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いい加減、TDRを超えるテーマパークが出てきて欲しい

私は東京ディズニーリゾートが好きだ。
それは、私がディズニー映画及びディズニーコンテンツが好きだから、という単純な理由ではない。東京ディズニーリゾートという「箱」が好きなだけである。

単純に「テーマパーク」としての質が圧倒的に高い。
作りこまれた世界観。徹底されたホスピタリティ。思わず感動するショーパレ、アトラクションなどのコンテンツ…。

逆に言えば、これらの「テーマパーク」としての質が高ければ、別に東京ディズニーリゾートでなくても良いのである。

私は別に、"ディズニー"であることに固執していない。何故なら、「ディズニー・コンテンツ」自体には、圧倒的な情熱を感じないからである。
だからこそ、問われて困る質問はこれだ。
ディズニーファンのあなたが好きなディズニー映画は何ですか?

私は映画は人一倍観る方であるが、その中で心を動かされ涙した映画というのは、別にディズニー映画ではない。音楽は圧倒的だと思うけれど、映画として捉えると、もっと他に心動かされるものが幾つも思い浮かぶのである。だからこそ、私が抱くディズニー映画に対する感想は、ただ「音楽」にフォーカスされることが多い。映画として問われると、"逆に"甲乙つけがたいのである。

パークにいるディズニーキャラクターは勿論好きである。でもそれは、「東京ディズニーリゾート」にいる彼らが好きなのである。
それが例えば「ビッグバンドビート」で華麗にドラムをこなすミッキーマウスなのかもしれないし、「ミニーのスタイルスタジオ」で会える可愛らしい仕草をみせてくれるミニーマウスなのかもしれない。でも、それは「東京ディズニーリゾートが作ったディズニーキャラクター」が好きなのであって、別に彼らを"キャラクター"として好きではないのである。

これは、別に何も私が特殊なディズニーファンという訳ではなく、多くのディズニーファンが同様の傾向を示している。それが顕著に現れる場面と言うのは、"東京ディズニーリゾートが作ったキャラクター"が崩れる瞬間である。


2019年3月26日、東京ディズニーリゾートは35周年終了と同時に、パークにいる全てのミッキーマウス、ミニーマウスのフェイスデザインが変更された。これに多くのディズニーファン(特にミッキー、ミニーのファン)が嫌悪し、反対の姿勢をみせた。そんな中、その反対派の人たちに楯突く派閥として、「彼らはミッキー、ミニーであることに変わりはないのだから、彼らのファンを謳うのならば受け入れろ」「顔が全てなのか?恋人の顔が怪我などで崩れたら別れるのか?」「顔が変わったくらいで文句言うのならディズニー/ミキミニファンとしての資格がない」という意見も挙がっていた。

ディズニーファン以外の一般層からしても、顔が変わって怒っているディズニーファン達の意見が理解できない人が大半であった。「顔くらい…。ミッキーはミッキーなんだから別に良いでしょ」と。この論争は、いつまでも着地点を見出すことはなく、単純に反対派が顔の変化に何らかの形で適応するか、適応できず界隈から離脱したことで終戦を迎えた。

この事例こそが、少なくないディズニーファンが「"箱"として東京ディズニーリゾートが好き」という証拠なのである。彼ら(反対派)は"ミッキー"が好きなのではなく、"3月25日まで東京ディズニーリゾートが作りだしていたミッキー"が好きなのである。だからデザインの変更に怒ったのである。逆に、反対意見が理解できないファン層と言うのは、TDRにいるミッキーを"ミッキー"として好きなのであり、一般層も同様に、TDRにいるミッキーを"ミッキー"として捉えているのである(だからこそ、彼らの中にはそもそも変化に気付いていない人も多い)。


そういう前提がある中で、近年、上がり続ける客単価とは裏腹に、テーマパーク/箱としての質の低下を指摘するディズニーファンが多い。先述したキャラクターデザインの突然の変更もそうだが、"バックグラウンドストーリー"の扱いを雑にしたり、ショーパレ、アトモスフィアの公演回数、質の低下であったり、(やや少数ではあるが)ディズニーキャストの質の低下を指摘したり…。

私はそうした批判意見全てに心から賛同するつもりはないにしても、やはり質の低下を感じざるを得ない場面と言うのは多いのである(過去にも「拝啓、あの頃の東京ディズニーリゾートへ。」で述べている)。

試しに、東京ディズニーリゾートに「明日から一瞬のうちに20年前のパークに戻る」魔法をかけてみよう。ソアリンも美女と野獣もない!これは困った、皆がパークから離れていく…
なんてことはなく、寧ろディズニーファンが殺到するだろう。何故なら、箱として、テーマパークとしての"質"は、彼らからすれば過去に遡れば遡るほど上がっていくのである。

これもビジネスとして不思議である。携帯電話が20年前のスペックに逆戻りしたら不便過ぎてイライラするだろうに…。

でもなぜ、彼らはそんなに文句を言うのに、東京ディズニーリゾートに通い詰めているのか?それは、単純に関東圏に、肩を並べるほど"箱"としての質が高いテーマパークがない。ただそれだけである。

対抗馬としてよく名が挙がる、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」は、そもそもターゲットが関西圏なので、直接客層を奪い合うことはない。仮にUSJが葛西臨海公園に出来ていたら、テーマパーク業界の競争はもっと苛烈だったのかもしれないが…(それを避けたUSJは優秀である)。

関東圏にも、部分的に東京ディズニーリゾートと同程度、若しくはそれ以上の質を感じられるテーマパーク、及び類似施設は沢山ある。代表例として「西武園ゆうえんち」は世界観の作り込みという面で(部分的だが)尽力しているし、「サンリオピューロランド」も、キャラクターの"箱"としての役割を十分発揮している。また、テーマパークではなくとも、ディズニーキャストのような接客や、TDRでいう"ショーパレ"に匹敵するエンターテインメントを見て、感動した施設というのは多数存在するのである。

でも、それは"部分的"なのである。総合的に見れば、東京ディズニーリゾートが圧倒的なのだ。言い方を悪くすれば、他は"詰めが甘い"のである。

だから、他のテーマパークでは常に「ここはディズニーみたいだね」という感情に苛まれる。素晴らしいショーを観れば、「まるでショーパレみたいだ!」、心温まる接客を受ければ「ディズニーキャストみたいだった」、作り込まれた世界観に触れれば「ディズニーシーみたい」…等と。決して、その場所単位で感動することはないのである。

これは何も他が手抜きという訳ではなくて、単純にオリエンタルランドの資金力が化け物(2024年3月現在、時価総額日本ランキング20位前後に常に位置)なので、総合的に勝てないのはある種必然なのである。


他にも、なかなかファン達のパーク離れが進まない理由がある。それは、定期的にTDRがディズニーファン向けコンテンツを出してくるのだ。

特に、2019年以降のその傾向は激しい。19年度の閑散期に開催されたイベント「ベリー・ベリー・ミニー!」では、過去のショーパレをふんだんにリミックスし、コロナ禍明けでは、ハーバーグリーティングで過去のショーパレ衣装を使用し…と、リメイクコンテンツが増えている。その度に、OLCに石を投げていた彼らは豹変し、喜んで値上がりしたパークチケットを購入するのである。

だがこれは、逆に考えれば先述した「質の低下」をモロに意味するとも捉えられる。新たにコンテンツを作るよりも、過去の人気コンテンツを擦った方が良いという経営判断ーつまり、"過去"に対して満を持して白旗を挙げている訳である。

とはいえ、数少ないながらも「ビリーヴ!シー・オブ・ドリームス」「ミッキーのマジカルミュージックワールド」等といった新ショーパレは、ひとまずかなり高クオリティな出来だと言わざるを得ない。ただし、それは部分的な評価であって、総合的に考えると、エンターテインメントは暗い影を落としていると言わざるを得ないだろう。


この記事のタイトルは、「いい加減、TDRを超えるテーマパークが出てきて欲しい」だったはずだ。その真意はどこにあるのか?
それは、どう考えても下がり続けている質(に加えて上がり続ける客単価)を、平然と見届けるのがただただ苦しいからである。
私にとって、東京ディズニーリゾートは人生を変えるほど素晴らしいものだった。かつて、私は人生、もといこの社会に希望を持てなくなった苦しい時期を迎えたが、東京ディズニーリゾートと出会い、(ベタな表現だが)心から救われたのである。
しかし、今の東京ディズニーリゾートを、仮に当時路頭に迷っていたかつての自分にぶつけたらー彼は希望を持ってくれるだろうか?その答えに、満を持してイエスと答えられない自分がいる。

私がディズニーファンだということは、平然と公言している。すると、これからディズニーに行こうとしている人や、単に興味を持った人がこう聞いてくる。

ディズニー、どうやって楽しめば良いかな?なにかオススメはある?

私はー悔しいことに、明確な答えを今のパークに見出せない。勿論、ワンハンドメニューを片手に、人気アトラクションを乗り回し、ミッキー達と写真を撮れば、それはそれで一般的に楽しい部類に入る。だが、それ以上ーそう、"一般的"な範囲を超えて、人を"ディズニーファン"たらしめるものが無くなってしまった。

だからこそ、TDRを超えるテーマパークが出てきて欲しい。そうすれば、TDRにこうして不満を抱くこともなく、平然と別れを告げることが出来る。そして少なからず、TDR自身も、箱としての質を上げようと尽力する。

でも、TDRはずっっっっっっと天下を取り続けている。だからある種の殿様商売が出来る。エンターテインメント業界の魂ともいえるコンテンツの質よりも寧ろ、ディズニープレミアアクセスだとか、パークチケットの値上げだとか、小手先の調整で平然と売上を叩き出す。それがただただファンとして悔しい、ただそれだけである。ここは、そんな場所ではなかった。

これからも、質は下がり続ける一方なのだろうか。いつか臨界点を突破した時、この界隈はどうなるのだろうか。そもそも、私たちディズニーファンはとっくに用済みの烙印を捺されているのかもしれない…。

それでも、この場所はまだ死んでいない。かつての圧倒的なパークではないにしろ、ふとした時に、それは外観の美しさだとか、バリアフリーに関する取り組みだとか、思わず胸を打たれる瞬間と言うのは確かに存在する。

そうした人の胸を打つ大切な何かを、この場所にはいつまでもとっておいて欲しいと思う。本当に"TDRを超えるテーマパーク"が出てこないようにー。

おわり

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