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小生とあの夏〜5点ラジオに想いを寄せて〜

小生気になったものはとことん調べ尽くさなければ気が済まないたちで、深く探求する故に派生した別ジャンルへの物事にまで研究対象が移り調べ物に関しては際限がない。なにごとにも興味が尽きない人生であると自負しながら、そろそろ年齢の衰えに応じたスローな暮らしをしたいものだとも考えている。にも関わらず、先日の連休に避暑のため訪れた軽井沢でのドライブ中、たまたまかけていたラジオが小生の心をくすぐったのである。

そのラジオは最近のポッドキャストを紹介する名目の番組であった。ポッドキャストといえば、世界のニュースや英会話、歴史の小話として知識欲を満たす為に通勤中に聞いていたものであるが、ここ数年は自宅事務所で仕事を済ましてしまうことが増え、わざわざアプリを開くことから遠ざかっていた。しかしながらこのラジオ番組によれば、ここのところポッドキャスト界ではバラエティに富んだ内容の番組が増えてきたようであり、小生のポッドキャストに対するイメージとは異なったコンテンツとして、新しい世代に好まれ始めているようだった。

否、今ここで昨今のポッドキャスト事情を語りたいのではない。小生の心をくすぐったのは、番組内で唐突に流れ始めた音楽の方であった。冒頭賑やかな掛け声から始まるその曲は、軽やかなリズムとともに学生時代の淡い恋心をうたうのだった。「好きになってはいけない禁断の恋」それがその曲のテーマのようだ。小生が学生の時代であれば男目線を前提にした若い女性が肌を露出して歌ったであろうその曲を、男性が明るく心地よい声で歌い上げていた。目が合っただけで、恋に落ちてしまうあの頃ーーー。うたごえに乗せて小生は一気にあの時へ、心が飛んでいた。あれは17歳の初夏のことだった。

小生は剣道部員であった。幼少の頃より厳父から、武道制すものは全てを制すと教えられた。言われるままに続けたから段位は取得したものの、根っからの文系であるから稽古の厳しさは苦痛そのもので、楽しいと思ったことがない。剣道といえば年始に寒稽古なる精神修行が行われていることをご存知だろうか。小生の所属する地元サークルでももちろん通例行事であった。炬燵にあたりのんびり過ごしたい年明けの、ガラス戸も凍りつくような凍てつく寒さの中、わざわざの早朝に冷え切った道場に集い寒さと痛みに耐えるのである。裸足というだけでも辛いのに、早朝の凍てつく床は感覚を麻痺させる。その足先で無理やりの摺り足。冷え切った身体に容赦なく打ち付けられる竹刀の、防具を通して骨に当たってしまった時の激痛。何が楽しいのか全くわからないまま、親の言うことに従っていたあの頃、小生は同じエスカレーター式の名門校に通うチアリーダー部に所属していた1人の可憐な少女に恋をした。彼女は遠い存在だった。廊下ですれ違う以外の接点のない、隣のクラスの人気者だった。

小生の生まれ育った東北の冬は寒い

小生がまだ中学生だった頃の寒稽古からの帰り道、自宅のある団地内を竹刀を背負って歩く小生の後ろから、ゆっくりと追い越していくベンツの後部座席に彼女はゆったりと座っていた。暖かそうな薄桃色のフリースに身を包み、ふわふわの巻毛を大きな瞳の周りにたらして、小生のほうを確かにちらりと見た。疲れ切っていた小生の胸はその一瞬の眼差しから送られたわずかなスパークに一気に燃え上がった。天使のような少女を乗せたクルマは小生を追い越した後、あっという間に団地を走り去り見えなくなった。小生はしばらくその場に立ち尽くしていた。全てがピンク色に見え、頬は蒸気し、カチカチに踏み固められた路上の雪がまるで異国の氷でできたお城のように美しいと感じられた。まだ昼を過ぎていない透き通った青い空。彼女の存在を胸に抱けば明日の寒稽古だって乗り切れる。しかしそのあと彼女と偶然に会うことは二度とないまま高校生になった。女にうつつを抜かす者に大成なし、と口酸っぱく繰り返す父の方針にシャイな性格が相まって、小生は女子と会話ができなかった。故にその少女とも話すことはなかったのである。

閑話休題、17歳の夏のことだ。
剣道の県大会に大将として抜擢された小生と、その少女は思いもよらないひょんなことからーーーーーと続けて書きたかったのであるが随分長くなってしまったので後日談としたい。とても暑い夏だった。小生の心もあの時以上の常夏を、二度と経験することはないだろう。

ラジオで流れたのはこの曲であった。

調べると前日に発売されたばかりにも関わらず、iTunes Storeでの国内J-popランキング10位、ドイツでは2位、イギリスでは1位の座を堂々と獲得している。これは彼らのポッドキャストが既に世界中に周知されているということなのだろうか?
軽井沢の別荘についた小生は、備え付けでオーダーしたこだわりの桧風呂で、妻がくつろいでいるそのわずかな時間に、気になったそのポッドキャストについて探ってみたのだった。

ゲイと女の5点ラジオ…MISS VAJA UNIVERSITY…?自己啓発…妄想トレイン…?CHAT GTN…新興宗教2世…インストッキングラマー?道端ドコカの迷い道…マルチの作り方…街角FM…?VAJAJAPON…食べログ選手権?ヒットする単語が、わけがわからないのである。

気持ちを落ち着かせるため、モンテクリストに火をつける。ダークチョコレートの香りが優しく体を包んだ。この連休中に、祭りと称したイベントとトークショーがあったようだ。それらに参加した5点フレンズと呼ばれるファンたちは、各々なかなかにセンスの良いうちわを持参し、あるいはペンライトを用いてお揃いのシャツを身につけ実に楽しそうであった。キャンパス説明会もあったようたがよくわからない。耳にしたことのない大学である。しかしファンらは口々にイベントの開催について感謝を述べ、高じて世界平和をまで願っている者すらいた。その熱量は、先述した17歳の小生を思い返すものであった。小生は、このゲイと女の5点ラジオが一体どういうものなのか俄然知りたくなり、数年ぶりにポッドキャストアプリをインストールした。そしてレビューを開き、更なる混乱に陥ったのだ。(続く)


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