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異次元の少子化対策に思うこと

厚生労働省の人口動態統計月報年計によれば、2022年の出生数は 77 万 747 人で前年の 81 万 1622 人より4万 875 人減少した(※1)。10年前の2012年、出生数は103 万 7101人、20年前の2002年は115万6000人だった(※2)。10年で約26万6千人、20年で38万5千人の減少だ。よって日本の大きな問題のひとつであり当然対策を講じなければならないのは明らかだ。
 
今年6月、岸田内閣による「異次元の少子化対策」の概要が明らかになった(※3)。その中で岸田首相は以下のように述べた。

未婚率の上昇、出生率低下の大きな要因は、若い世代の所得の問題です。若者・子育て世代の所得を伸ばし、若い世代の誰もが、結婚や、子供を産み育てたいとの希望がかなえられるよう、将来に明るい希望を持てる社会をつくらない限り、少子化トレンドを反転することはかないません。

令和5年6月13日 岸田内閣総理大臣記者会見

同日発表された「こども未来戦略方針」案(※4)によれば基本理念は以下の3つである。

(1)若い世代の所得を増やす
(2)社会全体の構造・意識を変える
(3)全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する

具体的には、児童手当の拡充。所得制限を撤廃し対象を高校生まで拡大。3歳から高校生までは一律1人あたり月1万円、第3子以降の場合は3万円が支給されることを筆頭に、様々な経済的な支援が行われる予定だ。

確かに子育て支援により子供を生むことの負担を減らし、若い世代に子供を生むことに前向きになってもらうことは大切な少子化対策だろう。だた僕には全く上手く行く気がしない。それはこの少子化対策が、何か階段を2,3段飛ばしているような感覚、もっと前にやるべき事が大きく抜け落ちている気がするからだ。それは未来への希望というようなものではなく、もっと現実的な子供を持つ手段に対する心構えだ。詳しくは後に僕の考えを述べていくがその前に、そもそもの少子化の一番の原因を共有したい。

内閣府発表の少子化社会白書を確認する。平成16(2004)年版で既に少子化の原因として1番に上げているのは晩婚化・未婚化の進展だ(※5)。つまり、若い世代の所得の問題が第一の要因ではないということだ。細かい原因は色々あり、核家族化により多産女性の減少、人工妊娠中絶による結果としての人口抑制、避妊の普及など数多くあるが大きく言えば、晩婚化と未婚化が原因だ。この前提を踏まえるならば、晩婚のカップルが子供を授かる方法と未婚女性や未婚男性が子供を持つ方法にコミットしなければ本当の少子化対策にならないと考える。そしてその第一歩は、晩婚や未婚の人の子供を持とうとする人の心の問題を解決することだ。子供を持つことの情報の整備、つまり不妊治療から生殖補助医療、特別養子縁組・里親制度に至るまでの親になる手段、妊娠と出産、子育てに関して圧倒的な情報の拡充と整備だ。

僕がこのように考える切っ掛けは、まさに自分が晩婚カップルであり、不妊治療の末に子供を授かった経験と、2人目に挑戦したが叶わなかった経験があるからだ。僕の不妊治療の経験から言うと、晩婚カップルに必要なのは情報だ。僕が40代で子供を持とうと決意し不妊治療に入った時に感じたことは圧倒的な情報不足だ。この情報が溢れている時代に情報が足りないなんてあり得ないと思う人がいるかもしれないが、様々な理由で充分とは言えない状況だ。原因は大きく分けて3つある。

1,情報がそもそもない
例えば不妊治療の成功確率は正確にはわからない。不妊治療によって出産した人のデータはわかっているが、不妊治療を受けはしたが出産にはいたらず諦めた人の人数が把握出来ていないからだ。失敗の数が不明のため、分母が不明なのだ。よって成功確率も分からない。この状況を打開するには各医療機関の治療成績のデータ開示が必要だがそのルールやシステムが確立できていない。(※参考文献1より)。

2,情報が見つけ辛い
Googleで「不妊治療 成功率」と検索しても、出てくるのは医療機関のウェブサイトばかりで、載っている情報も不妊治療の成功率ではなく年齢別の体外受精(治療者)の成功率だ。「未婚 養子」(※6)と検索しても出てくるのは相続関係が多い。

3,情報が難し過ぎる
不妊治療、生殖補助医療、特別養子縁組や里親の情報に関しての多くは厚生労働省のサイトに掲載されているが、難しい書き方の場合が多く気軽に読める感じではない。

以上のような情報不足が現状だ。また2人目の不妊治療を諦める際に一瞬頭によぎったのは特別養子縁組という制度だったが、その時に感じたのも情報不足だ。自分の周りに養子を育てている人がおらず、もし養子をとった場合の子供との関係性に不安しかなく諦めてしまった。つまり、情報不足そのものが晩婚カップルや未婚者、同性婚のカップルが子供を持つことを困難にし、子供を持つことに対する不安感を生み出していると考えている。

卑近な例になってしまうが僕が経験した情報が心に作用した例を紹介したい。今年の夏休み、家族で群馬県太田市にあるジャパンスネークセンター(以下、JSC)へ日帰りで出かけた。JSCはその名の通り蛇の施設であり、世界各国の40種類以上200匹ほどのヘビを展示、研究している(※7)。家族三人とも蛇好きではない。ただ、妻は田舎育ちで、幼少期はヤマカガシ(※8)を素手で捕まえて学校に持っていった経験をもつ。だから妻は記念に蛇を首に巻いて写真を撮りたいと意気込んでいた。僕と7歳の娘は勿論お断りだった。JSCに着くと、生きた蛇、死んだ蛇、脱皮した抜け殻の展示のほか、毒のない小さい蛇を触る体験、餌やりの見学など様々な形で蛇についての知識や感覚の情報を取り入れていった。もうお分かりかも知れないが、そうだ、僕も娘も蛇に対する恐怖心は一切無くなり、夕方には家族三人で2.5メートルのニシキヘビと記念撮影していた。このように、情報は恐怖心を無くし、落ち着いて考える事を促進する。

よって僕が考える異次元の少子化対策はこうだ。まずは情報を収集するシステムを作る。各医療機関へ情報を吸い上げるシステム網を作る。そして子供を持つ情報が手に入りやすいような総合ポータルサイトを作り、更新頻度を高く運営管理をする。勿論SNSでの発信も不可欠だ。他の営利企業サイトに負けないように、子供を持ちたい人の目につかせるために予算をかけてSEO対策(※9)も必要だろう。また、You Tubeにて毎週子供を持つ事に関する総合的な知識を得られる番組を作り放送する。サイトも番組も不妊治療のデータ、体験談、同性婚や未婚で子供を持つための法律、特別養子縁組や里親の制度などを難しい言葉でなく、誰でも理解できる平易な分かりやすい言葉で伝える。

以上のような少子化対策をした上でも、子供を持つことの経済的なハードルは存在するだろう。未婚で子供を持つ人、特にシングルマザーなどはこれまで以上の経済的支援が必要だと考える。よって国は今回のような少子化対策もしなければならないのも自明だ。ただ繰り返すが、まずは晩婚者・未婚者・同性婚者への情報の充実。それもしっかり予算をかけて永続的な情報の収集と公開。それによって子供を持とうとする人の不安感の除去。これらがしっかりと運用され無い限り、どんな少子化対策も空転してしまうのではないかと思っている。

<注>

※1 以下参照
令和4年人口動態統計月報年計(概数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/index.html

※2 以下参照
平成24年人口動態統計月報年計(概数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai12/index.html

平成14年人口動態統計月報年計(概数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai02/index.html

※3 以下参照
令和5年6月13日 岸田内閣総理大臣記者会見 | 総理の演説・記者会見など | 首相官邸ホームページ
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/0613kaiken.html

※4  以下参照
「こども未来戦略方針」案
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_mirai/dai6/siryou1.pdf

※5 原因と書かれているのはこの年まで。なぜか2005年からは原因という記述がなくなり、現状・取り組み・重点課題という書き方になっている。
以下参照
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2004/html_h/index.html

※6 実際には、未婚カップルは里親にしかなれず、養子を迎えることはできない。

※7 以下参照
ジャパン・スネークセンター
https://www.snake-center.com/facility

※8 以下参照
臆病な毒ヘビ ヤマカガシを知って! | 損しないニュース | NHK生活情報ブログ:NHK
https://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/news/281171.html

※9 Googe検索で上位に表示されるようにウェブサイトを最適化すること
以下参照
SEOとは何か?仕組みや対策をわかりやすく解説|アクセス解析ツール「AIアナリスト」ブログ
https://wacul-ai.com/blog/seo/seo-howto-start/

<参考文献>

※参考文献1
『生殖技術と親になること――不妊治療と出生前検査がもたらす葛藤』(みすず書房)柘植あづみ 著

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