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2023年に読んだ本から10冊を紹介する

みなさん、年末はいかがお過ごしでしょうか。
もうあっというまに、2023年も残すところあと数日。そろそろ今年の振り返りをしてみる時期になりました。

そこで今回は、私が今年1年間で読んだ本の一覧をご紹介するとともに、中でも特に読んでよかった本を10冊紹介していきたいと思います!

①取材執筆推敲――書く人の教科書 |古賀史健

言わずと知れた「書く人の教科書」。2021年4月に発売された当初から、書店でもよく見かけていて、いつか買わないとなと思っていたのですが、今年の5月にようやく購入しました。分厚い本って、Kindleだと手を出しやすいよね。

これまで「センスだよな」と思っていたような部分に、明確に言葉が与えられていて、より自信をもって執筆に挑めるようになりました。

ほかにも、執筆術系ではカルチャーニュースサイト「ナタリー」の社内勉強会の内容をベースにした「新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング」も、より日常的なサイト業務に役立つ内容でした。これも非常に勉強になりました。

②大規模言語モデルは新たな知能か ChatGPTが変えた世界|岡野原大輔

OpenAIがAIチャットボット「ChatGPT」をリリースしたのは、2022年11月。今年は「生成AI元年」といっても過言ではないほど世の中が一変した年だったように思います。いまや世界で1億人以上の人々が利用している「ChatGPT」ですが、意外とそれが一体どんな技術なのかについてまで説明できる人は少ないのではないでしょうか。

そこでおすすめしたいのがこの「大規模言語モデルは新たな知能か ChatGPTが変えた世界」です。生成AI技術の入門書として、おそらく最適な書籍だと思います。なぜChatGPTは、人のように会話ができるのか。それはどのような仕組みで可能になっているのか。仕組みや歴史が分かれば、課題も見えるし、何が得意で何が苦手なのかも推測することができます。

③ウェブ×ソーシャル×アメリカ〈全球時代〉の構想力|池田純一

今年は改めて「ウェブ」についても調べていた時期がありましたね。特にウェブカルチャーの思想がどのような系譜があるのか、それを<全地球>(Global)というキータームを軸に概説したのがこの書籍です。

スチュワート・ブランドとコンピュータ文化がどのような関りを持つのか。ここに、60年代カウンターカルチャーから、90年代のコンピューター革命に至るアメリカ西海岸の思想史が凝縮されている、といったら言い過ぎでしょうか。とにかく、インターネットが新しい局面を迎えるいまの時代だからこそ、この30年間を改めて考え直すことは重要だと思います。

④デカルトからベイトソンへ――世界の再魔術化|モリスバーマン,柴田元幸

今年一番影響を受けた本です。「ウェブ×ソーシャル×アメリカ」の問題を考えていくうちに、改めて落合陽一氏の書籍を読み直したところから出会いました。実はこの本、推薦文にて落合陽一氏に「『魔法の世紀』と『デジタルネイチャー』を僕に書かせた」とまで言わしめた書籍なのです。

この本はとにかく、脱近代論のごった煮のようなもの。「近代は脱魔術化の過程である」と語ったのは、マックス・ウェーバーでした。しかし、実際に近代は「脱魔術化」を果たせたのか。近代的な世界観が構築され始めた、近世初頭のルネ・デカルト、フランシス・ベーコンまで遡り、この世界観がいかに「構築された」ものなのかを解き明かす。そして、B面思想史として受け継がれてきた地下水脈としての”カウンターカルチャー”を描き出す。

かなり鮮烈に、「近代」の問題点と、「近代」の脱構築を試みる「再魔術化」の論は、私を改めて「脱近代論」へといざなった重要な転換点となりました。

⑤自由の哲学|ルドルフシュタイナー,高橋巖

そして、これも大きく衝撃を受けた書籍。結局、ルドルフ・シュタイナーの原典は『自由の哲学』しか読破できませんでしたが、「自由論」を健全に発展させるうえで、非常に重要な参照点となっています。

ルドルフ・シュタイナーというと、シュタイナー学校をご存じの方はいらっしゃるかもしれない。あるいは、「人智学」や「神智学」など少しスピリチュアル系の、怪しい人物だという印象を持っている人もいるでしょう。確かに、「神智学」以降の後期著作群は、あくまで特殊な形での知の在り方を議論しているような印象を受けます。しかし、この「自由の哲学」に関しては、人智学系に固有な超越論にまでは発展せず、あくまで「人間の自由」がどのように成り立つのか「思考の特異性」はどのように成立するのかを哲学として論じています。

個人的に、「自由意志」のいわゆる「ハード・プロブレム」を矛盾なく乗り越える統一一元論に辿り着くことができたきっかけとして、本書は大変学び深い本でした。

⑥原始仏典|中村元

「仏教を勉強するならまずは中村元先生の本を読め」。そんな話をかなり以前にどなたかから聞いた記憶がありました。仏教には前々からシンパシーを感じていて、いつかしっかり勉強してみたいなと思いつつ、なかなか手が出せていませんでした。改めて、モリス・バーマン『デカルトからベイトソン』、ルドルフ・シュタイナー『自由の哲学』と、脱近代論を補強していく中で、やはり東洋思想についてはベーシックな知識を持たなければならない。そう思い手に取ったのがこの『原始仏典』です。

『原始仏典』は、初期仏教の「スッタニパータ」「サンユッタニカーヤ」などパーリ語仏典をベースに、釈尊の生涯や仏教の成り立ちについて紹介する入門書。これまでなんとなく聞いたことがあったたとえ話や用語が、なるほど、本来はこういう意味だったのか、という発見も多く、とても勉強になりました。

仏教系の書籍については、他にも(毀誉褒貶がありますが)鈴木大拙による『大乗仏教概論』や、中公文庫BIBLIOから出ている『法華経 真理生命実践』。また、日本仏教を考えるうえでは外せない『老荘思想を学ぶ人のために』なども読みました。

⑦ハイパーアクティブ:ADHDの歴史はどう動いたか|マシュー・スミス著;石坂好樹,花島綾子,村上晶郎訳

今年は、7月にADHDの診断を受けたこともあり、精神医療関連の書籍も多く読んでいました。『よくわかる精神医学の基本としくみ』『精神病治療の開発思想史:ネオヒポクラティズムの系譜』などなど。そんな書籍の一群として手に取ったのがこの『ハイパーアクティブ:ADHDの歴史はどう動いたか』です。

精神医療については、モノによっては本当に偏ったものがおおく、適切な書籍を見つけるものに苦労します。本書は、特にADHDの「歴史」に着目をしており、中でもこの混沌とした「精神医療界」がどのような立場に分類されるのか、それぞれの立場がこの問題にどのように反応し、取り組んできたのかを素描しており、ADHDに限らず精神医療全般について俯瞰してみるきっかけになる書籍かなと思います。

⑧分析心理学|C.G.ユング[著];小川捷之訳

『分析心理学』は、1935年に開かれたユングによる連続講座の講義録。話し言葉で分かりやすくユング心理学の概説が本人によりなされており、原典としてひとつ目に通しておくといい書籍だと思います。ユング心理学については、日本では河合隼雄氏が第一人者として有名です。彼の『ユング心理学入門』も、非常に分かりやすく書かれているのでおすすめです。

今年はほかにも、諸富祥彦氏『フランクル心理学入門:どんな時も人生には意味がある』、上山安敏氏『フロイトとユング:精神分析運動とヨーロッパ知識社会』を読んだりしていました。個人的に、心理学理論は、ユングとフランクルがとっつきやすく、かつ全体性への配慮と、個人の人生の十全な発展を目標に置いており、学びがいがあるように思います。

三冊目の『フロイトとユング』は、心理学というよりは伝記に近いもので、彼らと周辺の書簡などを史料に、精神分析運動がヨーロッパ知識社会史においてどのように布置されるのか、彼らがどのような人間関係の中で各々の理論に辿り着いたのかを明らかにしており、補足として読みがいのあるものです。

⑨ヒッピーのはじまり|ヘレン・S.ペリー著;阿部大樹訳

1960年代カウンターカルチャーにおいて欠かせないヒッピー族。その始まりの地、ヘイト・アシュベリーで彼らに交じり参与観察を続けた女性人類学者の鮮烈な記録。当時の空気感がどのようなものだったのか、そこでは一体何が行われていたのか、ヒッピーの解像度を高めるために必読の書です。

特に「無料商店」の章にて紹介されていた、ディガーズによるフリーショップと、ヒッピーのお金の価値観には、魂を揺さぶられました。

⑩全体性と内蔵秩序|D.ボーム著;井上忠,伊藤笏康,佐野正博訳

最後は、1980年代に理論物理学デイヴィッド・ボームが提唱した『全体性と内蔵秩序』。近代思想、ひいては近代科学において最も基盤となる考え方が「要素還元主義」です。この考えは、物事を独立する諸要素の分けて、その相互作用を分析することで、変数を明らかにするというもの。しかし、量子力学の場においては、不確定性原理によりこの要素還元的見方が適用できない。なぜこれが発生するのか、についてボームが提案するのが『全体性と内蔵秩序』です。

現代のあらゆる思考様式に浸透してしまった、断片化を、一つの洞察に過ぎないとし、より包括的な洞察へと導いていく内容。通常の思考様式で捉える、形態の認識こそが「抽象」された形であるとする、かなり挑戦的な理論展開は注目です。

要素還元主義を包み込む、全体主義(ホーリズム)の原理について、理論物理学者の立場からかなり明確に、その理論づけを与えているという点で、頭が整理される読書でした。

その他、読んだ本のリストを大公開!

No. 資料名 著者 日付
1. 貧乏するにも程がある~芸術とお金の“不幸”な関係~(光文社新書) 長山靖生 2023/03/16
2. イラスト図解式この一冊で全部わかるWeb技術の基本 小林恭平,坂本陽,佐々木拓郎 2023/04/27
3. 初心者からちゃんとしたプロになる WordPress基礎入門 ちづみ,大串肇,さいとうしずか,大曲果純 2023/04/27
4. ひとり広報の教科書 知識ゼロからでも自信を持ってPR活動ができる! 井上千絵 2023/04/30
5. 新版 広報PRの基本 この1冊ですべてわかる 山見博康 2023/04/30
6. 取材執筆推敲――書く人の教科書 古賀史健 2023/05/01
7. 新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニングできるビジネスシリーズ 唐木元 2023/05/01
8. ウェブ×ソーシャル×アメリカ 〈全球時代〉の構想力(講談社現代新書) 池田純一 2023/05/08
9. 角川インターネット講座4 ネットが生んだ文化 誰もが表現者の時代(角川学芸出版全集) 川上量生 2023/05/08
10. バーチャルコミュニティ ハワード・ラインゴールド著;会津泉訳 2023/05/11
11. 再起動(リブート)せよと雑誌はいう 仲俣暁生[ほか] 2023/05/16
12. オンラインマガジンを読み倒す 仲俣暁生 2023/05/16
13. 雑誌メディアの文化史 吉田則昭 2023/05/16
14. 李鴻章 東アジアの近代(岩波新書) 岡本隆司 2023/07/05
15. 発達障害サバイバルガイド――「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47 借金玉 2023/07/25
16. 大規模言語モデルは新たな知能か ChatGPTが変えた世界(岩波科学ライブラリー) 岡野原大輔 2023/08/01
17. デカルトからベイトソンへ――世界の再魔術化(文春e-book) モリスバーマン,柴田元幸 2023/08/08
18. 自由の哲学(ちくま学芸文庫) ルドルフシュタイナー,高橋巖 2023/09/01
19. 原始仏典(ちくま学芸文庫) 中村元 2023/09/01
20. 神智学(ちくま学芸文庫) ルドルフシュタイナー,高橋巖 2023/09/05
21. 大乗仏教概論(岩波文庫) 鈴木大拙,佐々木閑 2023/09/09
22. 法華経 真理生命実践(中公文庫BIBLIO) 田村芳朗 2023/09/19
23. 神秘主義を学ぶ人のために 久野昭 2023/09/28
24. 老荘思想を学ぶ人のために 加地伸行 2023/09/28
25. シュタイナー哲学入門 高橋巖 2023/09/28
26. ルドルフシュタイナー:思考の宇宙 中村昇 2023/09/28
27. オウム真理教の精神史:ロマン主義・全体主義・原理主義 大田俊寛 2023/09/28
28. ニューアカデミズム:その虚像と実像 新日本出版社編集部 2023/09/28
29. よくわかる精神医学の基本としくみ 武井茂樹 2023/10/03
30. 心理学 浦上昌則,神谷俊次,中村和彦 2023/10/03
31. 精神病治療の開発思想史:ネオヒポクラティズムの系譜 八木剛平,田辺英 2023/10/06
32. ハイパーアクティブ:ADHDの歴史はどう動いたか マシュー・スミス著;石坂好樹,花島綾子,村上晶郎訳 2023/10/06
33. ユング心理学入門 河合隼雄 2023/10/17
34. フロイトとユング:精神分析運動とヨーロッパ知識社会 上山安敏 2023/10/20
35. フランクル心理学入門:どんな時も人生には意味がある 諸富祥彦 2023/10/20
36. タロット大全:歴史から図像まで 伊泉龍一 2023/10/20
37. 友愛と秘密のヨーロッパ社会文化史:古代秘儀宗教からフリーメイソン団まで 深沢克己,桜井万里子 2023/10/20
38. 響きの科楽:ベートーベンからビートルズまで ジョン・パウエル著;小野木明恵 2023/11/13
39. 分析心理学 C.G.ユング[著];小川捷之訳 2023/11/13
40. 知覚の扉;天国と地獄 オルダス・ハックスレ-著;今村光一訳 2023/11/13
41. オンザロード ケルアック著;青山南訳 2023/11/13
42. ヒッピーのはじまり ヘレン・S.ペリー著;阿部大樹訳 2023/11/13
43. アメリカ文化史入門:植民地時代から現代まで 亀井俊介 2023/11/13
44. 全体性と内蔵秩序 D.ボーム著;井上忠,伊藤笏康,佐野正博訳 2023/11/30
45. タイプ論 C.G.ユング[著];林道義訳 2023/11/30

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