一人用声劇台本 古城と翼


古城と翼

あらすじ:とあるミステリーハンターが旅先で出会った不思議で幻想的な時間のお話。

登場人物:ミステリーハンター 1(男)

……親父、エールひとつ。え?随分疲れた顔をしてるって?はは、そんなことはないと思うけど。……、なんて。やっぱりあんたには通用しないか。いや、大したことじゃないんだ、ほんと。与太話って思ってくれてもいい。それでもいいって言うなら、聞いてくれるかな。
うん。そう、僕はミステリーハンターじゃないか。世界のふしぎを探すのが仕事で、使命だと思ってる。……おい、違うよ、与太話はこっちじゃない。分かって言ってるだろ。意外と失礼だよなあんた。

……その使命の中で、僕はここ数日間、とある国の古城にいてさ。
イヤ、国名は言わない。悪戯に広めたいわけじゃないんだ。その城のことも、彼女のことも。
は?……ああ、うん。女絡みだよ。期待外れだって?それは悪かったね。拍子抜けついでにもっと驚いてくれよ、彼女、有翼人種だったんだから。
冗談じゃない。あんた、僕はパラノイヤだとでも思ってるのか?残念なことに紛れもなく、真実なんだよ。尤も手元に証拠はないんだけどさ。羽の1枚でも、持って帰れりゃ良かったんだがね。
……うん。そうさ。僕はね。

つい最近、天使を殺した。

綺麗な子だった。アルビノって言うのかな。透けるように肌が白くて、奥の奥に流れる血の色が分かるほど。本当に──本当に、綺麗だった。
僕とその子は出会ってだんだん仲良くなったりして、ポツポツ互いの話を聞かせ合ったりなんかして。この時間が永遠ならって、一体何度思ったことか!……うん、もうそのくらい、特別だったんだ。


あの子はある日僕に言ったよ。「太陽が見たい」って。
彼女、どうも昔っから外に出たことがなかったらしくて。あとから知ったんだが、その、有翼人種ってのはお天道様に弱いらしくて、陽の光の元に出ると焼け焦げて死んじまうのさ。地上の暑さは毒なんだろうな。ほら、よく言うだろ、カエルは人の手の温度で火傷するって。それとおんなじ感じなんだろうさ。勿論僕ははじめやめたらいいって言ったんだ。その時には彼女のこと大層好きだったもんだから。月の下のあんたも綺麗じゃないかって、無理することはないって。だけど、「そうね」って、……笑うその子の顔があんまり寂しそうだったものだから、僕は、もうそれ以上、やめろとは言えなかった。やめろの代わりに、うんって、一個頷いて、笑ったよ。


次の日は快晴だった。馬鹿みたいな冬晴れさ。こっちが泣きたいくらいなもんだ。
僕と外に出たその子はえらくはしゃいじゃって、今日が命日だって言うのに、まるで自分は今生まれたって具合にキラキラ笑って、幸せだわ、ああ、あたし、幸せだわって叫びながら、太陽に手ぇ伸ばして、……そのまま、死んだよ。
真っ黒になってた。炭なんて生ぬるいくらいに。そんで御伽噺の姫さんみたく、泡みたいに消えちまったのさ。僕は──僕は、「ざまあねぇな」って笑って、笑ってさ。笑ったようで、泣いてたよ。


………いや、すまないね。ほんとに、オチも何もない話なんだ。退屈したろう。これはほんのお礼さ。収めといてくれよ。
え?いや、そんな。別にミステリーでもSFでもなんでもないよ。
ただ単に、僕が失恋したってだけのお話さ。
そりゃ敵いっこないって訳だよ。ライバルが太陽ときちゃあ、ね。

おやすみ、親父。多分きっと、もう来ない。

(5分弱)


ちょっとオシャレなダークファンタジー風台本だ。R3/1/27に利用済。良かったら。