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太宰治「愛と美について」


 今日、2月3日は檀一雄の誕生日だ。ただ、彼の作品は青空文庫には入っていない。そこで本日は彼と親交の深かった太宰治の作品を取り上げることにしたい。

 そうは言っても正直な所で、太宰治を取り上げるのは腰が重い。世の中には彼を敬愛してやまない人も多いだろうし、何と言っても私は太宰治にある種の苦手意識を持っているからだ。そこの話は関係ないため割愛するが、今回紹介する作品は「人間失格」のように重くなく、教科書の「走れメロス」のような道徳臭い印象もない、短編小説だ。今まで太宰治作品を手にしたことがない人も、それなりに読んだという人にも、是非手にしてみて欲しい。

あらすじ

 ある所に、29歳の長男から18歳の末弟までの5人兄弟が居る。5人は暇を持て余すと、口頭で物語を次から次へと紡いでいく遊びをしばしば行っていた。この日も長男の呼びかけに対して、次女が「老人がいい」と反応したことにより、男性の老人を主人公とした物語を作っていく。

 それでは、今回の推しポイント3点!

推しポイント1.あまりにも個性豊かな登場人物たち

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 兄弟がリレー形式で小説を紡いでいく前に、それぞれが一体どのような人物か、といった説明が逸話と一緒に語られていく。各人のエピソードは創作している話の内容とは関係が薄いものもある。しかし、創作した内容と性格の2つは、カメラのピントがぴたりと合うように、はっきりとした人物像を浮き彫りにするのだ。加えて、それぞれのキャラクターがたっているため、読んでいて楽しい。


推しポイント2.全てをかっさらう⁉ 最後に発せられたお母さんの一言

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 オーケストラの演奏中に唐突に鳴り響いたシンバルのように、ほとんど発言していないお母さんが作中の終わりで発する言葉には、兄弟と共に「!?」と驚いてしまうこと請け合いだ。少しだけ言っておくと、フロックコートとタキシードは同じ物を指していると考えて良いだろう。このことを念頭に置いて、お母さんの発言に注目してみて欲しい。


推しポイント3.「結構ええやん」と言いたくなる、紡がれた物

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 登場人物の誰1人として、作家を生業としていない。それにも関わらず、この5人が作る話は結構面白いのだ。前の人の意図を汲んだり、前の人が脱線しかけた部分をフォローしたりと、チームプレーをしながら物語が良い着地点に到達する。「太宰治が書いたのだから当然」という言葉でも片付けることは可能だが、登場人物達のストーリーテリングの手腕に学ぶことはあるように思う。


登場人物達は、梅雨時に家の中で飲むリンゴの果汁を片手に、物語を創作する。読み手であるこちらも、その湿気の中に混じった爽やかなジュースのような読後感を味わうことができる。現在の季節とは全く合致しないが、ぜひリンゴジュースを片手に楽しんでみて欲しい。

皆様の読書が、より豊かなものとなりますように。

青空文庫 太宰治「愛と美について」

https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1578_44923.html


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