「日常/非日常」

今から十数年前、タイ関連の某写真コンテストがあってほんの気まぐれにフォトエッセイ部門というのに応募してみた。

カンボジア国境からもほど近いチャーン島で撮影した写真に文章(400字以内)を加え、「日常/非日常」というタイトルを付けた。結果、佳作だったか入選だったか正確なところは忘れたけれど、そんな感じの賞を頂き、賞品としてセラドン焼きの茶器セットが送られてきた。 

「非日常」的だった物事が突如「日常」になってしまった今、旅に出られない状態が続いている。

とっくに成人したであろうあの時の少年僧たちは、今でも彼らの「日常」として、毎朝浜辺を歩き続けているのだろうか?

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 「日常/非日常」

この島の美しさに加え、日ごろの喧騒や仕事から解放されたことで気が緩んだのか、昨夜は幾らか飲みすぎた。明け方、トイレで目が覚める。時計を見ると6時前。友人たちはまだ皆ぐっすり眠っている。

窓から差し込む鋭い朝日につられ、カメラを持ってビーチに出る。ふと気づくと、遠くの渚をこちらに向かってくる人影。先頭には初老の僧侶。その後ろを一列になって歩くのは10人ほどの少年僧たち。

誰もが皆寡黙で穏やかな表情を浮かべ、托鉢の壺を大事そうに腕の中に抱えている。僕はただじっと、身動きもできずにその様子に見入った。

僧侶たちは、緩やかに、しかし揺ぎ無い足取りで波打ち際を歩いてくる。僕たちと違い、彼らにとってはこの場所・風景は紛れもない日常なのだ。

目の前を通り過ぎる瞬間、彼らが身に纏っているオレンジ色の華やかな袈裟が朝日を浴び一層鮮やかに輝いた。僕は彼らの日常を邪魔しないよう、そっとシャッターを切った。

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