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メーリングリストでのトラブル体験と、その解決法

以前、私が管理者をしていた、あるメーリングリストで、こんな体験をしたことがあります。それは、辛くて嬉しい経験でした。現在は、メーリングリストよりもSNSが多く使われるようになりましたが、そこで起こるトラブルには共通点があるので、参考になると思います。

ある日、参加メンバーの一人のAさん(ハンドルネーム)が、メーリングリストの運営方法について、意見を投稿しました。もし、その内容や書き方が、肯定的・建設的なものなら、なんら問題なかったのですが、実際は、それとは正反対の、否定的・攻撃的(Aさんの意図は違うのかもしれませんが、管理者の私には、そう感じられました)なものだったのです。

案の定、メーリングリストは険悪な雰囲気になりました。Aさんが、「〜について、管理者に説明を求めたい」と書くので、それに応えようと、私が冷静に丁寧に説明した(書いた)のですが、Aさんは、「管理者は逃げている。そんな言い訳では、とうてい納得できない。だれもが納得できる説明を求める」と書くので、私はさらに知恵を絞って説明しましたが、一向に納得してもらえません。そのうちに、他のメンバーも論争に参加してきて、終いには収拾がつかない状態になりました。

そもそも、「だれもが納得できる説明」というのは、ほとんど不可能なことですし、なによりも、説明とか議論というものは、お互いに「理解し合おう」という気持ちが双方にないと、いくら言葉を尽くしても分かり合えないものなのですが……

困った私は、ふと、「これがカウンセリング(当時、私はカウンセリングの研修を受け始めていました)だったら、どのように対応するだろうか」と考えました。

さて、攻撃的(?)な書き込みをしているAさんは、本当は何を言いたい(伝えたい)のだろう。
(ひとは、とかく、自分の真の気持ちを言葉で表現できないことがあります)

そこで気付いたのが、Aさんは、「このメーリングリストをより良くしたい」という気持ちがあり、本当は、それを言いたい(伝えたい)のではないかということでした。もちろん、これは、私の推測なので、違っている可能性は大いにあります。そこで、さっそく私は、

「Aさんは、このメーリングリストを良くしようと思って、たくさんの発言をしてくれているのですね」

というコメントを書き込みました。すると、驚くことに、その後のAさんの発言が、急に建設的になったのです。その時の安堵感は、いまでも忘れません。

後から考えたのは、最初のAさんの攻撃的(?)な発言に触発されて、私が防衛姿勢に入ってしまい、その姿勢がAさんには「逃げ」と映ったため、Aさんを、ますます刺激してしまったのではないかということです。

その出来事の数年後(1994年)、私は、カウンセリングの理論と技法からコミュニケーション(対話)の要素だけを抽出して、〈対話法〉というコミュニケーション技法を考案しました。〈対話法〉の原則は、「自分の考えや気持ちを言う前に、相手が言いたいことの要点を、相手に言葉で確かめる」ことです。特に、後者の「確かめる」行為を「確認型応答」と命名して重視しています。〈対話法〉の原則を実践することにより、誤解や、それに付随する感情的な対立を予防・解消することができます。

ここで、先に書いたトラブルと、その解決の方法を、〈対話法〉の理論に照らして考えると、「攻撃的(?)な書き込みをしているAさんが言いたい(伝えたい)こと」を、私が推測して、それが合っているかどうかを確かめた(「確認型応答」をした)からこそ、感情的な対決が収束したということになります。
(もちろん、当時は、〈対話法〉は考案されていなかったので、カウンセリングの技法として使いました)

メーリングリストやSNSで起こるトラブルには、様々な原因があるので、「確認型応答」をすれば必ず解決するといえるほど単純な話ではないでしょう。しかし、その後の私の研究や体験から、〈対話法〉の原則は、多くの人が考えている以上に効果的であることを確信しています。

〈対話法〉についての詳細は、「対話法研究所」のサイトでご覧ください。


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