最近の記事

仮定の話をしよう 1

「マスクが着用できない」ことをハンディキャップのひとつだと仮定してみよう。理由はさまざまあるだろうけどなにしろ「できない」のだからね。 通常ハンディを負っている場合はそれをカバーするべく別の選択肢やサポートなどが提供されるものだ。たとえば聞こえない人のための字幕や見えない人のための音声ガイド、歩けない人のための車椅子や、それに乗ったまま着席できる専用スペース。シアターでも劇場・ホールでも、ミュージアムでも。 ではマスクできない人のためにはどんな他の選択肢やサポートがあり得るだ

    • ジョバンニのことなど

      銀河鉄道を降りて(丘の上でのヤケになった眠りから覚めて)、家で待つお母さんのことを思い出し、牛乳を無事にゲットした帰り道でカムパネルラの溺死を知ったジョバンニ。 物語はカムパネルラの父から(彼にとっては旧友である)父がまもなく帰ってくると知らされたジョバンニがこの知らせを持って母の待つ家に向かって駆け出すところで終わる。 私はこのあとジョバンニは家まで帰ってきた時に戸口のすぐそばで父親に遭遇するんじゃないかと想像している。(だってカムパネルラのお父さんは「今日あたりもう着く

      • ブルカニロとの別れ 1

        宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」は幾度も推敲が重ねられ、生前に完成を見ていなかったこと、過去の出版時には推敲の過程で削除された部分がそれと知られず本文の中に残っていたりしたことを、賢治研究をちょっとかじった人はご存じだろうと思う。 子どもの頃に賢治作品を読んで好きだった、という方の中には「ブルカニロ博士」という名前をご記憶にとどめていらして、大人になってから読み返そうとしたらどこにもそれがなくて「あれ???」と混乱した方もいらっしゃるだろう。 ジョバンニに「銀河鉄道に乗って旅をする

        • 王への報告書 24

          術後2か月が経過した。 傷はまだ赤黒いスジに見えるけれど、次第に横一線に近づいてきてかなり落ち着いたように思う。 疲れると出る痛みも頻度は下がってきているようだ。 ホルモン療法薬の内服も、それらしい副作用はほとんど感じない。 乳がんで全摘した事例としては、私はたぶんとても幸運な方なんだろう。 とは言え生活に支障が無いかと言えばそんなことはなく、相変わらず右足の裏が痛んで整形外科通いが続いている。 前回の記事をアップしたのは術後1か月の頃だったが、それから足のリハビリ体操はさ

        仮定の話をしよう 1

          王への報告書 23

          前回の報告から半月弱が経過している。 いろいろなことがあった。どれも地味で小さなことだけど。 職場への復帰は前回報告の翌日から、その日だけ午後の半日勤務で翌日からはフルタイムの予定だった。 が、初日の疲労は予想のはるか上で帰宅後は首がほとんど上を向けないで何もできず、結局その週はほぼ全て半日勤務がいいところだった。 上司はそのあたりをあまり実感として解ってくれていないようで、ちょっと困りものだが、徐々に体は慣れていき、翌週にはなんとかフルタイムに耐えられるようになった。

          王への報告書 23

          王への報告書 22

          取れかけのシートの端っこを押さえて、百均タオルで作った間に合わせのパッドを前開きブラと凹んだ胸のすき間に押し込んでシャツのボタンを留める。 季節が夏じゃなくてちょっと助かったな、と思いながら家を出て病院へ。退院後初めての外来診察である。 受付を済ませて待合室で腰を下ろすとすぐ隣から声をかけてきたのは私の少し後に手術を受けた若いおかあさんだった。 彼女も今日が初の外来とのことで、にわか同窓会状態となる。先に呼ばれた彼女が出てくるときに渡そうと、とりあえず電話番号と名前を書いた

          王への報告書 22

          王への報告書 21

          整形外科でのリハビリと足底板作成はそれから3回の通院を要した。 まずは前回施したテーピングと体操の効果を確認し、作成の方向性を決め、足のうらにテープを貼って歩き、普段はいている靴のインソールから型を取って、と手順を踏んでいき、 完成した中敷きを靴の中に入れてもらった。 靴を履き替えるときは中敷きも替えなくてはならないが、今のショートブーツが楽なので同じ型の色違いをネットで注文しておいた。 「復帰にあたってですが」とスポーツマンっぽい理学療法士が言う。「ひとつ、気をつけていた

          王への報告書 21

          王への報告書 20

          皮膚科へ行った翌日は主人がまた休みの日だった。またぞろ手術だなんだと話すときっと心配されるだろうし、ちょっと疲れてもいたので、整形外科へはその翌日に行くことにした。 注射というのは膝の軟骨が減っているのでヒアルロン酸注入をするためで、入院前に3回終わっているから、予定としてはあと2回でワンクールとなる。 院長先生がお休みでないこともちゃんと電話で確認してから出かける。 職場への動線上にあるこの整形外科を教えてくれたのは、そのご近所に住んでいる長女だ。 すこぶる腕が良く、そし

          王への報告書 20

          王への報告書 19

          術後の入院期間は経過により5~10日、と言われていた。 退院日が術後6日めになったのは曜日の関係と言えるだろう。 午前10時には会計が整うので、9時30分までには準備して病室で待て、とのことだったが、実際には10時をかなり回ってようやく医事課から連絡がきた。 帰宅するには都営バスと電車を乗り継ぐのだが、このバスはそんなに本数が多くはないので、予定の便に乗り遅れるとけっこう待つことになる。 迎えに来てくれた主人は午後は出勤だから実際は焦っただろうけれど、エレベーターを降りて1階

          王への報告書 19

          王への報告書 18

          気圧低下で元気をなくす直前、日曜日の昼食が運ばれてきたが入院後初めて主食が米飯ではなく、スパゲッティだった。おお珍しい、とフォークを取りかけてふと添えられている紙をみるとそこには、 米飯180g と、そう記してあった。かたくなな主張(笑)。 おそらくは食事量の基準として記されていたのだろうけれど、もうこうなると私につけられたコードネームのような気がしてくる。 家族へのLINEにそう送ったらすかさず上の娘から返信が来た。 「米飯180g、調子はどうだ?」 ハロー。こちら

          王への報告書 18

          王への報告書 17

          術後2日めは順調に経過した。リハビリでは廊下を行ったり来たり5分以上も歩いてちょっと汗をかいたり、左腕もよく動くようになってきた。 「明日は私おやすみしますけど、サボってたら月曜日すぐ分かりますからね。」と療法士 さん。 このぶんなら腕に支障が出ることはまず無いだろうと思うけど、リハビリをサボればたちまち可動域制限が出ることは実感として解った。 大丈夫よ、ちゃんとやっておくからね。 傷の状態も特に変化はない。くぼんだお皿に乗ったちょっと平たいハム。 ドレーンバッグに吸い込まれ

          王への報告書 17

          王への報告書 16

          事前に渡されたクリニカルパスには「術後の初回歩行には看護師が付き添います」とあったので、翌日になって導尿管を抜去したらトイレに付き添ってくれるのだろうと思っていた。 午前6時頃だったと思う。看護師がやってきてバイタルや蓄尿バッグ、ドレーンバッグなどを見てくれたあと 「少し歩けますか?」と言う。少し前にフットポンプは外されているから歩けると言えば歩ける。言われるままそっと体を起こしゆっくりと靴を履く。(転倒リスクがあるのでサンダルは禁止) 点滴を引っかけたポールをたよりに立ち上

          王への報告書 16

          王への報告書 15

          朝6時。灯りがつき、検温・血圧測定などのために看護師が訪れる。 今日は朝から食止め。手術開始予定は13時。歯を磨き、常用している薬だけを服用し、それを皮切りに経口補水液を飲み始める。 11時までに飲み終えるためにペースを決めて、15分ごとに冷蔵ボックスから取り出してひと口。テレビを見たりスマホをいじったりしながらだと15分はすぐに経過する。 ひと口ずつを延々と繰り返し、予定通りOS-1を2本飲み終える。あとは手術用の病衣に着替えて貴重品をしまい、カギをかけるだけだ。 主人か

          王への報告書 15

          王への報告書 14

          入院前日の退勤時間、 「明日から休みます。よろしくお願いします。」と頭を下げて職場を出た。 17時を回ったあたりで電話が来なかったから、PCR検査で陽性は出なかったと思われるが、それでも入院当日の朝までやっぱり不安は消えなかった。 主人に付き添ってもらい、病院の売店でOS-1を2本と、テレビ用のイヤフォンを買ってから、入院受付に入る。 術前の水分補給は経口で行い、点滴は術後のみなのだそうだ。説明のあと5Fの病棟へ上がるが、主人は立ち入れない。今もコロナへの厳重な対策が続いて

          王への報告書 14

          王への報告書(短信)

          3月4日、手術が終わりました。 リンパ節郭清ありませんでした。 順調に回復中、と思われます。 詳細は帰宅してから。

          王への報告書(短信)

          王への報告書 13

          主治医は今日も優しく、「体調はどうですか?薬の影響はありませんか?」と聞いてくれるが、ありがたいことにほとんど副作用らしいものは感じていない。いつもより少し汗をかきやすいのと、時折眠気が出るくらい。 「ほんとに効いてるのかなと思うくらいです(笑)」と告げると、「短期間だから劇的に効いたかどうかはわかりませんが、少なくとも悪化することはありません(笑)」と答えてくれる。そして、 「お待たせしました。3月〇日に切りましょう。」と思いがけず初旬の日程を告げられる。今のところ順調

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