Calling

「あなた、靴紐ほどけてるわよ」

朝まで飲んでから家に帰るところだった
なんとかまっすぐ歩くことはできるが頭は働いていない
最寄りの駅まで電車に乗って帰ってきた
エスカレーターに乗っていたら
後ろから見知らぬおばさんが声を掛けてくれた
純粋な一声だった
まるで初めて人の思いやりを受けたみたいな気がした
「ありがとうございます」
慌てて返事をした
ろくに顔も見なかった
巻き込まれないようエスカレーター最後の一歩を跨いで
それから靴紐を結んだ
どうしてあのことばがこんなにも触れてきたのか
反芻しながらその不可思議に思考を提供した
それから見回したが声の主はもう見つからなかった
神と出会ったのだ
と、余韻だけが残った
あのおばさんが神であったのか
いいや、あのおばさんはただのおばさんだろう
ただ、おばさんの声を通して神の実在を束の間
直観したまでのことだ

靴紐のほつれを教えるために呼ばれたのだ
遣わされたのだ

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血となり、肉となります。

花が咲きそうだ
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葦田不見(Ashida Mizu)

詩を書きます。2019年12月、作品集を出版予定。ここでは主にエッセイを書きます。 【Instagram: http://instagram.com/ashida.water 】 【Twitter: https://twitter.com/ashida_water?s=09
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