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10年目

何が10年目かというと「生協」、正式には「東都とうと生活協同組合」の配達サービス。

10年前の1月、次男妊娠中に利用し始めた。

2012年1月、妊娠34週の妊婦健診にて切迫早産の診断。

「このまま診察台から降りたら一歩も歩いちゃダメ。車椅子で病室に行ってね。」

突然の入院。
家に残してきた長男と長男をみていてくれた母、出社していた夫にも衝撃が走る。
でもおなかの赤ちゃんのため。

ウテメリンという張り止めの経口薬を飲むと、激しい動悸がして手が痺れた。

「あともう少しおなかにいてね。がんばろうね。」
張ってくるとおなかに手をあてさすり、病院のベッドでひたすら本(村上春樹)と雑誌(暮らしの手帖)を読んでいた。

一週間後、退院。

36週を過ぎるまでは服薬を続け、自宅にてトイレとお風呂以外横になっているように、家事は36週まで極力しないようにの指導。
育児はパパやばぁばにお願いしなさい、と。

もうすぐ3歳になる長男。 
夫が出来る限り早く帰ってきてくれたことや、二世帯住宅で、同じ家のなかに実母が住んでいるのが救いだった。

◇◇◇◇◇◇◇

自宅での二週間「動いてはいけない期間」中、母の仕事仲間が「東都生協」を利用している話を聞いた。

カタログから選ぶと、食材を家に届けてくれるシステム。

「宅配、使ってみようか?」
事情を話したところ、東都生協スタッフさんが私のベッドの近くまで来てくれ説明してくれて、その場で申し込んだ。

食材が並ぶカタログを見ているだけでも楽しい。
が、傍には3歳児がいるので、必要最低限なものをパパッと記入しておしまい。

私と一緒に加入した母は、日用品や雑貨などもチェックして購入していた。

生協が届くようになり、主治医から言われていた36週を無事経過。
動ける、動いていいんだと喜びでいっぱいだった。

食材が週1で家に届くこと。
それが出産後にどれだけ助かることか、その頃はまだ実感が湧かなかった。

◇◇◇◇◇◇◇


2012年2月24日。
出産予定日を2日オーバーして、4062gの次男が誕生。

出産時間が21時間だった長男に対して、次男は3時間。

健診時の予想体重よりかなり大きい子を短時間で出産したからか、私は弛緩性出血しかんせいしゅっけつを起こしてしまい、一時的だが、危なかったらしい。
意識が朦朧としていて、後から聞いた。


さらには恥骨結合離開ちこつけつごうりかいにもなり、杖や人の補助がないと歩けなくなった。

「一か月くらいすれば自然に治ります。」

整形外科で言われ、それなら4月の長男の幼稚園入園式には間に合う、と希望を持った。

たった3㎝の骨の開きで、自力で足が上がらない。
パンツを履くにも足が上がらないので、片足ずつ自分の手で持って、足を通す。

常に恥骨周辺にガラスが刺さっているみたいな痛さがあり、動かすとゴリゴリと軋むような音がした。


生まれたばかりの次男が泣いているのに、テキパキ動けないからすぐ抱っこ出来ない。

「ごめん、ごめん、ごめん」と謝りながらイテテテテ…とゆっくりゆっくり抱っこに向かった。

異様に遅くにしか動けない私の様子を見て、家族がショックを受けていた。

「あと三ヶ月くらい入院させてもらいなさい。こんなになっちゃって!」
と嘆いていたのは夫の母。
そうだろうな、この状態を見たら。
出産の出血が多かったので腕にはずっと点滴、足は動かず。

私の母も、どうしよう、ヘルパーさんや赤ちゃんのお世話出来る人を頼まなきゃと思ったとのこと。

周囲の動揺を感じながらも、どうにかして痛みを軽減して自力で動ける方法を考えた。
大丈夫、私はイケる!と湧きあがる闘志があったのは産後ハイだったのだろう。

助産師さんからの有益情報
「『トコちゃんベルトをしてると痛みが少しましになる』って、前に恥骨離開の患者さんが言ってたよ。」

トコちゃんベルトというのは商品名で、産前産後の妊婦さんに人気な骨盤ケアベルト。

早速、家族に病院の売店でベルトを購入してきてもらい装着。
これなら痛いけど前より動ける!
ありがとう、トコちゃんベルト!

雪の降る日に次男と一緒に退院して、自宅での生活が始まった。

◇◇◇◇◇◇◇

我が家は階段が多いので、それが大変。
階段の昇り降りがつらい(出来なくはないが、次男を抱っこすると手すりにつかまれない)ので、歩行に自信が持てるまでは平面移動で過ごした。

あれ、とってきてくれる?
と言うと、すぐに物を持ってきてくれる長男(3歳、この頃は素直だった…)にも助けられた。

家の中で、ものにつかまりながら移動する。
ある時は這って移動しながら。
そんな風にして過ごしていたら、状態は薄紙を剥ぐように良くなってきた。

次男がよく寝てくれる赤ちゃんだったのも大きい。
これが長男だったら…と思うと。
長男は悪魔的に寝ない赤子だった。

良くはなってきても外に買い物に出るのはまだ難しい時期、週一回届く生協からの食材は、笠地蔵からの贈りもののようだった。

◇◇◇◇◇◇◇

次男が来月10歳になる。
相変わらず生協のお世話になっている。

常に空腹を訴える長男(中1)のために、今日も間食を用意する。

冷凍海鮮炒飯、肉まん、牛丼、ドリア、国産小麦のチーズドッグ……長男の好きなもの。
ごま香るまろやか坦々麺、北海道牧場グラタンは次男も好きだ。

5㎏の米を注文する頻度が増してきて、食材が届いた日は満杯な冷蔵庫、冷凍庫が数日後にはスカスカになる。

水曜の今日は、生協が届く日。

あれから10年経つことに驚き、今は恥骨に痛みはなく、自分で難なくパンツが履ける喜びに感謝している。


お読みいただきありがとうございました。

※見出し画像は「みんなのフォトギャラリー」よりKuroさんの作品「バナー2020/12/09」をお借りました。ありがとうございました。





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