し、私は、ベッドから起き上がった。
医師が来て、「無事男子が生まれました。是非顔を見ていってください。」窓越しにくしゃくしゃの赤い顔のお猿さんが見えた。
その時連絡を受けた父親が、走ってきた。
「あなたのおかげで無事2人の親になる事が出来ました。ありがとうございます。今日は、持ち合わせがないので、タクシー代だけでも貰ってください。」
「そんな何も要りません。私は、怖いもの2つ克服できたのだから。」
父親は、?という顔をしたが、私の手に五千円札を握らせた。
外は暗くなっていた。だけど気持ちは、爽やかだった……
ゴロゴロ!!
何故か怖さを感じなかった。
「せっかくだから、このお金で何か食べに行こ!」
駅前まで、来る間に少し濡れた。が夕立は酷くなかった。きっと天使達が雲上から傘をさしてれたんだと、私は思った。
今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。