見出し画像

中国経済安全保障関連法令の最新動向について

文責:張楚然

はじめに

近時の米中関係は、人権、軍事、セキュリティ問題をめぐって激しく変動しており、緊迫状態になっています。この状況の中、10月16日、中国共産党第20回全国代表大会(以下、「第20回大会」という)が開催され、経済安全保障分野の動向についてもこれまで以上に注目されています。本稿では、中国における経済安全保障体制を踏まえ、近時の経済安全保障関連法令の動向について紹介いたします。

一、中国における経済安全保障の位置付け

第20回大会において、習近平国家主席は、経済安全保障について、「総体国家安全観を堅持し、国家安全を構築・維持するために・・・人民の安全を目的とし、政治の安全を根幹とし、経済の安全を基礎とし、軍事、科学技術、文化、社会の安全を保障し、国際的な安全保障の推進を土台とし、内部安全と外部安全を統合する」と述べています[1] 。要するに、中国における経済安全保障は、国家安全の基礎であることを宣言しています。

中国における経済安全保障の体制は、国家安全委員会を指導機関として統一的に管理されています。国家安全委員会は、国家主席、副出席、外交部、国防部等の責任者より構成されており、中国の国家安全保障のあり方、指針又は政策を決定しています。そして、国家安全委員会は、「総体国家安全観」という国家安全保障の基本原則を打ち出し、「経済安全」を保障することを強調しています。

第20回大会では、中国の現指導体制が維持されることになったため、今後、国家安全委員会を中心とする国家安全保障体制も基本的に維持されることとなり、経済安全の基礎的な位置づけについても変化することはないといえるでしょう。

二、近時中国の経済安全保障関連法令の動向

中国における経済安全保障に関する法令は、主に輸出・輸入管理規制、投資管理規制、反制裁措置の三つの分野があります。以下、それぞれの分野における主な最新動向を紹介します。

1 輸出管理規制

2022年4月22日、商務部は「両用品目輸出管理条例案」を公布しました[2] 。本条例案は、行政規則として、個別又は包括の輸出許可制度、輸出先のリスクレベルに対する管理、最終ユーザー、用途管理等を定めており、これまで様々な法令に分散していた両用品目の輸出管理規制を統合しています。また、本条例の注目するべき点としては、管理品目リスト、再輸出、みなし輸出、外国政府による訪問・審査の受け入れがあげられますが、特に管理品目リストにおいて、規制対象となる具体的な両用品目の種類が定められることになり、実務上大きな影響を与えることが予想されます。

2 反制裁措置

これまで、反外国制裁法に基づく反制裁措置については、計4回実施されています。2022年に入ってからは、2月21日に、アメリカのロッキード・マーチン社とレイセオン社に対して、9月16日に、ロッキード・マーチン社CEOとテッド社CEOに対して実施されました。また、いずれの措置もアメリカによる台湾への武器供与問題を背景にしていると推測されますが、中国当局は制裁の内容を公開しておらず、執行状況については不明確となっています。

3 投資管理

投資管理分野における法令の動向としては、2022年5月10日に、国家発展及び改革委員会より公表された「外国による投資を奨励する産業目録(意見募集稿)」に着目する必要があります[3] 。本目録は、推奨ガイドラインとして位置づけられており、外商投資法に基づいて毎年修正されています。今年の修正の要点は、主に以下の通りです。

まず、外国による製造業に対する投資の奨励です。中国における外国企業による部品製造、機械製造等の投資推奨項目が追加されており、デジタル産業、設備製造業及び新素材産業における革新的な商品の産出が期待されています。

次に、外国による生産的サービスに対する投資の奨励です。デザイン、技術サービス、技術開発等の投資推奨項目が追加されています。エンジニアリング・コンサルタント、会計・税務サービスの展開を計画している外国企業にとっては大きなメリットとなるかもしれません。また、技術サービスは、最近日本政府が推進しているAIの利用とも関連していると考えられ、日本企業が注目している分野でもあります。

また、外国による中国中部・西部・東北部に対する投資の推奨です。これは、各地域の労働力や特殊資源等の優位性、投資誘致の必要性に基づいて関連する推奨項目が追加されています。たとえば、雲南省では、農産物加工、繊維加工、家具製造が、安徽省や陝西省では、タブレット端末の製造が推奨項目としてあげられています。

三、終わりに

以上、中国の経済保障関連法令の動向について、輸出管理規制、反制裁措置及び投資管理の三つの面より紹介いたしました。上記以外の法令動向もあり、各企業自身の事業内容や発展戦略に応じ、適用される可能性のある法令を特定し、把握しておくことが必要といえるでしょう。

なお、AsiaWise Groupでは、毎月定額で各国経済安全関連法令の立法動向に関する最新情報を提供するサービスを開始しております。米国、中国、EUなどの国・地域を中心として、既存の経済安全保障関連法令の実施状況や制裁事例のみならず、審議中法案等の立法動向や議論状況についてもリサーチしており、毎月のアップデートをまとめて情報提供しております。

また、上記サービスに加え、ご要望に応じ、現地の専門家等との連携も可能です。ご興味のある方は、ぜひAsiaWise Groupまでお問合せください。


[1] http://www.gov.cn/xinwen/2022-10/16/content_5718828.htm

[2] http://exportcontrol.mofcom.gov.cn/article/gndt/202204/626.html
なお、本条例案2条3項によれば、両用品目とは、民生用途を持ちつつ軍事用途ももつもの、あるいは軍事的潜在力の向上に寄与するもので、特に大量破壊兵器およびその運搬手段の設計・開発・生産あるいは使用に用いられる貨物・技術・サービスのことをいいます。

[3] https://hd.ndrc.gov.cn/yjzx/yjzx_add.jsp?SiteId=380


執筆者

張 楚然
AsiaWise法律事務所 アソシエイト
<Career Summary>
2010年より来日し、2010-2014年南山大学総合政策学部、2016-2018年名古屋大学大学院法学研究科博士前期課程総合法政専攻(応用法政)、2018-2022年同研究科博士後期課程総合法政専攻(国際法政)、うち、2021-2022年大同大学にて非常勤講師(日本国憲法)、豊田工業高等専門学校にて非常勤講師(日本国憲法)として勤務。2022年5月にAsiaWise法律事務所入所。
<Contact>
churan.zhang@asiawise.legal


© AsiaWise Group
AsiaWise Groupはアジアを中心に活動するCross-Border Professional Firmです。国境を超え、業際を超え、クライアントへのValueを追求しております。本稿の無断複製・転載・引用は固くお断りいたします。