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まゆげと写真

母の、朝のルーティン。
おはよう→トイレ→洗顔→日めくりカレンダーをめくる
→朝食&薬→今日の予定と持ち物を確認→お皿を洗う→歯磨き→着替え
→花に水やり→デイサービスへ出発、という順序で大体やっている。
(デイサービスのない日は体操など)

いつも次に何をしていいのかわからなくなるので、家族に何回も聞く。
逆にいえば、次に何をするか言ってあげればできるということでもある。
この流れをスムーズに済ますことができたら、精神的に落ち着いていられるようだ。
しかし気分がすぐれず一向に進まない時や、
途中どれかが抜けてしまって慌ててドタバタすることも。
何かをきっかけに、急に不機嫌になってしまうこともある。
そんなとき私は、唐突に思い出したように言うことにしている。

「お母さん、まゆげ描こうか」

母はこの数年、化粧をしなくなったけれど
まゆげを描いてもらうことは嬉しいようで、
「そうやね、お願いします」と素直に目を閉じる。
私はまゆげペンシルを持って、声をかける。
「はい、にこっと笑って〜!」
すると母は言われたとおり、にこっとしてくれる。
「笑顔でないと、まゆげは上手く描かれへんねんで〜」
これも私の決まり文句だ。正直、なんの根拠もない。
プロのメイクさんでもあるまいし
自分以外の人のまゆげを描くのはそうとう難しい。
だから上手に描けた試しはあまりないのだが。

まゆげは、あくまでも手段に過ぎない。
にこっと口角を上げることで
無理矢理にでもご機嫌を良くしてもらおうという作戦なのだ。
『笑うと楽しくなる』という言葉がある。
1885年ごろにアメリカとデンマークの心理学者が唱えた説らしい。
私はそれを信じることにしている。
さらに時間があればもうひと声。

「今日のファッション写真、撮ろう」

これにはちょっと気力がいるので
えー!、とか、今日はやめとくわ、とか断られることもあるが
私はめげない。
雨ニモ負ケズ風ニモ負ケズ
母ノ不機嫌ニモ負ケズ。
ベランダか玄関の外に一歩出て撮るだけなので
そんなに大層なことではないよ〜、と説得する。

「はい、撮るよー。笑顔おねがいしまーす!」
すると母はピースサインを作り、ちょっとすました笑顔をつくる。
そうしてなんとかご機嫌を取り戻してデイサービスへ出発。
いってらっしゃい〜♪ となる。

毎日ではないけど定点で撮る写真は、その時の体調やご機嫌の記録にもなるし
前回の服と被らないように確認できるので便利だ。
件名:今日のファッション で父と姉にメールで共有している。

まゆげと写真は、頼りになる。

2021年春から続けていること。


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