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推しの落語を聴きにいったら本気の落語愛をうけとった話

『いまハマってるものは何ですか?』と聞かれたら、落語と即答している2023年下半期のアキです。

ずいぶん昔からお笑いは好きでそのなかに落語も入っていて、20代のころから飛行機に乗ったらイヤホンつけて落語チャンネルに合わせたり、鹿児島で誰かの独演会があると足を運んだりはしていたんです。でも、まぁその程度。推しの落語家さんがいるとか、この噺がたまらない、みたいなレベルではなかったかな。


推し落語家ができたコロナ禍

コロナ禍になりYouTubeでお笑いを観ることが増えた2021年か2022年のころ、春風亭一之輔チャンネルに出会いました。

私がまず目にしたのは、一之輔さんが10日間、毎日浅草演芸ホールという老舗の寄席でトリを務めるはずだった時間帯(20:30〜21:00)にYouTubeで落語を生配信していた動画のアーカイブ。

2020年、東京に緊急事態宣言が出て、世の中の、人が集まる場所がすべて閉じられたころ。もちろん寄席もぜんぶclose。落語家さんが仕事をする場が、お客さんに落語を聴かせる場がゼロになったころだったのです。


推し落語家、一之輔さん誕生

本当は何千円かお金を払わないと聴けない真打の落語を、無料で配信している一之輔さん。それはすべて落語を絶やしたくないから、落語を忘れてほしくないから落語をもっと広めたいからの一心でした。つらい状況の人たちの心が落語で少しでも晴れてくれたらいいなコロナが落ち着いたらまた寄席に足を運んでほしいな、そんな思いで配信していると話されていたと記憶しています。

無料だからといって手を抜かない。配信されている落語はどれもしっかりと30分~60分ちかくある素晴らしいものばかりだし、枕(ネタに入る前の小噺みたいなもの)も軽やかで、ちょっと皮肉まじりの時事ネタも入っている絶妙なものばかり。一之輔チャンネルを観てひと笑いしてから寝るのが日課になった。そう、ここで推し落語家、誕生です。

リアル独演会でますます推し感高まる

こうして誕生した推し落語家、春風亭一之輔さんのリアル独演会に初めて行ったのが2023年の4月。笑点へのレギュラー出演が始まった年でチケットが売れるのも早く、かなり後ろの席しか取れなかったけど、とにかく初めてのリアル推し。

「らくだ」という噺での酔っ払いぐあいがすごかったんです。もちろん本当に酔っ払うわけじゃないのですが、乱暴者の兄貴分ですごく強面、無理難題を押しつけてくる男を相手に最初はペコペコしていた屑屋(くずや)が、強引にお酒を勧められるがまま飲むごとに少しずつ口調が強くなり、くだを巻き、挙げ句の果てには相手と立場が逆転して、最後には怒鳴りつけるほど強気になっていく様子をみごとに表現。後方の席からも本当に飲んでるんじゃないか?と疑ってみたり、なんだか自分まで一緒に酔っ払った気にもなるほど(これは言い過ぎ。笑)の表現力でした。

一緒に行った母も大喜びで、リアルの落語はやっぱいいなぁ〜、また行こうね、と約束した帰り道でした。

人って飲んでなくても酔っぱらえるんだね

推し落語家ふたたび


そうこうしているうちに、2023年11月。またもや鹿児島で一之輔さんの落語を聴ける機会がやってきました。今度はチケット発売日に前から二列目を確保!(もちろん母も一緒^^)。

今回は独演会ではなく、何人かの落語家さんが高座にあがる落語会。江戸落語でいうところの「真打」級の方々の話がたっぷり聴ける。もちろんお目当ては一之輔さんだけど、他の落語家さんもとても楽しみに出かけていきました。

一之輔さんはお二人目に登場。次の会場への移動時間もあるとのことで早めの登場でした。いつもの出囃子(噺家が高座に上がるときに流れる入場曲のようなもの)が流れ、ひょひょいっとした感じで下手(しもて)から出てくる。この感じもすき。
枕は、一人目の噺のときに居眠りしてたんじゃない?などとお客さんへの皮肉を込めてみたり、下手な落語家では居眠りできないんだよ、うまい落語家じゃないとね、っとフォローしてみたりから入る。

この日のネタは「天狗裁き」。昼寝をしていた喜八が女房に起こされる。喜八は寝言を言っていたようで女房に「どんな夢見てたの?」と尋ねられるが喜八は正直に「見ていない」と答えた。女房は「人に言えない夢を見てたのね!!」と怒りはじめて、挙句には激しい夫婦喧嘩に。その喧嘩を仲裁に入った隣家の男とも同じ流れで喧嘩になり、それを仲裁に入った大家、訴え出た奉行所、木に吊られた喜八を助けにきた天狗、とも同じように言い争いをしていくというのがざっくりとしたあらすじ。

実はこの噺、一之輔チャンネルの配信で聴いたことがあったので、あらすじは大体覚えています。オチもわかっています。それでもどんどん噺の世界に引き込まれていくのが落語の、一之輔さんのすごいところ。一之輔さんの話術、座布団に正座しているはずの身体を半分以上前に上に乗り出して手を叩き、床を打ちならし、言い争いの景色を見せてくれる。喜八と女房が喧嘩している長屋に、大家が訴え出た奉行所のお白洲に、喜八が吊るされた大きな木の近くに、まるで自分もそこに居るみたいに引き込まれていく。一瞬、殺気を感じるほどすごい迫力でした。
そして、何度も座席の背もたれに頭をぶつけるほど大笑いしました(≧∇≦)


笑うことで免疫力アップ

もしかしたら怒っているのかな?と思ったのは実は落語愛だった

高座の途中「もしかして、一之輔さんは怒っているのかしら」と心配になった瞬間がありました。当日は残念ながら会場が満席ではなかったことと、枕で「居眠りしていた人がいた」と言っていたのは本当なのかもという思いがよぎり、それで怒っていらして、その怒りが高座での迫力に乗っていたのかしらと安直な想像をしたのです。
でも、その想像はすぐに打ち消されました。噺の途中で一之輔さんはそれまでのあらすじを整理してくれた時間があったのです。ちょうど喜八が大家さんと言い争いをして、大家さんが奉行所に訴え出る!と言い始めたころでしょうか。「みなさん、ついてきていますか?ここまではこういうことが起きて、今からこういうことになっていくところなのです。」とそれまでのあらすじを説明してくれました。(落語を初めて聴くお客さんも想定しての神対応)

このひと言で、緊急事態宣言の最中、無料で高座を生配信していた一之輔さんの落語愛を思い出しました。会場が満席ではないことへの残念感は少なからずお持ちだったかもしれません。居眠りしていたお客さんもホントにいたかもしれません。(本題が昼寝を題材にしたネタだったので、その振りだとも言えます。
だからこそ、落語ってこんなに面白いんだぞ!次もまた聴きにきたい、次は友達連れて聴きにきたい、て思ってもらえるよう、その落語愛を全身全霊で私たちに伝えてくれたのだと今は思っています。

落語は生舞台がいいね


こうして今年2度目のリアル推し活は終了。一之輔さんの落語は話術や表現力はもとより、その場の空気をグッと自分のものにする力が尋常じゃないです。研修講師の末席にいる身として、めざす境地の一つだと憧れています。
そしてやっぱり生舞台は違いますね。YouTubeでも落語は楽しめますが、生舞台の後ではやっぱり物足りない。またきっと落語を聴きにいくぞいつかは寄席に行ってみるぞ、と一之輔さんの落語愛を全身で受け取って、つぎの推し活の機会を狙っています。よかったら皆さんも落語を聴きに行ってみませんか。
※11月26日(日)に三たび、来鹿されます。「プチシネマ落語」で検索を。


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