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タイムパラドックス・ゴーストライターについて

 週刊少年ジャンプの打ち切り漫画「タイムパラドックス・ゴーストライター」。その頃打ち切り漫画のゆっくり解説にはまっていて(なぜ?)、そのうちの一つにこの漫画があった。そこでは欠点や打ち切りになった理由などの考察が述べられていて、どちらかというと「魅力」を語っているわけではなかったけれど、なぜか(あ、これ、好きな漫画だな)という直感があった。

 「空っぽな人間」
 
 「夢を諦めきれない人生」
 
 「本物の天才と凡才」

 そんな言葉が出てきただけで、僕は白米三合を炊く準備をした。

1 あらすじ


 漫画家志望の主人公「佐々木哲平」は、漫画の持ち込みをしては没をくらう日々を過ごしていた。何を書いてもダメ。どれだけ自信を持てた作品でもダメ。漫画家を目指すのを諦めようとしたそのとき、ふとしたきっかけで未来のジャンプ雑誌が送られてきて……という始まり。

 ちなみに未来のジャンプが送られてくるのは電子レンジからだ。シュタインズゲートかな?

 未来の看板作品『ホワイトナイト』にいたく感動した主人公は、その漫画をトレースして原稿を書き上げる。完全なるパクり。最初は自覚もなかったが、連載を勝ち取ってからは確信犯で未来の作品をパクリ続けていくことになる。


 ここら辺の思い込みの強さは、ツッコミポイントとしてゆっくり実況でもいじられている。

 そのうち、本当の作者「藍野伊月」と出会う。彼女は自分が書いていた漫画と同じ漫画を書く主人公を同類とみなし、尊敬し、やがて『ANIMA』を描いて漫画家としてデビューし、主人公と同じ土俵に立つ。そして、「一度」は漫画を書くことに熱中しすぎて過労死という未来を迎えてしまう。

2 本物の天才と凡才


 「他社がうちと同じ材料を使い、同じ工程を真似て、同じものを作ろうとしても、環境や作り手の思いが異なればまったく同じものは作れない」

 小学生のころに行った工場見学で、そんなことを言われたのを思い出した。

 主人公がいくら努力して本物の『ホワイトナイト』に近づけようとしても、どうしてもそこには本物との違いが生まれてしまう。それは劣化版でしかなかった。同じ物語のはずなのに、模写をしているはずなのに、そこにはやはり本物の作者とは異なるものが出てきてしまう。

 「漫画で伝えたいことなんてない。ただみんなが面白いと思うものを書きたいだけ」

 藍野伊月と主人公の思いは同じ。それゆえに彼女から「同類」と見なされるのに、描かれる漫画の"能力の違い"から、その発言の説得力がまるで変わってしまう。
 それを成しえる才能を持った天才と、ただ憧れを抱いてしまっただけの夢追い人。
 未来を作っていくことのできる藍野伊月と、ただ自分の空虚さだけを広げていってしまう主人公。

 夢を諦めないことで何とか毎日をやり過ごし、追うことが「目的化」した夢に縋り付いている僕の姿も、そこに映っている。

3 空っぽでなくなるために


 主人公はとんでもな手段で漫画家として覚醒する。

 ……お気づきになられただろうか。彼は「自分が最高の漫画だと満足できるまで止まった時の中で創作をする」権利を得るのだ。

 未来のジャンプを送り続けていた人物が、今度は「タイムマシン&時間停止」というJOJOもびっくりな超越的な力で主人公にその場を提供する。すべては藍野伊月の夢を砕くほどの漫画を描き、彼女の死を回避するために(ここら辺のいきさつや展開はご愛敬的な部分もある)。

 創作者として最強の環境過ぎて、ずるっ! というか卑怯っ! っていうか……。いつも思っていたことだった。「時間があれば」。

 タイムマシンのない世の中ではただの言い訳でしかない。「時間があれば」書ける物語。「時間があれば」インプットできたはずの知識。日々の生活の苦しみに耐え抜いている間に削り取られていく熱量。忘れていく理想。すり減っていく感受性。でも、それは前提でしかなくて、それを乗り越えたり上手く時間を作っていく工夫の中で、誰しも創作の炎を保っているんじゃないかと。

 主人公に与えられた環境はあまりにチート過ぎて、そんなんできれば誰だってさぁ……としか思えなかった。

 逆に言えば、時を止めた環境の中で自分が満足できるほどのインプットとアウトプットを繰り返さなければ、空っぽな人間から脱却できないという切なさがここにはある。最終的に僕が感じ、記憶に残るきっかけとなったのはこの点である。

 そんな夢みたいな環境に身を置かない限りは、ずっと空っぽのまま。日々の生活に忙殺されている間に、僕らは終わってしまう。やがて夢を追うこともできなくなる。脳みそをずっと理想だらけの水槽につけておくことはできないのだから。諦めるという「決断」をしない限り、ずっと中途半端に夢を追ったまま、空っぽな毎日をつづけていくしかなくなるのだ、と。

 こんなことを思うのは僕だけなのだろうか? というより、だからこそ、僕は記事を書かざるを得なかった。

 結局、主人公は本物の天才を越え、自分だけのオリジナリティを手に入れる。散々見下されていた編集者を見返し、後ろ向きだった未来もワクワクするものに変えていく。でも、それはその約12472日間のチートがもたらした未来だった。

 ……と、最後は皮肉的になってしまったが、それも込みで楽しめた漫画だと思う。物語を通して逆説的なメッセージを視聴者に訴えかけてくるような映画を観た感覚だ(作者が意図しているものかはわからないが)。様々な切り口で深掘りしていけば、もっと面白い漫画になることもあり得たと思う。

P.S. ヒロインめっちゃ可愛い


 ヒロインがめっちゃ可愛い。女子高生&片目隠し&オタク&引きこもりなのに太陽みたい明るい。しかも中退しているのに制服。お前ずるいよ系ヒロイン、略しておまずる系。大人になり、発育の良さを強調するようなタートルネック姿がさらにオタクを殺す。食べきれなくなった白米はここで消費した。

この人妻スタイルもやばい

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